2017年11月19日

海程創刊50周年記念アンソロジー【同人の章・な行~た行】

    永 井 徹 寒
路線バスが踊りはじめた 地震だっ
電車不通歩けど行けど首都圏は
歩く群集早や消えてゆく春の夕焼け
津波は家を車を人を ああ神様
瓦礫原をさ迷い親や子見つからず
瓦礫原を舞い舞う風花 ありがとう
ひろしまの空にひと部屋 茜雲
脳ちぢむとき音がする 弾の音
眠って自転とてつもない愉快だ地球
夢は帆を上げ沈めば海の底の貝

  永 井   幸
粥すするくずれし遺跡ゆくような
小鏡に雪ちらちらと巨石群
花満開いつも無口な樹の力
夏薊ぶつかり合うのも挨拶です
夜の秋人はしゃがんで考える
菜種油二合下さいほほえみも
長き夜や嗚呼診断書の簡潔さ
野の枯れのささやく声す手足かな
じんわりとてのひら痒し干菜風呂
いっだって台詞のように雪降りくる



   中 尾 和 夫
梅雨前線父は危な絵見ています
臨終の二月の夜景観て居りぬ
いじめなしとは言わせぬぞ穴惑い
八月の般若心経うぉんうぉん
照葉樹林無頼もお通し下さるか
ひとりごつ癖寒波にも仏にも
サックスよりあふれでてくるひなあられ
水中花臓器切ったり繋いだり
梅林の奥に微酔の集落あり
梅雨冷えのふたり住いの鼓動であり

     長 尾 向 季
なやらいや追われし鬼は街中へ
無表札小市民的に梅雨籠り
頭でっかい青虫戻す梔子に
水すまし自己自己と群をなす
旧街道は秋晴あんぱん安く買ふ
ポン菓子の老婆乾いた星条旗
白亜紀の海老は融けたり曼珠沙華
木枯し一号竹筆では捕まらぬ
越前は時雨重たい掛布団
雁風呂や姉の骨さぞ軽からむ

  中 島 伊 都
どんと火に夫婦の古しラブレター
日脚伸ぶ両手一ぱい水の私語
友達は春の小川のように来る
大勢とはこんな音かや蜆汁
稲光りたちまち青色症候群
炎昼の端をめくって出る一歩
水族館めく夏の夜の美容室
九月来るプラツトホームの端で待つ
小鳥来る人来る森の輝く日
好きになる自分をさがす冬帽子

   長 島 武 治
音たてて沢庵を噛む喪の家族
陽に遊ぶわが看護婦の白い肩
日暮れの妻木の葉一枚肩に貼り
新茶啜る庭師やっぱり無口が良い
絶対に眠ると決めた背ナの稚児
冬至南瓜日向で爆発し損なう
悴みて温泉饅頭なでなでする
蟻千匹骸を曳きに馳せ参ず
捨て案山子眼ばかり生きて藪睨み
寂しくてならぬ鴉が声涸らす
 
    中 島 偉 夫
聴力検査室は二人や釣瓶落とし
散歩者を真下につばめ入国す
毀傷せる身体髪膚草いきれ
つばくろも噴水も必死なんだ
シヤボテンを食う種族ゐて寒の雨
鹿児島(かごんま)は灰(へ)の町じゃど実南天
冬野の灯一つは押しかけ女房ん家(ち)
マチュピチュに在るごとく座す蒲団かな
茄子を焼く底光りするをんな来て
いくたりか陰も映して田を植える

  中 島 ま ゆ み
愚痴一つ最上川(もがみ)に聞かせ天高し
零余子ころころ野仏石ころ頭です
右向いて寝る癖今も柿若葉
月冴える先に死ぬなと子に命令
ピアスゆらら石仏の耳にはちちろ
枇杷の家人は不意打ちくらいつつ
青梅こつん二馬力で子を嫁がせて
母逝きて二人静は咲かぬなり
散骨の亡夫岩になれ夏の山
蕨一本赤子に持たす春だよと

  中 田 英 子
明け早し蝮打ちたる根ぶち竹
クレーン廻る土手の花菜のねむい午後
山棲みの縞目に地酒蝌蚪生まる
桃の花ひびきやすきは大学生
新刊くる五月だなあヘリコプター
手強い手畦地版画の山男
若者を奪い出水禍村を抜け
大花野巨き岩座す吐息かな
蔵の路地風棲みっきし十二月
布団干す瞼閉じいて楽しかり

  中 田 里 美
みみず鳴くかの方丈記あたりまで
少年来て「ん」のように眠る
生活のそよそよ蜥蜴匂うかな
曼珠沙華街がだんだんかたくなる
矢車草コーヒーがにがてです
青インクのところどころが夏かな
鵯の匿しているのは火傷
ナスカの地上絵やつるかめつるかめ
狐火のおなかこわしてしまいけり
大鷺の書き置きのようにかな

 永 田 タ ヱ 子
長かな淋しいときはお湯使う
秋夕焼牛舎にもどる咀嚼音
一本を活けて家中芒原
これからも漂うひとり佛法僧
八月や今年も抜けぬかなしばり
おとうとは風かも知れぬ鶴帰る
「坪谷」と云う谷水響く金木犀
命日や蛇足なかりしなめくじら
邂逅は高野閃光つばくらめ
どんど焼はたと論客逝きしかな

 中 塚 紀 代 子
海坂に翼生まるる涅槃西風
草を煮る音よりひくき春の雨
夏草に棲みつく父の戦歌
いつの間に髪止め落ちた秋燕
柿熟れて親子音痴の日が落ちる
草の貌木の貌にじむ鵙日和
枯野ゆく頑固な父の見ゆるまで
寒卵添寝するにも空乳房
竹の秋雨も雫も嵯峨野かな
生涯に鏡はひとつ鬼薊

  長 野 祐 子
この道の四方に若葉の峠かな
自閉児のとばす風船ミスキャッチ
来てよかった山葵白花道祖神
青嵐や夫なき虚空に開聞岳
結論は自愛であると牛蛙
少年の掬いし泉掬いけり
暑き手やそして高尾山をひた登る
右肩の凝る筆使い半夏生
餅こがす静寂に思いとびとぶ
あきらめに突如の目眩寒紅梅

  中 原   梓
夢というややこしきもの蝸牛
泳ぐかも知れない夏帽の老女
良く転ぶ我生きてあり麦茶飲む
奇遇かなビードロパークの猪は父
水音は生きるよろこび遠い夏
寝そびれし外ッ国の旅木の葉髪
雲から飛んだ朴の葉だるい悦
今日からリハビリ蜂は後脚揃えたる
秋近し地下に潜めくワインかな
住職は子だくさんなり寒紅梅

  中 村 加 津 彦
おぼろですが道まっ直ぐに水の地平
死の告知から蒼ざめた蝶と逃げる
荒ぶること少しさすらう水の蛍
ふっと赤紙たそがれの人さらい
抽出のナイフハ月には錆びる
かけっこの児が片足をさがしている
ニートばかり陽に固まって薄着です
月のソナタ枕の高さに海がある
荒野にしずむ囗の告白を聞いている
ビルに狐棲みつきドアの奥の北

  中 村 孝 史
白餡の親しさにあり初夏の奈良
無いはずの帰心植田に映りたり
二杯酢で海鞘食べるため洗顔す
嫌いです蔓菜お浸し迷彩服
白エプロン死んでも「はは」は母と書く
鰻丼やおんなに合鍵持たさるる
冬月や悪事をせぬに家遠し
渚のよう冷たき朝のキーボード
冬青空闇を思うてなんになる
春山のくっきり濃く見ゆ地震以後

  中 村 裕 子
花こぶし軽い肉体感咲いた
群肝をひっかいてゆく春疾風
待春の十大弟子のかたちかな
野ざらしの家に大きな扇風機
ひかりとは盗賊かもめ母を拭く
すり足の清少納言夜の秋
湯たんぽやゴーゴリの国遥かなり
寒月光気管に入りぬさきみたま
大地震の底の時間とそめいよしの
帰る雁最後の雁が新しい

  中 村 ヨ シ オ
味噌十石醸し来たりて秋比叡
かもめほど近づく若嫁との夕餉
宗祗時雨の猪口一杯を寝酒とす
夏かたびら墨の香のむらぎもとおもう
紀の川の横一文字の茅花流し
妻のわがまま恐ろし可笑しヒアシンス
いま天地の開ける音に月下美人
関南第一禅林落葉這いまわる
一団の僧の月浴み裏比叡
なめくじりひやっと三遊亭円歌

 中 山 蒼 楓
烏の頭一瞬白し細雪
雷鳴を桑原という爺が二人
立志伝ああ玉盃に濁り酒
山姥にみみずのたくるとは愉快
若夏や君の方舟ニュートラル
内股に食込むジーパンずわい蟹
猪食らう面構えなり日本海
真海鼠を握ればぐいと押し戻す
蒟蒻玉に裏表なし山の守
毒茸七つも生えて妙な家

  梨 本 洋 子
ふふふふふふくみ笑いの毛布かな
青水無月右ふくらみの山が好き
福寿草両手の自由を散歩という
春炬燵雨ニモマケズ書いている
全身を鏡に写し夏帽子
夏の夜の動物園から招待状
枯木立まだつかまらぬ鬼ごっこ
楊梅や傷つきやすき日本海
清明や紅茶に入れる黒砂糖
朧月ちょっとだけ背負ってあげる

  夏 谷 胡 桃
花火揚がりこぼれる日々の木霊あり
花の雨長い廊下に黒い鹿
狐鳴く星ひとつ落ち森静か
炊きあがる飯にふっかけ天の川
冬三日月カリッと噛んで夜なべかな
深き闇ふくろう飛ばず鳴くばかり
米を食う熊のせつなさ雲となる
茱萸食べるこれは記憶の種火です
松島や逃げ水のようなり国家
白鳥来て町は静かな箱となる

  並 木 邑 人
街も春田もことごとく薙ぎ、TSUNAMI来る
春寒料峭覆面マイクロシーペルト
春の修羅なべて想定外でした
挨拶は線量計を差し交わし
風景の涙腺としてランドセル
春郊の瓦礫にこころ追いつかぬ
伝えきれぬ魂であり逃水は
わたつみはくさめしただけ くさめする権利
海嘯・離離・仮泊・残心・乱数表
Ebb tide封印したるマンドリン

   成 井 惠 子
枯蔓薙ぎふんころがしになつてゆく
けやき落葉と魚の大群旋回す
天下野晴れ凍みこんにやくの充実す
春の水音ははの命囗米磨ぎて
帰るところなく激震の犬ふぐり
春月と余震鎮めの白湯を飲む
折り鶴のやうつなぎゆく白詰草
水芭蕉の終の一花の倒れをり
鉄棒と地軸に朱夏の砂匂ふ
八海山の雪渓を踏みこころざす

  西 又 利 子
蛍火や人はどこかで舟に乗る
芋の露村が回転始めたり
阿と吽のふたりとなりし根深汁
春一番村を掃き出すつもりかな
汗の顔分水嶺のごと拭う
泉飲む風より低く膝をつき
存分に水を遊ばせ芋水車
眼鏡屋のヶIスにたくさん蝶の翅
赤子抱く弥生の月の重さかな
田水張り村が本気になってくる

  仁 田 脇 一 石
マンションにざらつく足の暮春かな
菜の花や昭和の色に暮れている
正座して海を見ている泰山木
泣くように栴檀の花降りしきる
雨降る畳に黒い牛の寝ている
七月の満月貨車の遠い響き
積乱雲麻酔の醒めて海と言う
ぼんやりと満月の居てバナナ食う
開拓地は赤色無臭の霧の中
マスクして異端者の眼と声になる

  新 田 幸 子
どう見てもクリムト姉の春着かな
鳥たち午睡わたし胡椒を効かせてる
万緑や馬の背中のアルルカン
ああ世阿弥男色なりや土用波
百日紅真昼重たき瞼よ
花木槿戦ぐという文字恐ろしき
ジーンズの膝ざんばらや穴惑い
こん狐真夜のうどんの汁澄んで
図書館の一隅占めて蝶凍てる
目鼻とんで君達のいま青の時代
   
  新 田 冨 士 子
加齢とは集うことなり山眠る
声高く八十八夜の穴を掘る
向う脛打つなよ低く燕来る
ポケットを叩き初夏集うかな
老いゆくな蛇の髯の花の微光
流木はそのまま仏赤のまま
点滴が血となり夜の雷去りぬ
凍蝶と隣り合せの握り飯
つぶやきがやがて多弁に七草粥
鬼ごっこの鬼に乳房のある暑さ

   丹 生 千 賀
風邪の夫に粥を煮ているなんだろう
耳になり眼になりそれから木の芽かな
涅槃図の端数のように座りたる
紫の花白い花じゃがいもになるついで
初蝉やまだ唇のやわらかし
青田抜け来て度忘れのような街
クレヨンの蓋あいており返り花
芒野は亡夫の残したお粥です
抽斗をすっぽり抜いて冬の海
泣くほどのことか雨から雪になる

  根 岸 暁 子
花ありて揺れてみたくて遠桜
在りし日の君は真水か梅咲いた
水ばかり描く老画家の渇水期
大きさがかがやいている春の象
涅槃西風背丈ちぢむは囗惜しき
ほんとうは淋しい蝶が濡れている
斜めとは行きつく牛の大西日
茎立ちやうかつに他人をなつかしむ
鏡面のかまきり昏む捨田かな
真っ当な花の生命(いのち)を差し上げる

   野 崎 妙 子
霾や鶏という鶏茫茫と
馬酔木咲く人間としてかたまれり
しゃくなげや旋律的に青年僧
白桃のどこに触れてもやさしくなる
一杯の水持ち歩く大暑かな
一人抜きマラソン少女の夏終わる
さりげなくまんぼうでいる九月かな
金木犀空に金管楽器かな
曼荼羅のかたちに昏れて吊し柿
凩という論客が来ておりぬ

  野 崎 憲 子
霞とは光が蝶になるところ
落椿猪(しし)の骸でとまりけり
陽炎や烏の愛づる捨て鏡
日輪をすつと貫く草矢かな
ヒロシマの石に言の葉うましめよ
霧深し瀬戸大橋は天の川
温かなまなざしである秋の蛇
満月にあっまってくる樹よ鹿よ
朝霧はやし源(みなもと)へ還るかな
この橋を渡れと冬の稲ぴかり

  野 田 信 章
潮の干満はげしき春の家はあり
二月水辺の鳥糞白き悔やある
城に冬来る父の跫音(あおと)のようにかな
河口は冬へ鳥たち白き魂(たま)あそび
老いて斉しく呟くいのち春干潟
秋比叡湖から歩いて来た青年
不断念仏とは秋猿の毛づくろい
湖に明神われに耳鳴りの五月
囗蹄疫牛屠る夏星雫せよ
花枸橘(はなからたち)ははに戦意のありしこと

  野 原 瑤 子
苜蓿の気ままなひろがり少年院
合歓の花ひそひそ話の夕暮れの
海猫鳴かず水脈なき港梅雨に入る
だまし絵の浮遊感なり昼寝覚め
金魚飼う男の背の夕涼し
定年やとうがらし干す風の峡
芒みみずく訣れの予感ふくらめる
美作の駅の白桃旅にあり
石蕗の花牛が線路をやってくる
ふかぶかと老僧の抱く山眠る

  野 間 口 千 賀
魚なりし記憶のヒレが風に鳴る
はこべらよ隕石とは固いなみだ
金縷梅(まんさく)のしどろもどろに遊び好き
うっすらと野火の痕ある身をよじり
髪を梳く齢のかなた透けるまで
揚羽より濃き影もちて爭わず
影ふみの踏みのこしけり己が影
血のなかの足音を聴くまんじゅしゃげ
全盲のピアニストただに羽ばたくよ
声翔んで潮に孵るたましいや

 橋 田 サ カ エ
私も死にそう城門さん死んで白椿
家じゅうに掃除機かけて秋はジャズ
寒い日曜井上陽水高音で
私は真鰯デパートを往ったり来たり
欅の机と私のまわり肥後山茶花
蛍の色紙ああ何とちいさな美義の字
福島の味噌売りが来る二人来る
大工さんの車で今日は森林浴
五高の庭兄貴もいたな姫女苑
地虫鳴く私もすごい歳ですよ

 橋 本 和 子
寺町に筍生える自由かな
青葉若葉黒人霊歌の歯がきらり
憲法の日しめった朝刊放埒に
満月の着水音あり歯痛あり
新緑や猫も小石も蹴りやすし
魂ひとつ島抜けのよう遠泳
花うつぎ妙に食通ばかりいて
冬の蜂まるでピンポン玉である
おしゃべりは唾濃し晩秋路白し
マスクして祖父はうなずく馬である

 蓮 田 双 川
牡蠣雑炊結論が中途半端
理髪屋のうすき後頭虫を飼う
おそろしき孫の宿題十三夜
夏の川思いは流心を過ぐ
表に庭裏手にも庭獺祭忌
林檎剥く大黒柱に恁れてむく
旅人はみんな目覚めて疑宝珠咲く
東北や山をはなれぬ冬の虹
白雲の流れにあそぶ冬桜
黒揚羽今よぎりしかまたよぎる

 長 谷 川 阿 以
少年老いやすく傘長し
旅の井戸指の形の風ばかり
ロボットがぽくらの写真引き裂いて
空つかむ骨長きこと冬の虹
ダリヤ剪る目は青き夜の底なれば
気がつけば咳止めのごと日は昇る
まどろめば葡萄とともに夜の一部
青ざめた背中ばかりの街の鮭
塩辛く苦い母たち冬写真
酷暑ゆえ咲く花もある知は弱い

 長 谷 川 育 子
だんまりは豪雨の冥さ茄子を揉む
光食む白鳥越後田から昏れ
ずいぷんと言い過ぎた夜のみみず鳴く
逆光や残る白鳥を鬱という
薄い歳重ねるも芸白障子
冬銀河つばざ持つ魚届きけり
猫背なり刈田の二人越後人
子に恋人しんじゃがのよな親近感
無患子二つ夜の机に羽音して
さりげない風の握手よわらび山
 
 長 谷 川 順 子 
涙色の列島流離のうぐいすよ
気力とはお灸の熱さほととぎす
月天心母は炬燵で待っていた
曼珠沙華すまんじゅう店すぐそこです
紅葉川稼ぎ日和だ船頭さん
ログハウスから宿題の音読夜の秋
少年の変声期かな鷭鳴いて
流星のかすり傷ほど山の家
共存なり白鳥真鴨鴉もいて
喪にあれど正月の溲写楽かな

 服 部 修 一
アカシア降る遠国だから手をつなぎ
君に逢う近江舞子に田を植えて
木犀の風が好きです扁桃腺
秋桜ショートカットで君が来る
にがうりの襞の数ほど待てますか
木の葉降る僕たちだった滑り台
天空の秘密のブーゲンビリアかな
台風のまっただ中のガラスの家
愛すべし椋鳥は鈴生り君は弓なり
花あざみ隣の牛が消えている

 幅 田 信 一
秋の木のひとつひとつが砂時計
稲刈って空に濃いとこ淡いとこ
砂浜は紙漉くように秋めいて
秋暑し津波が残す難破船
新涼やおまけのような沖の船
秋麗の風車は風を忘れたり
櫓田や娘のまつげ大いに反る
十月のわっさわっさとムーミン谷
瓜ン坊というかラグビーボールというか
お雑煮のような夫婦になりました

 浜 口 眞 砂 子
真顔なり蜂がバスに乗りこんだ
朱欒ぶらぶら父のずぼんの鉤裂きに
ななかまど柩の白は望郷なり
本音とは息急(せき)きって冬の蜂
霧に僧貨車の行方は知らぬなり
この空に鶴の道あり働かな
腸(はらわた)のくすぶる目刺父恋し
訃報なり美し美し美しと鶴帰る
たましいの重さにゆれる枯蟷螂
薪割る音す修道院は霧の中

 林   恒 子
大樹マロニエの腕さしのべてアンネよ
求婚は風車のウインクチューリップ
羽根の扇でたましい煽ぐスカラ座
ヴィロンは拗ねっぱなしの広場かな
はぐれ雲無花果の神まだ青い
チーズィな女が転ぶ秋ざくら
壁画の冷え量らるる王者のペニス
石積んでポンペイ犬のふぐりやわらか
岩場の多いそこは飛び魚の青春
星を数えてオーロラと私は泳ぐ

 春 木 美 智 子
湯ざめするちくわの穴の通り風
寒雷や久女の叫びに違いない
稜線の五分刈頭風光る
花筏花しか連れてゆけないの
春分や洗い哂のような空
動くもの無意識に踏む暑さかな
赤ん坊宙に浮くよな油照り
三日月や開けてはならぬ鍵預け
針と糸夫婦のような夜長し
落葉掃くこぼした言葉消すように

  日 秋 英 子
学友らみな青宙に逝く原爆忌
初法会鞆の古刹も夕凪ぎて
強運も五黄の申も藍ゆかた
喜寿祝う母と子そして月涼し
忘れぬはいくさの日々の花野かな
別離の囗あり野茨の道白しゆく
凍て暖む小樽運河の灯蝶のよう
相逢うて介護の部屋に奈良古雛
凍星や川のあるらし海馬には
鳥渡る北の逆光さらに美し

 疋 田 恵 美 子
食積や子供の家を往ったり来たり
風薫るつらつら坂道放浪記
駆け抜ける狭霧の鹿を愛という
夜神楽の祖母山(そぼ)のかたむく響きかな
山称う校歌合唱山開き
白式部日向霊峰に散骨す
煮凝りの亡母のクローンと思わずや
陽の限り落葉踏みしめ生きめやも
長考の林芙美子よ牡蠣雑炊
褒められて土竜のように口ごもる

  日 高   玲
百千鳥円の中には井戸ありて
舌に触れる月光のあり春の鹿
茅花流し鳥のいる木を知る少女
緑の夜絹商人のしゃがれ声
紅葉かつ散る大航海時代かな
神話のように正座の父娘菊膾
熊撃たる日曜の僕のベッド
ふぐ剌しの震えのように君寄り来
九条葱姉はそろりと雨戸引く
なまはげの三人で行く一列

 平 田   薫
新緑の手と足と手と手だろうか
竹煮草ぐじゅっと昼がやってくる
星条旗奇妙な七月のかたち
速度三十三ノットさるすべり
曲がるとき大向日葵は花だろうか
十月や影みな知恵のあるごとし
虎杖の花からからと無才なり
ソヨゴとは風に吹かれる冬青の実
末黒野や田もまた夢のようなもの
鳥帰る水あれば水はげまして

 平 塚 幸 子
応えなき母の個室を除夜として
迷い箸するようほのぼの白木蓮
バックミラーの狐火こぞって右折かな
苦み走ったひらたきものに蟇
着ぶくれの腕組む父もいて反戦
風がいいと逝きて八十八夜かな
ゆとりとは土替えること半夏生
まんじゅしゃげ睫を競う声ありき
富士真っ向視力届かぬ花芒
如月や兄の土鈴の在りどころ

 平 野 八 重 子
日向ぽこ父似でいたい父は亡し
きさらぎや寝しなにふくむ玉葱酒
眼球は小さな地球青水無月
馬鈴薯植う独身寮の窓開く
私はわたしをほめる二月の日記
忘れぐせ大根煮てるベルが鳴る
小鳥来る足ふんばって顔洗う
花粉症無駄なことにもあつくなる
ピクニックに行くよう畑の秘密基地
ミニトマトもいでは入れる詩の器

 平 山 圭 子
耕して猫の背伸びを真似ている
自転車の荷台に襁褓春の人
なんじゃもんじや言い訳が絶妙
鵜の舟や海鵜でありし頃の無邪気
櫓田の元気を貰う途上かな
かなり早起き外湯の桶に枯蟷螂
秋耕や朽ちし畳を鋤き込める
川に沿う人の生活(くらし)よ柿明かり
信頼や体ひとつの白鳥来
生真面目や猪は垣根を突破する

 廣 嶋 美 恵 子
取り箸を正面に置く雪景色
春の山ひと恋う起伏望洋たり
闇に微香のひいらぎありと手紙
人生は態度といわれ麦踏みに
ふんわりと秋の皮膚感いりたまご
霜降や夫の辺にいて書は孔子
夫に聞かす琵琶湖周遊歌冬時雨
老というキウイの断面甘美かな
潮汐の間(かん)わたしに瀬戸紺碧
長老の域の愉快や鯉のぼり

  福 富 健 男
比叡の僧虎杖の花に連なりて
頭蓋も手も地層のままに教会堂
妖精かキルグァ遺跡の階段に
梅雨晴れの馬や筋肉ぶるぶるるん
曖昧な日本人のわたし紅い蟹
どかんと踏み込む蹠で描く曼荼羅よ
開花とは病かと問う文字摺草
緋鯉真鯉ぶつかりあって綾の響(とよ)
翼端に脊梁折りこむバイカルよ
コントラバスを建屋に据えて樗花

  藤 江  瑞
月の弓手緑白色の蛾が流れる
黄昏は甲胄のイメージに着ふくれ
お遍路さん流星に似た鬚だった
夕薄暑銀のリボンでぐるぐる巻き
本は手元にあるべき蛍袋かな
片陰や蠢くような老いたような
雲海が動き睡蓮を感じおり
菱形の沼こがらしの夕景は
牡蠣のある静物描く重たい白
水彩の反故の重なり麦熟れて

  藤 田 敦 子
 春塵や釈迦三尊は海を向く
犬のあしあと人のあしあと春の海
原発へ直線百キロの麦秋
地震過ぎて紫陽花の色定まらず
草矢受くごと風下に立っている
夏空や獣匂わぬサーカス団
扇風機飛べないプロペラを持てり
黙祷を終え球児たちのグラウンド
新月やプレハブ仮設商店街
塩飴を噛み砕きたる敬老囗

  藤 田 ユ リ 子
老いてなおミーハー族の雛あられ
肩の凝り生きてる証鳥帰る
新緑を懐紙にはさむ異邦人
合歓街道探しあぐねてパットライス
句碑誉めて壁塗りませんか朝の蝉
右手三角左手四角梅雨激し
人間や地上に降りて盆準備
二人子を育ててくれし媼の初盆
秋の蝿しつこいほどに大が好き
冬の干潟あなたの愛を信じたい

  藤 野   武
秩父巡礼この星にすみれ草という星
シクラメン静かに根腐れジャーナリズム
軽薄なポリバケツ飛ぶ春の風
ニートと言う君殼うすき蝸牛と
ステテコさびし絶滅危惧種たり我ら
皮膚に光がひらひら流る盆過ぎぬ
柚子の黄眩し戦争を語らぬ父に
姫始め髪に哀しく静電気
白鳥を雲といい求職の列へ
雪の陰影清しや肩甲骨のあたり

  藤 盛 和 子
清流の底まで日暮れ合歓の花
蝉の穴どの子もみんな遠くなる
夕焚火余震の体折りかがめ
芹の根の思わぬ長さ傘寿なる
初産に旗ふっている十二月
歯をみがく氷柱の蒼き闇を被て
空の地図空色に描き薄氷
舌頭の句の煮つまらぬ二日かな
北窓開き巧みな方言吐いており
五月晴れ背中にしみる歩行力

  藤 原 美 恵 子
晩秋の水面広々夫のこと
残菊や酸っぱいほどの月明かり
人の身を触って暮らすはつ夏
春の蛇寝巻を脱いでいるところ
ががんぼや茶碗に固いご飯粒
菜を和えて春の雑音ひとつまみ
飯に合うかなしみなのだ立葵
こんばんわの唇をして秋の大
ふらここのふたつ並んで気が長い
雪兆す乳房小さくふくらんで

  古 舘 泰 子
母方は頬高なりし草の餅
観音の薄目の先の花の虻
遺留品預かり所あり蜃気楼
ペダル漕ぐ腓に力夏に入る
昼顔に不時着したる独り言
青瓢揺れ止むときは薄目して
ここよりは指紋採ります桐一葉
今年藁きのう筋力使いすぎ
木菟や逮夜に貨車の通り過ぐ
セーターの伸びし袖口睡魔くる

 堀 真 知 子
たくさんの冬木いっぺんに目に入る
木の椅子の完成わたし春の水
とんがったままで引鴨十九歳
朝焼へ寝ずの自転車二人乗り
絹莢という仏の唇卵とじ
海までの渋滞パンジーの鉢抱え
もういいかい目蓋くるしいマユミの実
漂着といい寄り物といいビーチサンダル
蝉の穴父の残した沈黙は
晩夏かな自転車漕ぐゎれは海鳴り
 
 堀 之 内 長 一
零余子飯母にある日のデカダンス
冬ぱたんアウシュビッツの冬ぱたん
芽柳は漂流民のあおさかな
額には直射日光ひきがえる
馬覚めて闇から闇へかかる橋
頬杖の蜜寒林にゆきわたる
色鳥よ木々と話すも酔余のこと
紅葉かつ散るふっと酸鼻という言葉
五月来る大粒の雨牛飼いに
原形は春蚕のような島でした

 本 田 日 出 登
小春日や隣の電柱寄って来る
花は葉にしずかに生きんか父よ
病み臥すや照らさぬ蛍寄って来る
跳ね上るときに真顔や川の鮎
噴水のふはふはと古稀振り返る
真つ直ぐの裸身に白き砂丘かな
秋うすうす被災地いまだ握り飯
満月やうっかり身篭る夢をみし
しばらくは沈む泥鰌の良夜かな
顔に刃をあてて拭いてさてと雪

 本 田 ひ と み
きぶし咲くいたずらっぽい風土記かな
寝そべって少女サルトリイバラの実
コスモスに水攻めという凄い闇
山桑もみじ軽くうなずいて眠る
スケッチはせせらぎのよう白鳥来
花柊ひたすら雨を描く老人
冬紅葉まだ水面下の疲れ
ふる里や鶴の歩みのような挨拶
号泣の夫よミモザの花房よ
木いちごの花の斜面や被曝せり

 本 間  道  
もう稲の花さきましたと末文
電子音組み込まれたる冬の耳
炭悵てふ俳書も知らず来し身かな
地に還るそれだけのこと蓮の花
吾に似し影しずしずと小豆粥
西行の蹴鞠のゆくえ旅おぽろ
頸椎損傷以来不具合籠枕
訪問者はひげの船長初鰹
辛味大根ちんまりと冷え地下市場
物思ケ夜の新樹に躓けり





0 件のコメント:

コメントを投稿