2018年2月17日

句集「二月四日」京武久美



著者略歴 
昭和11年2月4日、青森市生まれ。
高校時代、中学時代からの友人寺山修司と全国十代俳句研究誌「牧羊神」を創刊、編集発行。「暖鳥」「天狼」「萬緑」「寒雷」「氷海」「七曜」「埠頭」等を経て、現在は「海程」「黒艦隊」に所属。現代俳句協会会員。 

  自選十句 
  天地漕ぐ音して父母のじゃっぱ汁
  春の雪誰もが忘れ物して漂う
  冬の妻へ和紙人形の押し問答
  雪はげしわれを手込めのわれを憎む
  全身葉っぱ母の雲ほどの春がきて
  コスモスやうたた寝のはか流れるだけ
  てんとうむし曝書に溺れ無芸なり
  空っ風鬱を育てて父に及ぶ
  枯野行けば冒頭に男が靡く景
  言い負けいて二月四日の山を見る



  二月四日絵本のなかを泳ぎくる
  梅雨空へのびる樹の目と逢うこともあり
  一月の窓を拭いては人さがす
  満月の雲が山成(な)す刻を老ゆ
  春の木瘤男の愁いはばたきし
  夏の日やわがやわらかき存在記
  雲海や死後の象(かたち)で林檎かじる
  梅咲いてがらくたほどに酔うことも
  老樹ますます枯れを貫く大胆たれ
  えのころぐさ近づけば明日は不思議ないろ
  裸と花火したたるかぎり充(み)ちるかな
  冬に澄んで風化現象のひととき
  干し鰈むしる思想なような虹
  戦争や朴訥なまでの星地獄
  しなやかに妻和紙となる桃の花
  林檎あかりへ思考研けば雨あがる
  雪だるま眼鏡曇れば父の世ぞ
  ふらここや迸(はし)る言葉は休むべし
  草かげろう泣ける語彙ほどみすみずし
  日常の霧山鉛筆ほどの狼煙
  かがんぼや望郷惚(とぼ)けた空に育つ
  葱坊主志というものひびくかな
  秋黴雨まことのことば微熱あり
  草刈れば鏡に未知のわがくらがり
  夏杉の揺れざまは鬱父訪わな
  八月の手紙のように故郷(くに)へ帰る
  胸に雪老いねばならぬときがある
  故郷青葉売るほどの黙(もだ)持ち帰れば
  冬ざれの樹幹に海光(て)るだまされるな
  二月四日蒟蒻噛めば殺風景

 あとがき
 同人誌「黒艦隊」に発表した創刊号(平成八年五月)から五十八号(平成十七年十 一月)までの句を中心に百句選び、句集の題名を誕生日の「二月四日」とした。
誇示できる句はないが、好きな時に、好きな場所で、気軽にページを開いて貰えれば、最高の幸せである。出版にあたってのわがままを、長期間に亘って、あたたかく支援して項いた「文学の森」の皆様に感謝を申し上げる。

   平成二十一年四月三十日        京武久美

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