2020年10月6日

2020.10月号  海原


 海原は海程の後継誌です

金子兜太 私の一句


逢うことが便ち詩とや杜甫草堂       兜太

 平成7年、金子先生を団長とする現俳訪中団一行二十名、四川省訪問。杜甫草堂を会場に日中詩人、俳人による合同句会が開催された。四川省の参加者十名、自作の漢俳を披露。熱気に包まれた。当時中国に漢俳という詩型が生まれて十五年。内陸のこの地までこれほど漢俳が浸透していたとは、と先生、大そう喜ばれた。掲句は戴安常の漢俳を受けての一句。句集『両神』(平成7年)より。     大上恒子


梨の木切る海峡の人と別れちかし   兜太

 昭和40年8月、金子兜太師は皆子夫人同行で、青森の「暖鳥」俳句大会特別選者として来県、故徳才子青良師の感化を受け、会友として参加した頃であった。下北半島の尻屋崎へ吟行した折の句。伝統を主体的に取り込む表出の見事さと、俳句の力強さを感じた思い出の一句なのである。句集『蜿蜿』(昭和43年)より。

                                                                                                        須藤火珠男

海原秀句 同人各集より

安西篤●抄出


アマビエを刻して夏至の道祖神   赤崎ゆういち

黙もだという裸のこころほうほたる 伊藤淳子

篠の子やつんつんとする三姉妹   伊藤雅彦

行間の三密麦の穂が痛い      大西健司

夏帽子フランスパン抱き鳥になる  大野美代子

どの鳩もみな首を振るカフカの忌  尾形ゆきお

はめごろしの窓二つ花粉症     奥山富江

躾糸抜いて賢母の大昼寝      川崎益太郎

数頁後には純愛青葉木菟      木下ようこ

平和とは濡れた素足を草に投げ   黒岡洋子

少年の自画像の目の深みどり    小西瞬夏

早桃捥ぐそして逢いたさ急降下   近藤亜沙美

自画像は聖五月という陰影     三枝みずほ

願いを込め隅々を拭く麦の秋    坂本久刀

セーラー服次々羽化す青水無月   すずき穂波

山独活はコロナ自粛の夜も太る   瀧春樹

雑に書くノート卯の花腐しかな   田口満代子

人形も双子ふたつの南風      竹本仰

万緑に小さき鉤裂き夏館      田中亜美

老い孔雀羽根広げたり無観客    田中雅秀

また霧が来て信号待ちの先生    遠山郁好

えごは実にマスクの視線交わらず  野田信章

象番を呼んでいるのは月でした   日高玲

夕焼やニュースは今日の死を数え  藤田敦子

おはぐろ蜻蛉ふわり予言書は失せた 三世川浩司

専門家会議鯰の出たり潜ったり   宮崎斗士

おっとりとAIの声ところてん   三好つや子

喪の家の次の雷光までの闇     武藤鉦二

教室や心の浮巣に一人居る     森 鈴

梅雨晴れやロミオ駿足橋わたる   吉村伊紅美