2017年12月9日

兜太のエッセー 「雪」


 辺地雪舞う殊にバキュームカーのまわり

 西海は佐世保の住、阪口胚子の俳句だが、涯子は医師。八十四歳で他界している。若い頃から俳句をつくっていて、昭和前期の新興俳句運動の有力な作り手の一人だった。
「辺地」という言い方に涯子らしい語感があるわけで、一般的には「過疎地(帯)」「過疎」というところだが、胚子はこうした生硬な語感を好まなかった。

 その荒れて人もまばらな地帯に雪が舞うように降っている。降る、といい切れない感じで降っている。ことに、そこに停正しているバキュームカーのまわりに舞うのが目立つ。バキュームカーそのものが目立つからだが、この車がそこにあり、その向こうに人家があることも不思議なくらいの、草枯れの地帯なのだ。だから人間臭いもの、とくに人工のものは奇異な感じを与えるくらいに目立つ。いつまでも記憶に残って、わびしさを誘う。
そのまわりに舞う雪とともに。

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