2020年1月28日

句集『鶏頭』岸本マチ子



自選12句

かなぶんに好かれて女盛り越す

六月の地軸はことに軋みおり

かやつり草何故かここから出られない

日焼して父より母より生きている

晩夏光まだ変身の途中です

鶏頭のとさかの様に猛り立つ

自萩ゆれ夢の中までどどと兵

さみしさの前後左右を存という

路地裘におぼろの墓ある那覇の街

春惜しむわたしの中にも駅がある

晩夏いま去りゆくものの影をふむ

大寒がどっかと座る壺の中

毎日新聞『俳句月評』岩岡中政

 岸本マチ子『鶏頭』は、この夜の息づまる自我や反骨を超えた成熟と
ゆとりの世界に遊ぶ句集。自分の生をふり返ってこれを諾い、ふと興が
る心で描く、一寸自在な即興の世界である。と同時に若々しく品格の
ある句も魅力的。沖縄への思いの句もある。

あとがき

  ゆく河の流れは絶えずして
   しかももとの水にあらず  (『方丈記』)

 なんと美しく切ない文章であろうか。八十五歳ともなるとそれが
良く分かる。
いつの問にかそんな年になってしまった。幸せも悲しみも川の流れの
ように時とともに過ぎてゆく。わたしには一体なにがあるだろうか。
何もなくてもいい。
ただ一つだけ爪痕が残せるならば、そんな世迷言をいってみる。
 そんなわたしに力を貸して下さった黒部隆洋様、本当にありがとう
御座居ました。
      令和元年十一月              岸本マチ子


滅亡など思ってもみない青葉木菟

六月はしたたらすもの多すぎて

手花火の闇待ちきれないまま果てて

稲妻ややんばるの森串刺しに

凍蝶はまっくらがりの音がする

かた足はわたしの胸に秋の虹

いつの間にかわたしの両足穂芒に

雑炊に壊(こわ)れた時も闇もまぜ

ひょっとしてわたしも冬枯真っ最中

ただららぬニュースばかりであめんぼう

秋夕焼「まて」の姿勢の犬がいて

どの鍵も合わぬいらだち冬に入る

寒夕焼いまだふきこぼれやまぬもの

よふけという町に来ている大熊座

死の話いともすとんと心太

怒りとはこんな日暮れの草いきれ

大根がはちきれんばかりやさしくて

冬ざるるからだの芯までまっすぐに

行く春のもどらぬ足音聞いている

分からない明日を走る走馬灯
                                          (管理人・竹丸選)


2020年1月8日

句集『敵は女房』並木邑人



略歴
1948年 千葉県市原市生れ
1986年「海程」入会、金子兜太に師事
1992年 現代俳句協会会員、[海程]同人
1994年 父並木凡生句集『帰燕』編集発行、句集『遊陣』発行、合同句集『海程新鋭集第4集』発行
1999年「遊牧」同人
2012年 共著『|現代俳句を歩く』発行
2016年 共著『現代俳句を探るj発行
2018年 師金子兜太逝去、「海程」終刊。後継誌「海原」創刊同人、「遊牧」同人
現 在
現代俳句協会理事 千葉県現代俳句協会会長、市原市俳句協会副会長

帯            檜垣梧樓

宿敵は  ずっと女房   秋ざくら

 宿敵とは実力が伯仲する競争相手のこと。好敵手ともいい、
相手に対する敬意のようなものが含まれる。邑大と奥様は
文学のみならず人問学の競い合いをして来たのでは。それ
も邑人の学生時代から。照れくさそうな邑人の顔が見える
が、掲句、邑大が気合いを込めて表明する奥様への愛であ
る。句集名『敵は女房』の拠って来たる所以である。
                      
自選十句

一角獣座より伝声管の冬ざくら
満員電巾擬態の青柚子をさがす
洗濯機に入れておしまい邑人句集
星読みによき鯨骨の椅子二脚
MRI画像のあっ風花
熱帯夜この寝室も野辺のひとつ
春昼のフンコロガシになってやる
街も春川もことごとく薙ぎTSUNΛMI来る
憲法は死にますか今朝蕗を煮る
シナモンをさっと振りかけ秋霖デモ

管理人 竹丸選
石斛の残んの花を抓むべきか否か
子(ね)の星の青き臼より卍かな
眼薬の一糸の隙(ひま)を星奔る
蟷螂に星刈るしぐさありにけり
夏燕ああ父の愛は黒き鍔なり
稲穂垂る男女(なんにょ)しずかに脱ぎ合えば
鳥帰る空の疲れを縫い込めて
破蓮とても耿(あか)るい船倉です
他界のことと思うな茫とあぜを塗る
海酸漿と咲きし魂あまたの叔父
鰓呼吸したし正論に食傷し
検印の手紙に海の匂いのこと
感情の罐詰届く曼珠沙華
貨車ゆけば枯野の透視図法なり
冬の蝶想像力の先飛べり
蝉の穴虚数を蔵うためにある
屈託はシンプルに咲く煙の木
青谿は星産むところ軍論も
影踏みの影だけ残る寒茜
結界に裏窓がありあけび熟る

 TSUNΛMIの抄
津波。そして時間は動かざり
伝えきれぬ魂であり逃水は
原発のための原発舌苔濃き
根刮ぎという失禁の秋の浜
こめかみに三・一一忌縄を綯う
隠し田に犇めく蝌蚪や地震の報
蛇穴に十万年を何としよう