2017年11月18日

海程創刊50周年記念アンソロジー【同人の章・さ行~た行】


 斉 木 ギ ニ
バックミラーに消える途中の白あやめ
五体投地なにか言いけり海を指し
みしらぬ岸を崖と名づけて旅つづく
はぐれてから記憶はじまる雁が飛ぶ
感情の広い林にパセリの家
この雪は積もるよと言う 思わない
一晩中鶴を通して鏡曇る
白樺は小鬼見終わり眠るかな
Smileを菫と書いて手紙終ゆ
ふらここという空中都市に一人かな


  齋 藤 一 湖
青山河薄い風景縫い合わす
素潜りはゆっくり空へ還るかたち
伊勢青し頑固な螺子が一つ取れ
鉦叩知恵なき我は打たれよう
原子村廻りは桃で囲もうか
金縛りのごと夕焼け見ておりぬ
風鈴や今夜の風が遅刻せり
曲り瓜どこか寄り道してるはず
最澄の一滴重し山の萩
凩のような説法聞いている



   酒 井 郁 郎
貝殻に波限りなし仔猫かな
折紙のようワイシャツ畳む雛の家
海蛍素足のように来る別れ
大利根は雷の通い路曜歌(かがい)とも
ひたひたと騎馬民族になる新涼
舌の根に小骨ありけり野襤褸菊
清僧は槍鶏頭のよう坐る
穴惑い耳掻きの届かざる点
多喜二忌や静かに廻す万華鏡
即身佛寒立馬の動くかな

  坂 本 蒼 郷
職決まる一筆箋に寒玉子
電池交換鴉は冬の空に棲む
雪降りおり野菜工場は青のさざなみ
ネイルアートに湿りを許す卒業歌
飛蚊症か落花か年金では足りぬ
村の木魚は妣のおんがくさくら散る
筍山はくらくて黄泉を彷徨う老人
百円均一店出て七月は墓の話
きれいなお鳴ら銀杏三枚ほど散りぬ
流木芽ぶく太平洋に招かれて

  坂 本 春 子
新緑やこの遊星に水と棲む
落椿届けよわれの谷底に
青き踏む肩とう翅の動くまで
橡の実を夕日のかけらと思う旅
つんのめりやすくて母よ花茗荷
萩は抱くもの星籠は背負うもの
ひとりぽっちの夕星(ゆうづつ)沖に鯨群る
わが影の森歩く音夏がゆく
雨粒は頬にぼんやりと水鳥
牡蠣すする君という森解けぬまま

  坂本 みどり
半夏生ウラン残土の赤煉瓦
長耳は長寿の証し雪柳
てのひらの薬七彩霧の音
坐禅草娘のえらびきし夫の杖
掃除せし耳のからっぽ胡桃の実
肉厚き海鞘にぐい呑み祭り笛
相席の酪農青年山葵茶漬
青嵐今宵のうどん太く切る
ねむの花一夜泊りの京の水
大関の乳首むらさき半夏生

   佐 孝 石 画
老犬が見せる驟雨のような眼差し
冬木という眩しい肺が立っている
夜明けかな妻子も白猫のかたまり
いちまいは月に叱られているガラス
夜の窓に雪混み合うを躁という
冬の野の落下速度を見ておりぬ
冬枯の河のカーブがぐぐっと父
囀りの一つ二つは壊しに来る
心地良くことばの痛む雪明り
新樹らは空を歩いてきたのです

    笹 岡 素 子
早春の砂を拾う真っ白な骨を拾う
人形のぜんまいをまく五月来
逃水を追う時人間の匂
走る馬体温は初夏の砂丘
手鞠花青ざめた鎖骨に沈む
七月の枕の中を砂流れる
脳波検査のベッドの上を夏が行く
短日の猫の手ざわり新刊本
雪の街金属の昧がする
よく笑う子だな体につららつらら

  佐々木 昇一
老人に花束重いちとやっかい
旧友よ枯野の闇は圧巻なり
禿頭を雪すべり落っ抒情だなあ
初雪やプロレタリアで老夫婦
桜の夜遠くにありし奥座敷
峨眉山がフロントガラスに映らない
炎天や好球必打生者必滅
地吹雪や爺の面して婆の行く
夜濯や森には空の巣もあらん
手話で告ぐ天高々と深きこと

  佐々木 義雄
菜の花に首突っ込んでいる謀議
鮎を釣る中洲隕石降るという
稜線を縁どる貌やサングラス
宙へ手を撥ねて収めて盆踊り
烏賊火置く沖つれづれの挽歌なり
二歩づつの草の関節秋を知る
麦秋の村に手摺りという戦慄
銀杏黄葉駅までの距離画廊になる
樹のまわり雪に着地の涛かしら
雪しんしん人は射程に蒸気置く

   佐藤 紀生子
田水張り怒涛のごとく溺れたり
軒燕終の棲家に母ひとり
秘仏堂蛇の抜け殼吹かれおり
川蜻蛉旅の終りは石に死す
微笑みの白寿の遺影菊薫る
華燭の娘飾り置きたき秋鏡
綿虫や怒鳴りたいほど近づきぬ
枇杷の花生涯現役身に叶う
虎落笛わけあるやうに矢継ぎ早
寒月光辿り着くまで影法師

  佐 藤 鎮 人
穀雨かな我もまた地上の人なり
独活掘るやまことに遠き人ばかり
リラ冷えやローカル線の待合室
草笛を吹けば湖面の幾何模様
裏木戸へ咲き継ぐ十薬母の余命
機関車の如く母の器官止まりぬ
夏の山耐え難ければ谺する
里方の土間のでこぼこ夕蜩
しばらくは滂沱となりし夕日かな
鳥渡る網膜剥離の眼裏を

  佐藤 美紀江
花冷やいつもいっしょに居てくれた
悪ふざけの気配隠して大手鞠
鳥雲に時計もたずに遠出する
玉子酒葛湯亡母のマグカップ
土竜めが亡き母の庭耕せり
遊ばんや眠れぬ夜の花芒
似顔絵のマスクのほかの白きこと
男梅雨緑野を目指す舟ありて
なめくじり落書も耳触る癖も
冬紅葉母はいま言葉忘れゆく

  鮫 島 康 子
二月まつすぐ一つの青としてまつすぐ
侘助を大きなゼロと思いおり
ひらひら来るてふてふなのかてふなのか
橋を渡って蛍になった男の子
夢に鷺石降るように鷺ばかり
ひまわり百本敵か味方かわからない
戦おわる戦おわると死にゆけり
昭和流れて太平洋にバラー輪
母死んで金魚一匹泳いでいる
阿蘇落日磔刑のキリストを見たり

  猿 渡 道 子
額とは淋しい面積寒の聖堂
冬の石あとからあとから岬馬
割烹着の姑おおきな蕪であり
ユーカラの囗は星形野老かな
冬眠す国籍もたぬ船溜り
そこいらに夢置き眠る渡り漁夫
浮世絵の目細の坐臥や梅雨の月
シェフのよう香魚ひんやり横たえて
鮎跳ねる胡坐の中の赤ん坊
海戦の沖までっづくりんご剥く

  塩 野 谷 仁
地球より水はこぼれず桜騒
誰か来て鏡割りゆく八十八夜
目瞑りて木の瘤増やす晩夏かな
かくじつに階段は果つ天の川
紅茸を蹴り夭折に遅れおり
地続きに落日もあり韭雑炊
ただひとりにも波を打つ冬の水
一月の全景として鴎二羽
こころにも左側あり落雲雀
麦飯は日暮れの匂い私雨

  塩谷 美津子
花冷えや楽器に青い嘴がある
透明な父の背に画く青山河
半身をしまい忘れのかたつむり
雨上りいよいよ蛇になる支度
いたちの字ときどき化ける霜の夜
置き去りの人の巣があり北風が吹く
放蕩のうろこが落ちる花野かな
ナプキンの直立いよよ盛夏なり
言い訳の才槌頭かりんの実
凩が吹けばどこかで子が生まれ

  品 川   暾
教会に蟻をほろぼす薬あり
雪女ヘルメット以下黒ずくめ
妹からぬけでてきたかこの螢
帰る鶴鰯一トンふるまわれ
神経をいくつあやめた十二月
鼻黒の猫に秋刀魚の頭(かしら)やる
冬帝のトラ紋列島上にあり
金魚鉢なかに長崎ありにけり
風蹴ってゆくトタン板中也の忌
猪狩のむくいぞ回復せぬ膝は

  篠 田 悦 子
慌てざること阿闍梨に匹敵蟇
陽が落ちて猪起きてくる山の秋
花木槿馬に乗りたし触りたし
風音を天空に残し吾れは草
鱇やかなぶん二階の高さ椎の花
春の河相撲取るような月が出て
闘牛や山を見るのに眼を剥いて
走り梅雨寝返り幾ど鯉の重さ
鷽啼いて張り切る僧の単純美し
囀りやこの只管を忘れかけて

  柴 田 和 江
年寄りを演じ切ったり獅子頭
七種や飼育係のごと刻む
虫歯噛みしめ霜柱踏んでおり
麦星よ姉と兄逝く森の中
これ以上飾りはいらぬ額の花
照し合う記憶まぶしく磯あそび
立葵捕手は五度目の首を振る
三陸に集まる汗の輝きよ
唇に歌を百歳詩人の夏
生きること生きてあること野鶏頭

  柴田 美代子
ほろ苦き青春わたしの回転木馬
春の瀬のからだ入れかえるよう瀞ヘ
サングラスからだのどこか出日本
馬のようにつなぎとめたい朝焼です
雲海の中の乱声八月六日
蘭というきれいな玩具たまわりぬ
からふるにぱわふるに高きに登る
黄落の桂ヘロングインタビュー
大根引ふと夜神楽のしぐさして
吃音やつるつるぴかぴか冬林檎


  志 摩 京 子
赤子眠りて夜も明かるく二月かな
鳥のごと砂丘より来て青き踏む
杖にも飛花終りなきやう米を研ぎ
ストイックとふ正道を落椿
踏むまじく愛書がれきに春の地震
  大震災後の新盆         
夜蝉鳴き嗚く消えたふるさと新霊(あらみたま)
明日の手術に時計の振子蟹の横這ひ
零余子こぽるる一つ屋ふいの旅ごころ
桔梗が海透くやうな隠岐山路
打てば響いて産土に椎の実落つ

   清水 喜美子
地球儀を抱えて米寿の初明かり
凄まじき青一点の年明くる
山脈の朧をひきて長生す
黄砂降る地に容として甕坐る
末黒野や清浄な音組むごとし
夜がそこに来て生きもののように月
美しき十一月も花の端(つま)
白鳥は半眼にして弧をつらぬき
次の世もわが毋である雪降りしきる
隠(こも)り世のひとつひとつの花の門

    清 水 恵 子
一人居て月はいつでも上にある
駱駝岩わたし素のまま赤のまま
無人駅カイロは腰に日は西に
放屁して君のメールにちょっと紅葉
埴田から君の声して布団干す
立夏ですちょっとしょっぱい卵焼き
マカロニの入口出口夏の恋
熱帯夜泳いでアイシャドー濃くなる
くせっ毛の彼のもみ上げコゴミ採り
風光る洗濯カゴひとつ分の愛

   清 水   伶
溪もみじオペラ座の傾きであり
白菜に思想のごとき刃を入れる
鳶鳴いて耳の奥まで冬の凪
鰈の昼絶対音感からくもる
花芒カフカカフカの声のする
野うさぎの風待つ耳を晴れという
星祀る白い金魚に名をつけて
菊たべて東方見聞録咲かす
やぶ椿やぶ椿あざやかな科
抽斗のなか紅梅の坂がある

  下山田 れいこ(漢字無)
養花天句読点なき暮しぶり
乱れ麻(お)のような毎日神渡し
引越しは濁流のごと十二月
手首まで入れて身内となる泉
青田風やっぱり暇な薬指
老年の入江なき日々鳥帰る
煮崩れのような日々なり神楽月
雁渡し薄暮の端に父の杖
芥子坊主きみの言葉へ付箋かな
いつだって母はふろしき代田水

  釈迦郡 ひろみ
夕陽拝みふと消える我山の向うに
失語症ふと聞く眩き何ですか
闇の音すべて消してよ不眠です
桜古木に魅入って喉に風邪の来る
どうせ不眠鳴けよ鳴け夜の虫
風を探しに車椅子の行列です
抗えない闇なら添うよ不眠でも
触って見れば私の骸骨小さめです
山笑う百歳の冗談みな笑う
なごり雪ならで降灰無粋です

   白 井 重 之
あけぼのや丑年生まれに睨鯛(にらみだい)
咳の子の便所の四隅にさざ波
鄙(ひな)の春口舌有耶無耶の老師かな
擂粉木(すりこぎ)の遣い手めがけ亀鳴けり
昔男ありけり爾来種蒔きにけり
山百合の白は山人の褌(みつ)の白
妻を揉みにわとり捩る四月かな
わらび煮てまた山へゆく女ども
僕は自雨がすきで祖霊があつまる
青田あおし柩はしろし村の西

   白 石 司 子
独楽回る小さい青空はおとうと
母というやわらかな着地鶴来る
着ぶくれててのひらほどの軽薄よ
北風の直情か父のくるぶしか
枯れの中ふと水音のして父よ
まなかいに鳥帰るまでの広漠
蚕飼の村山の神火の神の澄む
春星となるため君らしばし多弁
そしてヒロシマの空から灼けはじむ
馬冷やす海憂国の色深め

  白 井 米 子
冬木立無口な人と同席する
半眼でみている余生葱坊主
被写体に花守ふたり入れておく
半夏生老人脱皮はじめたり
合掌の美しき僧白さるすべり
体内に曼珠沙華咲くこともある
猫じゃらし淋しいときは揺れてみる
熟柿吸う老人毀れやすきかな
本腰を入れ自然薯を掘っている
一徹な老農といる葱の花

  白 川 温 子
春は曙昨日と今日を切り離す
葱刻む生活という速度かな
茎立ちや誤作動の手足持っている
文殻は生あくびのよう朴の花
江戸切子卵こつんと晩夏かな
考えはまとめずに置くシャボン玉
綿虫の旅愁とも違う流れよう
黄砂降るスプーンに老いの翳写す
冬銀河電車はガラスの呼吸して
君も我も紅葉はさみぬ時刻表
   菅 原 和 子
人体は素朴な素材上匂う
桐の花左カーブすれすれに母
風鈴白く午後の机の孤島
雑学や奥歯に残る鱧の骨
夏の闇無灯回送列車来る
露原に屈めば私という孤島
紅葉散る仰向けの喉に散る
総身を映せば蛇に戻れない
母恋し越路に鳥の巣の幾つ
かるく目をとし麦雨のなだらかなり

 杉 崎 ちから
生きているなめくじ鉄を越えるかな
鉄舐めてゆくかたつむり戦争とは
霾(つちふる)や日輪いくさのよう暗し
にんげんであること畏れ原爆忌
生きているとは土でいることひきがえる
飛燕あれは鉄片となるきらめき
敗戦日握手に鉄の義手を出す
八月や船渠に潜水艦の全裸
戦争やしずかに腐りゆく冬瓜
ぼくの抽斗戦争がまだ終らない

  鈴 木 幸 江
お正月古墳の如き頭して
世界中の瞳と思え春の星
駆落ちの祖母の早世野梅咲く
おひさまを炎と思う街は春
木の芽張る一期一会の一車窓
螢狩名も無き星どち逝きにけり
どんどんと妖しくなりぬ遠花火
好きな事探す寂しさ猫じゃらし
瓢箪や恐妻家にて愛妻家
満月や瞼無きとはかのような

 鈴 木 修 一
雪解けの映すものなき水を見よ
カンナの向こう海の光は永久(とこしえ)に
冬ごもり蜘蛛におどろく娘らと
大でまり人は眠りを貪るべし
我はいま雲雀が落とす影法師
雪晴をまぶたは見んと抗えり
待春や枯死の森から海を見て
肉を焼く音ひぐらしとなりゆけり
鹿踊りこおろぎの声踏みしめて
子の恋を父のみ知らず桜桃忌

  鈴 木 孝 信
老父母へわが眼を通し菜の花盛り
末枯れて疲労の色を打ち消しぬ
朝日子と老人猫の枯野かな
柞の杜釣瓶落しが産湯なり
紅葉且つ散る蝶形に皆野町
太白星柿と葉つぱとおまんぢゆう
友情論春の闇より土色に
春や昔世話好き海と山とあり
雪解けて駄菓子屋に自転車の大小
眼の届く中の日盛薬師かな

  鱸   久 子
水脈の果の祭りと思う曼珠沙華
『花恋』よ澄み切ってます小森川   皆子先生追悼
きっちりと蕎麦屋はめこむ枯野です
魚たちが海を耕す十三夜
蜃気楼轍の先の温き家
春の虹言葉短し切なし
気散じです余寒の街のウォーキング
飛礫(つぶて)かな梅雨病棟の電子音
お鈴の音霧の中から霧そして人
赤手蟹避難の民と新月と               東日本大震災

  鈴 木   誠
蝶のよう背に残る羽根年老いて
トランプの占うはしから蝶の舞う
カタカナで来る黒東風を犀という
蛍袋絶望一つまた入れた
蟻地獄底がすっぽり抜けている
涸れ川に蟷螂の斧捨てに寄る
トタン屋根永久に霙の降る映画
日向ぽこのうたたねは舟世に飽きて
枯野来る飼われた鰐を見に来てる
冬の風鈴今鳴り止みぬ母の死もて

  鈴 木 八 駛 郎
からまつに雪しがみつき人は地に
雪暗やはやばや戻る他人の馬
地の神は地べたにすわり独活を喰う
山行者乾鮭しやぶり子沢山
鼻曲り村には大人ばかりいる
花に酔う人のうしろの馬笑う
かげろうや向こうに壊す家一つ
削られし乳房にふれぬ蛍かな
心太ほとけの前に突き出しぬ
青葉木菟母に逢うので村に居る

  鈴 木 康 之
鳥渡るアラビア文字の不思議さよ
美術展二焦点眼鏡を使ふ
新蕎麦を掻いて手向けり声は母か
物無くば野分の音も一切空
しがらみや餅に捕られし歯一本
産土も北辰斜め春立ちぬ
青葉木菟埴輪の農夫肩に鍬
直会や猪の生首薄目あけ
金木犀の息を聞いては四半的
春の山瓦礫の山の彼方かな

  鈴 木 玲 子
即起する夫たたえて春暁や
歩禅かな街道は寂はつざくら
涙の拍手瓦礫のきわの梨の花
ポツダムや椅子さまざまに夏兆す
木瓜の花庭に漁火みるように
栗落花かな銀のナイフをみがくとす
凌霄花くぐりて郵便ことりと来
玄界灘波高からず水脈涼し
牛蛙吠え三日月のうす笑い
天狼は青貝色の霊ですか

  瀬 川 泰 之
朝顔やヒロシマナガサキ今フクシマ
揚げひばり絶叫している海の底
フクシマやヒロシマナガサキの夏
海よ海今朝の東北白い花
放射能まみれのあじさい子供達
吊された折鶴一枚の紙である
海鳥や海がきれいに不況です
雪だるま日に日に痩せる癌なのか
にわとりより静かに座わり春を待つ
新緑の森ビールの泡だ酒飲めない

  関 田 誓 炎
初昔肝胆を火に照らしたり
さくらに小烏きて去る波の刹那かな
水辺かな雉が新書のように来る
種物屋主人烏滸のごとくあり
有害獣研究主任にまたたび咲く
蛞蝓尊がみそぎし泉あり
自画像にささがねの蜘蛛下りるかな
雨童子金木犀を零しゅけり
星近づくからだよ木肌じめりなり
冬眠の土に寝酒を五勺かな
 
  芹 沢 愛 子
桜を離れる水から上がるようにかな
幸せと菜の花はしゃがんで見ます
八月の木立のような聞き役たち
鹿に近づく驚きの文体もって
天高く馬にも花にもていねい語
子鬼いて秋草絵巻びょうびょう
何だか親切あふれ鶴のくる日
羽根布団羊飼いのようにひとり
冬たんぽぽ明日にばかり負荷をかけ
うみどりにどこも陽炎どこも遠景

  十 河 宣 洋
蕩揺す圧倒的に鹿が居て
回転木馬星が痺れるほど零下
わらびぜんまい一存では鳥になれない
土の匂いのシベリアタイガー薄目にて
アイスバーン黒人きれいに歌いだす
耕人となり父となり光る彼ら
群像の白い重量昼の梟
雪来るや遠くの村に墓を建て
酒一壷照明弾からさくらさくら
ひやっと便器宗谷は初日の時間だな

 田 井 淑 江
ピタゴラスの定理白鳥舞い降りる
カタルシス雪の天使に見守られ
金木犀シルエットでも無言でも
ビーナスよ波を動かせ青嵐
青い繭一筋紡いで夢の中
青踏や光の破片集めけり
弥生尽地球の歴史巻き戻す
オキザリス白馬の手綱はなされたり
春怒濤かたちあるものながされて
フェニックス灰より翔る未来図へ


 高 井 元 一
朧夜の泥鰌が泳ぐ金魚鉢
能の笛切り岸に湧く春の雲
春草や身の丈ほどに湖透きて
触れ太鼓栃の実を揉む力士かな
日の出尊しわれも露めき菜虫捕る
命毛や描く曼陀羅秋の山
潮待ちの旅の一座に赤とんぼ
落葉踏んで駅二つほど膝栗毛
一人加わり湯気の傾く円居かな
米少し零すテーブル冬花火

 高 木 一 惠
靴ぬげば手児奈の素足葛飾野
鰹一本ノーネクタイの背広で来
特攻花ゴルフボールを隠しけり
コスモスや遊びのように支え合う
ピノキオは未だ木の鼻小鳥来る
慈母なりし悲母なりしとも冬椿
白梅やわたしの夜風知っている
計器振り切れし三月十一日
逃げ水や真水で洗う文明論
石ころが止まる花びら舞い下りる

 高 桑 弘 夫
瞑想をしている豆が撒かれおり
亀が鳴く俺が泣く酒依存症
東方へ風流れおり蛇の衣
ヒロシマやむすんでひらいて何かある
秋の蟻やたらに首を回しおり
虫鳴くや耳の遠くにもう一匹
行くところあるから渡る雁の掉
象に向き合えば師走の目でありぬ
探梅や奥に奥あり仆れおり
心不全備前焼などいかがかな
 
 高 桑 婦美子
白詰草針に糸ある幸のある
泣くものに勝ってどうする茄子植える
眠りとはゆるぎなきもの大賀蓮
のうぜんかずら祖国の長い海岸線
熱帯夜街に変電所が浮かぶ
釣舟草軽いものから船出する
秋風よむかし投石という兵器
堕天使の翼色して白菜は
正論で破蓮までを歩けるか
寒牡丹凝視というは魔性なり

 高 田 ヨネ子
恋の猫月光浄土横切りぬ
子の機嫌柚子湯で九九の調子よく
柿を椀ぐ子規の俳句に元祖見る
歯科医院引算ばかり年暮るる
点滴や黒い兎が光る夜
六〇年この世の定め大晦日
急がされ芽吹きの峠馬で下る
料峭や薮から棒に泥人形
亡夫の夢さめれば後は春の風邪
風邪声や牡丹の中で人に酔う

 高 橋 一 枝
春よ来いふふふと笑う孫といて
山茱萸眩し老い込むなんて不似合な
老い少し欲望田水満つるほど
嗅覚失す闇夜の萍のごとし
はたた神あっゆで玉子がジャンプした
五四三ニー釣瓶落しを声に出し
山桑紅葉流星のごと旅にねむる
瓢の実や地炉端よっておあたんな
日向ぼこ真空パックの中にかな
裸木ゆれ無一物とはこんな気分

 たかはし しずみ
摘みたての水菜みたいな午前4時
燕が来れば祖母はきれいな手紙書く
飴色になるまで愛しい春の風邪
麦の風はじめて君の溟を知る
面影は剽悍であり夏の月
せめて今は子を抱く母で原爆忌
哀楽のつたわる額木の実降る
読み耽けるときに稲穂は実りけり
まるで言葉を覚えるようにかたつむり
小さな冒険小さな夏を知ることも

  高  橋   喬
雪晴や傘で四五人斬って下校
ビル街の娘に逢ひに妻梨背負ぶ
米作れぬ被災者見てる吾れ田打つ
赤い羽根着けて葬儀に悪酔す
二月逝くどの本能も萎えたまま
梅雨荒れを喝采といふ病臥かな
一年生母に告げたきこと汗に
昨日まで春耕の婆なり柩なり
今日も暑いぞ長い長い貨物列車
尿漏れと闘ひ秋を独り昼餉
 
 高 橋   総 子
草青み裏山起こす木霊かな
谺して芽吹きは山を登りゆく
幸せは木洩れ日のよう杖の夫
穀倉は母繭倉は父聖五月
無人駅吾が懐に梅雨の星
岩山の左頬うつ白雨かな
見納めばかり追いかけている霧の村
耳鳴りや羽根の破れし秋の蝶
火の山に火の鳥飛んで新走り
吾が命羅針盤なく寒親し

  高 橋 明 江
天蓋や一本桜の無言劇
雪柳半音うわずる感情
本音とは音無しの構え水田照る
まくなぎや連帯感を密にして
人がふと遠くなる老いすべりひゆ
唐突に老いることあり引板の音
退院の満月を手に土に佇つ
悔いるとは釣瓶落しを追うごとし
喪失感とは枯菊のくれない
朝戸出の冬満月や握り飯

  高 山 紀 子
残雪を掻きて息吐く輪廻かな
白鳥帰る空に音符を散らしつつ
大扇ゆらり兜太という巨船
新緑に青春してますゆで玉子
ほととぎす消息通はよく食べる
家族というしばしの集団墓洗う
木の実らが語り合ってる子のアート
ババ抜きにババの座のある三が日
落ち椿肌のぬくもり籠に脱ぎ
カロリーのお話氷柱は今日も伸び

      瀧   春 樹
とりどりの雨傘ひょっとこおかめかな
玉葱腐る定型という自由
死ぬまで戦後秋冷へ割木積む
龍の玉昨日落した目の鱗
嫁が来て村に小鳥の樹が殖える
妻がいる田水のように朝が来る
歯を洗う朝氾濫の河があり
いわゆる戦後スカイツリーの蝸牛
箱の中では箱のかたちでいる木枯
鷹の爪熟れたり朝寝していたり

  滝 澤 泰 斗
房総を木枯らし暴走して海へ
駆け上がる雲も陽もない菜の花忌
香水と汗うすく伸ぶ夜間飛行
聖書のごと歳時記開く今日の春
落穂なる言霊拾う記者四人
流氷が抑留の霊乗せて来る
鰯群れ鯨の影や鮫を透き
小春日や背中は光に走り出す
住職はソリスト蝉の読経背に
似て非なる子が育って種を撒く

   瀧 村 道 子
先頭はもうキツネなり落葉坂
カスタネット奏者三人霧の磴
芋の露家族でありし漂泊者
菜の花御飯地平線まで見えている
パジャマでいる朝のきれいな春キャペツ
まほろばは非戦のかたち烏賊すだれ
ねこじゃらし耳ほじくれば垢の音
日本狭しカーネーションのセロハン解く
陽炎へ死者出る真新しきかな
のめり込む雪庇あり家族あり

 田 口 満 代 子
米とぐも夢の中なり尉鶲
寒満月ぶどう畑はどの辺り
てのひらの浅瀬ここより雛流す
飯蛸に闇ありわれに愁いあり
探偵のように遊んでダリアに蟻
水の秋羽ばたくさまを藍という
うたた寝は父のさすらい藤袴
蛇穴に清(さや)と伏せたる睫かな
耳底は砂丘なりしよ南吹く
コーランの夜明け白ばら在りますがごとき

 竹 内 一 犀
春星にスプーンー杯分の黴
泡を吐き泡を呑み込む春の闇
背を伸ばす耕人地球の芯となり
黙考す最も小さい青黴柑
青柿にうっすらとした黙秘権
パラソルを回して乱世の極座標
信じるは豚足夕陽澄みわたる
寝たきりを担いで葬の端に立つ
そぞろ寒ペーパーバックに石ひとつ
悲しくんば頚動脈に打電せよ

  竹 内 絵 視
列島の胸元裂けてリラ滴り
胎動の人呑む海鳴り何生まん
百の芽が重い瓦礫にあえいでる
雪の六面体から今日を見る
さるすべり薄紫の腕(かいな)が窓辺
レース状の太陽浴びる凍蝶よ
希望七彩なれど山々裾野繋る
ユーラシヤの衿巻の端(はじまり) サファリッ惠須取
サファリン還らず遠い銀河へ櫂流れ
橇が揺れユーフシヤの長い衿巻揺れている

  竹 内 義 聿
六月やあざらしがいるパーキング
睡蓮の池が市場のようであり
あざらしとカトレア頷き合っている
海豹に櫓田コミカルホットケーキ
バス停が母の位牌のようそこに
蟠りなく菜の花はまさに理性
ぬるぬるとスピード津波悪阻の妻
大阪とか大阪的とか雪の日も
あざらしが羅漢のように花の下
いつも真ん中に在れ躑躅とヨットハーバー

  竹 下 須 美 子
黄砂降る薔薇園のばらおぼろげに
藤棚を通り抜けたる虚空かな
孫の声ゆたかに話す麦の秋
雉子鳴くや無性に鳴くや白牡丹
谷間の宿無燈なつかし夏の山
七十路の友等なごみて青胡桃
柿青し犬連れて少年饒舌に
マスクして歩け歩けの励行よ
雪降るや神の夜伽の里神楽
葱焼いて家族ほうばる至福かな

 竹 田 昭 江
きさらぎの窓に凭れて老いる猫
桃の花なぞなぞ遊びこわくなり
雪柳死者にも朝の訪るる
でんでんむし漱石先生偏頭痛
へこへこのバケッハ月十五日
追憶に裏声のありジギタリス
雁渡し父さんのような丸木橋
あんこうのべんべんだらり吊られおり
霜の花父の知らない母の森
山眠るスポイトのぼる青インク

  武 田 伸 一
農具は脆く立っているなり雛の家
はつ夏のもやもやの長女のこども
上総三日月波は野菊の上だという
冬銀河涛の奈落のあるばかり
春の蝿愚問多発のくちびるに
ふへふへと花の根元の酔っぱらい
河津桜に雨金目鯛のひもの
夏の雨巨木も我もはるけしや
サーカスは蠍座の尾を浸しけり
子供歌舞伎まだ始まらぬ常闇や

  武 田 美 代
樹は鳥のことばに組まれ春の沼
あぢさゐは多情多弁な私です
眼鏡はづして煤逃げの犬とゐる
噛むほどに貝柱なり余寒なり
青梅はやや子のふぐりいっとき晴
さっと風花海洋型の男なり
死に蝉として四五日を吹かれをり
覚めてまた眠し九月の柱かな
流星や水際のやうな人とゐて
机の上きれいに雪を待つ子かな

  舘 岡 誠 二
五能線ゆく神楽師にばった跳ぶ
奥羽のくに雪で喧嘩がはじまって
雪に吹かれ鳥のかたちの若い僧
雁が音や酒酔いやすい尺八師
ゆきずりに野武士のような蕨狩り
釘ひろう癖の男が雪の原
喪が明けて田植の足を拭く女
名刀展見てみちのくの早い冬
燕来る男鹿の漁師の大法要
ナマハゲの面を飾って稲を刈る

   田 中 亜 美
紅梅にどこかはぐれてゐる透明
鉄の軌道鉄の心臓末黒野に
卯の花腐しぬるき火傷のやうな唇
夏木立カナリア色に肩抱いて
抱きとめてほどいて (わたし) 水母浮く
くちなはと人売られゆく晩夏かな
砂嵐混じる抒情や雁渡る
息絶えし馬を焚火のごと囲む
海峡に鯨うすむらさき縷縷と
かりそめの頸持つわれら独楽を打つ’

   田 中 正 能
牡丹雪口中に享け不老不死
赤とんぼ焦死を目途にいよいよ降り来
羽化するや飽和崩るる世界かな
脱皮の蟹矢鱈に多し病舎溝
風船玉膨らむほどに青地球
白昼夢かな昼月 チャルメラ クローン達
中天に只ある満月ナルシスト
雉子歩む砂漠の果ぼろぼろ太陽
原爆で無き大震災だ「滅私奉公」で行こう
原子力は子ユーフォーの発信平成の混

  田 中 昌 子
白墨の遺書のようなり夏アルプス
発心とや馬の影追うへんろ笠
白鳥座天幕張っての暮しです
きさらぎの離宮截金(きりがね)杳とかな
一切を桐の家(や)に置き忘れ捩
花はさくら木鶴のかたちに抱きあえり
當麻白鷺つっと爪立ち私語(ささめごと)
葦の鳴る近江相聞の地鳴りよ
青田のむこう病むひとに添う山の神
慈悲心鳥太古の一心不乱かな

  田 中 雅 秀
連絡はしないよ君にも蛙にも
石あやめきっと僕らは大丈夫
なかよしや微妙な距離のフラミンゴ
白鳥の声する真夜のココアかな
清明の回転木馬に跨りぬ
切っ先の自分に向いて芒原
紫甘藍明日からの日常
白鳥帰るぐだぐだの私を残して
薪くべる誰かとつながっていたい夜
菜の花の向こうに降りる予定です

  田 邊 佳 津
産土は青田波なりわが名呼ぶ
いつか死ぬ人と並びて昼寝かな
ゴーギャンの色滴らすなめこ汁
石ころになって野分を浴びている
短日やひとの時計の針動く
冬の蝶歩むに羽を使いけり
ふらここやきのうきょうあすいつも今
よもぎ餅母なる色に搗き上げる
人間は土の器よ涅槃西風
武蔵野の臍に住むなり青葉風

  田 浪 富 布
アカンサスの花とくとくと胸騒ぎ
延命の階段の数額の花
吊し柿晩節乾ぶまいとせり
凍蝶の金剛力の静止かな
水音を胸に満たして冬耕す
固さ割る南瓜の腹のあっけらかん
つぶつぶの言葉一筋揚ひばり
滝溶ける刹那せつなの音集め
花水木空を冷たくして咲きぬ
密会のごと桑の実を唇にせり

    佳  紀
ブーゲンビリア雨の昨日と晴れの今日
秋が来てレモンの木から鳥逃げて
猫は足もとそうかぴよぴよか
馬と遊び寝ぐせの髪はみっともない
階段が心のようでなんじゃもんじや
ひったくり犯は元気夾竹桃を曲がる
いちじくのピザには鈴の音の馬車よ
秋の子に草歩き出すと止まらない
この川は海に行かない草紅葉
一匹と呼ばれた頃さ冬桜

  谷 口 道 子
蕗剥くや自分本位の自責ふと
濡れ睫虚空へ端座の梅雨の犬
眠くって母ちゃんがいいの罌粟の花
露天湯は少女らの群れ揚げ花火
線香花火ふくらむ先に兵の顔
葡萄狩り鼻先房に触れにけり
星月夜老犬ぐんぐん引っ張る気
かえで落ち葉踏めば毀れゆく朝
呼吸器の音は寝息に春の午後
母の骨粉つかの間秋の波とあり     海洋葬

  田 沼 美智子
冬夕焼自分を釣っている海に
数の子噛むと暗算の音がする
白障子手より飛び散る言葉かな
調理師の舌の切っ先麦の秋
春耕すひとのかたちに水溜り
雪砕くたましいに日を当てるごと
白玉や飽かず脈打ちありがとう
十一面の一つ覆面茅の輪くぐる
平泳ぎ海底火山この辺り
ラムネ直ぐからころからころマンネリズム

  玉 木 節 花
蛇穴を出るに出られぬ瓦礫山
乗り合わす舟の一会や芭蕉祭
身を飾るものをはずしてより涼し
退屈で死ぬというひと金魚飼う
飛んだ日のあるたしかさの蝉骸
身の何処か飢えたままなり終戦囗
生き残る方に廻され終戦日
烏瓜無用の用の赤さかな
瓜坊に出迎えられし開拓地
落葉踏むときの地球のやわらかし

  田 村 勝 実
鐘が鳴るまで御所柿を喰っている
爺も婆も美人林の落し種
わが貌の雲に包まれ水の秋
猫の額だなと黒揚羽一巡す
新松子姉が拗ねたりわらったり
雪丈余掘って婆待つ春よ来い
シーベルト・ペクレル 燕反転す
ぺんぺん草のいやだというをむしり取る
滑落の報や真夏の真昼闇
人の世をアナログに生き雲の峰

  田 村 蒲公英
引鶴や湿布張り替えストレッチ
皇(み)鈴山櫨の花のぽつりぽつり
白鷺群れて泰山木咲いたよう
牛に塩盛りて別れの立夏かな  東日本大震哭
梅雨最中僧に貰いし絵ろうそく
衣擦れや錦帯橋を蛇が来る
菊の被綿たっぷりと母の介護
殖えすぎた仙人掌倒し魘される
薬掘り打つつけあって泥落とす
山紅葉しゃべり続けて今朝眠い

   月 野 ぽ ぽ な
街灯は待針街がずれぬよう
高層という滝の只中にいる
泉の集まる傷つきやすき袋達
ずぶ濡れの音して咲けり凌霄花
野分あと草とわたくしと混ざる
母に添い寝雪の深井戸のぞくよう
鳥よりも高きに棲むを朧という
波打ち際は初夏の鍵盤指を置く
一よりも淋しきいのち髪洗う
風を乗り継ぎ光る本光る木の林

   佃   悦 夫
銀河系源流より妻嫁し来しか
風光る妻の鱗粉浴び放題
山法師吾妹の枕詞にす
白桃と交配したる髪膚かな
白桃と生き写しとも言われいし
大腿骨骨折霞捉えんと
白蝶の脚折れたまま夜の来し
藤の花より顕つ石に閉ざされて
満月を背に郎女(いらつめ)と言うべかり
蓮の実胸のくらやみに泥(なかず)むよ

  津 野 丘 陽
少年のメールのように動く蝌蚪
朝餉済ませてわんわんと芽吹く山
青蛙尼寺に亡命者がいる
密室に少年がいてぶどう吸う
空梅雨の赤いシグナル失明前
曼珠沙華死角で人が焦げており
ボサ・ノーバ向日葵の種子充実す
月の砂漠旅のラクダは撃たれけり
ポインセチア劇画のように船沈む
わがままな蝶来て困る冬の川

  津 波 古 江 津
みかん山豚がわらっているようだ
長葱のあおいところがさびしがる
きさらぎのともだちみたい原っぱ
ぴくるすのぽこんぽこん春がくる
野あざみの魂魄湿ってはいないか
鶏にまぶたまなじり南風吹く
野尿りは恋情に似て花いばら
夜に湧く井戸もあるべし椎の花
菊芋の妣はとろとろと来たりけり
海流のぶつかるところカンナ咲く

  董  振  華
悠々山河の音のっらなり朱夏落日
韻律のようキリギリスは巡り来ぬ
洗い立てのシーツのような入道雲
窓叩く山霧の音のさまざま
万里の長城でんでん虫振り向いた
すっと寄り添うくるぶしや罌粟の花
混浴や衰え咲きし紫陽花に
仮設住宅の放送聞こゆカナカナカナ
明月を独り占めして対飲す
逃水や髭を剃るとき思い微か

  東 海 林 光 代
振り向いて突き上ぐ鶏の目の赤き
蚕豆の厚き皮もて母性かな
涅槃図のごと大壷寝かす余震来て
畑打ちの軍手知らざり敗戦日
秋天を蹴上げて赤子生まれけり
茸らの哄笑ひそと月の山
戸袋の守宮に飼わる女かな
頬骨の死屍となる時遠き雷
寒卵教師の喉の上下動
地吹雪に少年転ぐ無音かな

  峠 谷 清 広
冬至湯や故郷の言葉で独り言
酔った俺に執事みたいな冷蔵庫
冴え返る白髪は私の楽器です
群衆や西日に弱味を握られて
春愁へ息子のオナラ乱入す
東京やクーデターみたいに冴え返る
オフィス街視線ぐしゃりと落ちて冬
難聴に差別に耐えて新酒かな
国家なんか恐れぬ妻の裸身かな
父母に写真のように静かに春

  藤 間  雅江
夏の月涙の涸れるまででいい
冬銀河拍手喝采君にあれ
穴惑い肝心なことはいつもあと
寂しさは名のみの春よお茶どうぞ
滝の壺縄とびに飛びこむような
花火鳴るどこへも行けぬ身のどこかに
炎昼を鉄の匂いの男来る
朝光に心重ねる令法(りょうぶ)の花
身のさびを拭いきれない紅葉狩
紅梅やなめらかに話してよおとうとよ

     遠 山 郁 好
花は葉に掬えば水の華奢なこと
童女いてかなかなの神さまの隣り
遠くとはユーフラテスのふらここよ
煮凝りのようでもあり民族は
秋黴雨人の気配を淵という
芋煮会芭蕉の杖のぬっと出る
夕靄を野饗と呼べり吉備の大
火星接近クリオネほどの翼持つ
鷹渡るわたしのまわりの花や海
少年が囁く草の恐怖かな

  時 広 智 里
永遠の友情の夏兜太の碑
青山河前も後も抱かれけり
帶締めて七種粥と膝合せ
天の声地の声ありて若芽出ず `
秋の月招きは多し秋吉台
音あらば華巌の滝へと心入る
童を呼ぶ桜吹雪のぶらんこから
濃い紅葉秘境に入る壺の口
島ひとつ掴んで掌を見る野分かな
いつまでも赤いカンナは故里です

  徳 才 子 青 良
風花はだれもがゆきつく上野駅
赤紙が来ないからまいにち赤蜻蛉
ただひとりの陸軍記念日となりにけり
すぐに泣く樺太生まれの雪解川
北四島よおよいで來いよ干鰈
死ねば青田生きては休耕田つづく
休耕田西の角から噛ってみる
休耕田とんぼを釣って暮らしおり
稲架中隊八甲田山で全滅せり
戦友も生友もいる蝉の殼

  徳 永 義 子
海流は鬼哭啾々鳥渡る
山征かば征きてあまたの螢かな
銃機朽ち風葬山河星月夜
海を見た二足歩行で森を出て
夏岬風よ光よ気化するわたし
紅葉照る窓もわたしも此処に古り
少女老ゆ永き戦の長々し水脈
点滴のほかの時問は海月でいる
還らざる兵士ら老いず花あかり
泰山木重機関銃朽ちて土

    徳 山 栄 美 子
鳥が木に吾も木に住む夏館
鰯雲真実一路の生き方で
天高し山の国には山の神
赤蜻蛉群れて一村染めて行く
冬来るビルのガラスへ鋭角に
小春日や笑う門には山の神来る
日向ぽこ絵本の世界に孫と居る
新年会山動かしてみたくなる
山の神田の神すべて春を待つ
早春やうたう己の先々で

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