2018年2月18日

句集『眠れぬ夜にひとりで読んでみろよ』中内亮玄



玄  俳句結社「狼」同人金子兜太に師事
  『虚構による感動の再構築』      亮 玄

この句集は一風変わっている。十話のショートショートと、たった七十一句(主に、二〇〇一年から 二〇〇六年の間に詠んだ七百以上の句から抜粋)の俳句から成り立つこともそうだが、それらの物 語が全でフィクションであるということが、ひとつの試みである。

 あくまで、句のイメージ、句から放たれる匂いのようなものを第一に考えて物語を構築した。句が 先けできているところへ、伝えたいイメージを物語にして逆輸入するようにそれを当てはめたため 一つの物語の中に別の季語が使われているなど、完全にルール違反の箇所もある。なにとぞニュ アンスを許容しながら読み進めて頂きたい。この点、作者の力量不足であり次回の課題としたい。
 ・・・・・・・・・・続く

  色彩や冬の光というだけでも



あの目の朝、君は眠い目をこすりながらふいに質問してきた。シングルベッドだけで半分埋まるような狭いワンルームに、冬の日差しがやわらかく差し込んでいる。僕は、白い壁に当たる光の加減が気に入って、この部屋を選んだ。

 君は、すらりと細い裸のどこも隠そうとしないで、ベッドに脚を組んでタバコに手を伸  ばした。白い肌は寒そうじゃなくて、むしろ寒さが似合うように見えて、雪女みたい。
 きれいな長い前髪を左手でかきあげ、くわえタバコに火をつける。そんな陳腐な動作が、様になってしまういいオンナだった。
  「ねえ、嘘ってさ」
  ・・・・・・・
  「え?」

 いずれにせよ「嘘」 っていう言葉にいつもやましい僕はぎょっとして、ぎょっとしたことに気づかれないように寝ぼけたふりをする。

「嘘ってさ、燃えるゴミ?燃えないゴミ?」
石油ストーブにタバコで火を着けながら、白い壁に向かってひとり言のように問う君が、美し過ぎてちょっとこわかった。
 居酒屋で意気投合して、その日のうちに愛し合って、以来僕の部屋に転が。込んでいる髪の長い女。
どうやら同じ大学の先輩らしいけど、見たことない。
 この人、きっと学校行ってない。
 僕はゆっくり目をつむって、
「不燃物」
自分でも意味がわからないまま、とりあえずその場から逃げるように答えた。
出し忘れた嘘とか二月の燃えないごみ
それからしばらくして、彼女はふいに姿を消した。まだ携帯電話も持っていなかった時代。
そんな別れ方も、そういえばあったね。
あれから何年かたって、今、もう一度質問の意味を考えてみるとやっぱりあの日、
ああ答えたのは正解だったと思う。


手のひらは木枯らし以上かもしれない
結局、五条駅を通り過ぎ、やがて七条駅に着いて、ぐずぐずと電車に乗って、なぜか彼女のアパートのある駅で僕も降りてしまう。
冬バラの忘れっぽくて美しい
駅を出てすぐの大学の前を横切って、二人とも黙ったまま、右に曲がって左に折れて、
小さな公園の横の二階建の学生マンションにたどり着く。
「ここよ。入る?」
その時の彼女の顔を、まだ覚えている。それは、電話ボックスの中の「女」だった。
そこは断りたかった。
そんな隙間につけこみたくない男の意地みたいなものが、幼稚な僕にだって、あった。
でも、そんな時に限って神様はやさしく、二人に冷たい雨を叩きつける。不意の時雨に打たれて二月僕たちは彼女の部屋へ駈け込んだ。人がひとり立ったら狭い玄関で僕たちは息も荒く近づいていた。

そうしたら、なんとなく興奮してきて僕は彼女にキスをした。雨に濡れた冷たい彼女の髪が、僕の頬に貼りつく。
冷たくて感覚のない鼻をこすり合わせるように、唇を吸う。
舌を無作法に絡めると、胸をつかんでスカートのなかに手を突っ込んだ。


でも、電気をつけて部屋に入ってしまうとなんだか二人して、ひどく独りになってしまった。冬のやかん暗いくらい鳴くのです。

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