2020年8月13日

兜太をめぐる人々 2




2019 藤原書店 1800E

兜太をめぐる人々 2

(聞き手 黒田杏子 横澤放川 藤原良雄) 掲載させて頂きました。

-言葉というのは、みんな何らかの、作家は作家なりの肉体性というのを持って

いるわけですが、結社の中にいるとだめなんですね、それがわからなくなる。

兜太 イエス、イエス。まさにイエス。エスプリ。

-うん、エスプリ、大事なのは作家精神ですね。そういう意味での結社精神はいい。

しかしそれを欠いた結社意識ほどだめなものはないんですね。


-ただ[中村]草田男先生は「結社精神」と言つてた。兜太先生は、結社意識と

いうのはほとんど持ってなかった。持つてたの。

兜太  全然なし。

-だから金子兜太はそういう意味では、主宰者だったけど主宰者じゃないような。

兜太 それはね、楸邨がそう言ってた。

-先生を。

兜太 うん、俺を。「金子君はユニークな結社人だ」、「ユニークな結社人として

迎えたい」と、そういう言い方をしてた。それでこっちも、これは行けるなと思ってね。


-先生だけでしょう、最後の最後まで楸邨を離れないで、楸邨さんの結社にいたのは。

兜太 まあ森澄雄みたいに先に死んでしまえば別だけどね。

-森さんだって、楸邨を離れたわけでしょう。

兜太 一応ね。あの男は気が弱いから、形式的にやめるという場合があるんだよ。

―先生から見ると、大体俳壇の人間は全員気が小さいわけですかね。

兜太 いや、意外に違うな。

-違うの、どういうこと?

兜太 歌人の方が小さいんじゃないかな。

ああ、気がね。私もそう思います。

兜太 歌人は非常に細かいですよ。それから人の関係なんかでも、非常に気を使うしね。

それで歌人というのは、俺はあまり合わないな。

- 佐佐木さんぐらいはよかったんでしょう。佐佐木幸綱さんぐらいは。

兜太 幸綱も、幸綱自身の方が気を使ってる、俺に対して。

- 永田宏さんと、特にお親しいわけでもないですか。

兜太 そうね、特に親しいわけじゃないね。

 やっぱり岡井さん。

兜太 岡井も何か、個人として非情にわからんとみろがあるでしょう。魔訶不可思議という感じの。

-まあね。

兜太 悪く言えば頭を回しすぎるというか。

短歌って人間同士のやり取りでしょう。でも俳句なんて、もう完全に自由なんですよね。

兜太 自由だ。

がどう思うかとか、何とかっていう話じゃないわけでね。

兜太 まあ二割引きぐらいで聞いときますけどね。二割引きとすれば、真理です。

-どういうこと、二割引きということは。

兜太 二割引きというのは、少しは気にしていること。

-俳人が全てはそういう人ではないと。

兜太 ないということ。

先生はね、俳人なんかばかにしてるのよ。

兜太 いやいや、私はね、俳人でしっかりした人というのは好きですよ。俳人で

しっかりした人。歌人でしっかりした入っていうのは、あまり好きじゃない。

-歌人でしっかりした人は好きじゃない。

兜太 好きじゃないよ。何だか好きじゃないな。

-まあそうでしようね。要するに短歌って、いつでも自分の作品の社会における

位置づけを気にしてるんですね。

兜太 ああ。

-でも俳句なんていうのは、もう、何というのかな。ほったらかしですね。

-社会性という意味では野蛮ですね、俳句というのはそれで短いからね、すぐ

動かせる。動かしちゃう。

-そうですね。

兜太 で、自分勝手にトップにしちゃったりね。そういうこともできるからね、

これは楽しい世界ですね。

-まあそうでしようね。

でも岡井さんは、金子さんのことを尊敬してんじやないの。

兜太 尊敬かな。そうでもないんじゃないかな。何か、金子のやろうは底意地の

悪いやろうだと思ってんじゃないかな。

-そんなことはないと思いますよ。

兜太 人を上っ面で褒めといて、自分の仲間みたいに言っていながら、本音は

違うんじゃないかというのが(岡井の本音)。そういう裏返しの意見を囗にし

てるんじゃないかな。

-そうはいっても、やっぱり金子先生は、言葉というものがすごく好きなのね。

兜太 好きだ。それで、感覚的に好きだ。

でも草田男さんも好きだったんでしょう、言葉は。

兜太 好きだと思うね。ぶつぶつ囗の中で言ってたね。

-先生、現代の俳人で自分に先行する作家の中では、やっぱり草田男に一番関心が

あるんでしょう。

兜太 まあ草田男でしょうね。

-楸邨というのはどうなんですか。

兜太 ちょっと観念臭が強いね。生で観念臭が出てる。

―主観をこなせないところがありますね、楸邨は。

兜太 そう、そういう意味だね。ちょっと不安だね、あの人のは。

-その主観という意味では、楸邨は「水原」秋櫻子の弟子なんですね。

兜太 そうでしょうね。

誓子はどうでしたか。

-平畑静塔さんが随分と弁護しています。ただ、誓子を大事にするとともに、

草田男のことも大事にしていた。

兜太 なるほど。俺も誓子は嫌いじゃないでよ。ただ何と無く体を、肩肘張って

いる言語感、 あれが気に入らないな。            

―物を見る目に自意識を持たせ過ぎたという感じがしますね、誓子は。

兜太 そう。あんな肩肘張る必要ないと思うな。

- この人はこの人で一代の作家だったんだという。

兜太 いや、ありますね。その時代を代表するという言い方しかしないからね。

―ある意味では、誓子と草田男はもう少し仲よくやっていければよかったんですよね。

兜太 全然人間としてだめでしょうね。これはもう人間の本質ですね。だめでしょうね。

でも草田男と誓子の対談を読んでいると、お互いがお互いのことをよくわかってい

ますね。

兜太 うん、あれは面白いね。面白い。

-わかっててけんかをやってますよ、二人とも。

兜太 何かばかばかしい面白さだな。

―いや、本当に周りにいる人が対談の場で、もうどうしたらいいかわからなくなるような。

冷戦というんですね、ああいうの。

兜太 そうだ。あれは生理的に合わないんでしょうね。

-そうでしようね。お互いにお互いがですね、あれは。対談の言葉の中によく表れて

ますよね。

兜太 心の臓が合わないんじゃないんだ。心の臓では合ってるかもしれんけども

もっと奥の方で合ってないんだよ。

―先生も出会った瞬間相手にまずアッパーカットをくらわすと言つだのは、阿部

完市さんです。「まず会った途端に相手を打ちのめす」とか昔は言つてらしたから。

兜太 阿部君なんか、そういう思いを持つただろう。

―「金子さんはどんなに怒っても、別れた後は温かさが残っているから」つて

おっしやってましたね。それがないから、高柳[重信一さんを離れたと。高柳

さんには阿部さんは買われてましたけどね。阿部さんはやっぱり高柳さんでは

なかったんじやないでしようか。

兜太 おっしゃるとおりだな。若干こっちは意識的にそこへいたね。

ああ、そう。

兜太 阿部に接するときはね。

―金子先生もなかなか戦略的ね、阿部さんに対してね。

兜太 多少ね。

-阿部さんをお好きだったのでしょうから。

兜太 あれは、なかなかタヌ牛のところがあるから。

-タヌキつて、だって阿部さんは精神科のお医者。あの人は大変な方ですよ。

兜太 そうですよ。うっかりすると、やられちゃうからね。

-でもやっぱり阿部さんは、すばらしい人たった。

兜太 そう、すばらしい。

一番よく金子さんを理解されたんじやないでしょうか、阿部さんは。

兜太 それはちょっと。

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