2017年11月16日

海程句集3【同人の章・あ行~か行】

「海程句集3」平成24年 金 子  兜 太

左義長や武器という武器焼いてしまえ
差羽帰り来て伊良湖よ夏満ちたり
夏の猫ごぼろごぼろと鳴き歩く
老母指せば蛇の体の笑うなり
長寿の母うんこのようにわれを産みぬ
定住漂泊冬の陽熱き握り飯
熊飢えたり飢え知らぬ子ら野をゆけり
病いに耐えて妻の眼澄みて蔓うめもどき
合歓の花君と別れてうろつくよ
言霊の脊梁山脈のさくら
今日までジュゴン明日は虎ふぐのわれか
マスクのわれに青年疲れ果てている
わが修羅へ若き歌人が醉うてくる
津波のあとに老女生きてあり死なぬ
今も余震の原曝の国夏がらす
被曝の牛たち水田に立ちて死を待てり
被曝福島米一粒林檎一顆を労わり
泣く赤児に冬の陽しみて困民史
東京暁紅ひたすらに知的に医師たち
樹相確かな林間を得て冬を生く



「海程第2句集」平成14年 金子兜太
梅雨の家老女を赤松が照らす
少年二人と榠樝六個は偶然なり
小鳥来る全力疾走の小鳥も
酒止めようかどの本能と遊ぼうか
二階に漱石一階に子規秋の蜂     愚陀仏庵
長生きの朧の中の眼玉かな
夏落葉有髪(うはつ))も禿頭もゆくよ
青春が晩年の子規芥子坊主
春落日しかし日暮れを急がない
よく眠る夢の枯野が青むまで
鳥渡り月渡る谷人老いたり
妻病めり腹立たしむなし春寒し
雪中に飛光飛雪の今(いま)がある
暁暗を猪やおおかみが通る
おおかみが蚕飼の村を歩いていた
おおかみに螢が一つ付いていた
おおかみを龍神(りゅうがみ)と呼ぶ山の民
龍神の障(さえ)の神訪う初景色
山鳴りときに狼そのものであった
月光に赤裸裸な狼と出会う

「海程句集1」昭和57年  金 子  兜 太
霈の村石を投うらば父母散らん
どれも口美し晩夏のジャズ一団
無神の旅あかつき岬をマッチで燃し
三日月がめそめそといる米の飯
人体冷えて東北白い花盛り
犬一猫二われら三人被爆せず
暗黒や関東平野に火事一つ
霧に白鳥白鳥に霧というべきか
富士たらたら流れるよ月白にめりこむよ
あきらかに鴨の群あり山峡漂泊
梅咲いて庭中に青餃が来ている
山国の橡の木大なり人影だよ
旅を来て魯迅墓に泰山木数華

 相原 左義長
穴を出し蝉がもらした活断層
もどり鰹土佐の「はちきん」たたきに限る
飛花残花人間よりもおごそかに
神を説く青年ぬれし海パンで
見えぬもの見たくて海路ヒロシマへ
駅の名を問えば原爆ドーム前
水は米だ父が残せし莚機
明けて卒寿問えば正岡子規大賞
濳艦忌虫籠吊りし海軍少尉
父の斧ありし記憶の山眠る

 相原 澄江
一つ蝶追うも追わぬも捨聖
鬼灯を鳴らす少女ら戦争あるな
消えぬ虹継子の尻拭いも咲いた
着こなしの良さも茅花を流すとや
金縷梅尊し活断層を鎮め
風邪ひくもひかぬも自由オバマ大統領贔屓
眞土石庭金輪際の白梅一木
天までとどく階段ありて晩安
核廃絶の砦となろう広島忌
屁屎葛は戦さの日日を忘れない

 阿川木偶人
豊旗雲蛸壷に蛸の高鼾
枯葎生れてみたら猫だった
梁(はり)ハリと蛇も百足も音たてて
邂逅も流離なるべし胡蝶蘭
即答の要らぬ友なり枯はちす
黄落は目薬の木と覚えおり
竹馬や遂に変らぬ二枚舌
骨肉の甘えと憎悪雑煮餅
善人と言われて忸怩冬灯し
御立会 生まれも育ちも蜃気楼

 阿木よう子
落花ですふふと逃げる子促えた
棒切れで戦知らずが野に遊ぶ
鍵っ子の鍵があかない春隣
落ちそうな椿落ちたら帰ろうね
春キャベツに振る幻とゆう塩
杉の実の鉄砲ここは父の道
黙ったら凍てた夜干しの音がする
首尾のない汽車発着す蜃気楼
秋の灯はポツンと鳥居につく故郷
冬の里ぼやっと灯すひたひた灯す

 浅生圭佑子
君子蘭含み笑いをしておるか
中部地方メロンのような日柄かな
曼珠沙華来し方すでに万華鏡
半島や圧倒的に赤とんぼ
いぼむしり言葉尽くして疎まれし
疣むしりいまさら腰の括れなど
供養とは語り継ぐこと花は葉に
文字持たぬ民のありけり青葉木菟
養花天あやふやな問いあやふや
熟柿啜るスプーン一杯の歓喜かな

  足利屋 篤
自画像にあかんべえして春の旅
げんげ田に街の子五体投地かな
詩を書くに四股踏むことも夏の月
八月六日運河に零すボトルの水
蟻の道に晩学の唾落しけり
鹿鳴いて言葉のように山河あり
朝顔は真顔で帰りは混むという
星月夜煎餅のようにLP抱き
哺乳類は哀し転げる毛糸玉
手を胸に眠る霜夜無神論者

 阿辺 一葉
三陸や瓦礫のクレヨン映されて
躑躅山足もと見えざり頬つねる
啓蟄やぐずぐず髪を梳いており
河口ちかく春霧湧いて戻される
かすむ河口順番待ちの雨や縦し
待つというは石鹸の泡かな花すすき
紅葉狩慎重に連らなり漫画です
桜紅葉涸れたくしゃみに紛れたい
棟の実琥珀のしずく衿仁通す
川溢れる詩經国風より花蓴菜



 阿保 恭子
梅にくる気まぐれな雪加餐の君
水底の力や花咲き花散れり
雀が遊ぶキリンの背なか柏餅
青大将樹にいし夜の微熱かな
君の薄闇六月の草の青さや
海に没る陽をふところに立夏かな
けんこんと木は木を呼べり夏あけぼの
怜悧であること青瓢箪長きこと
ふるさとは渚につづく星河かな
冬構断固眠らぬ岩もあるかな

 新井 娃子
きのこ飯われ居て姉妹寄る生家
藪過ぎる地影ふくらむ葱畑
春草や陽に出て仕立おろしの風
洗い張りする母の背に草矢かな
遠青嶺あり老いゆくを焦らない
青柿や喪のかさなりしわたしの荷
思い出の毛糸いろいろ炬燵掛け
聞き馴れし鈴の音はしる仔猫かな
永き日を愛す八十路を歩き出す
霾や倒れずに居し父母の墓

 有光 米子
   終戦・残留・引揚余情
大陸に残留きめし八月十五日
終戦や白衣のポッケに麻薬(モヒ)秘め
満鉄魂赤十字旗に託す秋
難民のコレラ・チブスに惑わされ
救護終へ横たう雜寝の九月尽
  第二大海丸最終引揚病院船
月冴し故国に向う病院船
  長崎沖に1ヶ月
コレラ発生晩秋の沖に隔離され
給食や高梁飯受くアルミ椀
秋深む玄海灘の夜の葬
月に祈り艫より葬る幾柱

 有村 王志
熟柿落ち阿鼻叫喚に形あり
金輪際笑わぬ月の旧家かな
死ぬまでの戦後木に蝉兄は兵
オホーツク落暉は大陸焼く貌だ
青葉闇無我とは山の巌かな
煮凝や逝きて岳父の戦後果つ
青き踏む人間無冠の力かな
山奥の仄と声満つ田水かな

 安西  篤
存在や三尺高い木に梟
ちちははのらせん構造桐の花
大花野ぼくの臓器(オルガン)鳴りました
刈田とメリヤス)に大外刈の足入(お)しといい
原子炉に生ゴミのある雨月かな
草原に反歌の座あり吾亦紅
人間に蒸発の音山眠る
空瓶の透明サウンドレノンの忌

 安藤 和子
曼珠沙華闇は固唾を呑んでいる
晩年のいま形代に鳥となる
抱くための腕は月へ預けたい
筆圧尖る生存証明小鳥くる
鬱々と斜め読みする青蜥蜴
魚群泳ぐ梅雨茫々のスクランブル
おたまじゃくし眼裏熱く愛と書く
釣瓶落しという華麗なる難聴よ
麦の秋もうすぐ父となる翔音
啓蟄や世界遺産に奴隷の家
 飯土井  志乃
山下りて男米とぐ妹背鳥
暁は拳石蕗の花咲けり
山頂に鷹柱めく男あり
一燭朧朧くっさめのあと大欠伸
甘きな春泥動く泥の音
呆橋を越えて木の橋渡る春
荒縄に露のるいるい魄のことなぞ
延暦僧録白蛾の静止水平に
鳥なべて低きくもり日麦の秋
黒猫の梁に撓うも夜神楽や

 伊賀上 寿賀子
身をかがめ昭和を覗く蝉の穴
キリンより暇な真夏のすべり台
さよならと云えば何処にも雲の峰
躓いた石が声出す大銀杏
大鉑や別子銅山人は霧
賑かに別れて一人法師蝉
やわらかな時間の中で葛の餅
白きもの白く干されて梅雨明ける
霜降るや衣桁に覗く江戸小紋
頑張れよと云いたくて云えなくて霧


 五十嵐 研三
軽トラックの荷台に獅子舞乗って来し
書初や母の名確かと片仮名フミ
祖母へ寄り春眠に拠る避難の子
掛布団に脚載せ寝るや明易し
機械田植の根付くを微風にも恃む
右脇腹を伏せて寝恃む熱帯夜
今も上向く学校の蛇囗原爆忌
指もて圧すに熟柿の肉の凹みけり
ダム底の村落と揺れ冬銀河
大年の大糞認め北叟笑む

 井 川 淑 美
田水張り土着の生命呼び覚ます
辛うじて線香花火のごとく生き
囗開けて昼寝の老母ゆるぎなし
蝉しぐれ孫よ「ヒロシマ」学びしか
敗戦忌われ黙々と鍋磨く
耳鳴りや金管楽器の冷まじき
老いの翳いちにのさんで秋天へ
亡父の背思いおこせば竜の玉
愛憎や銀杏落葉に神宿り
雲ちぎり城へ飛ばせば虎落笛

 伊 佐 利 子
初詣で松の隙より記紀の海
老姉妹雛に横たふ琴二面
家解けば元の野となり花すみれ
病む人に雪かと問はる灼け瓦
ガラスの金魚電池のはたる写真の父
金印の島無頼派の島晩夏
みすずかる信濃や霧の繭の中
阿蘇寝釈迦なんでもない夜の虫しぐれ
瀬音伸し小春を畳み蕎麦を打つ
湯たんぽも母も単純明快なり

 石 上 邦 子
あたらしい油が跳ねる謝肉祭
青葉隠れアクロバットの美童かな
地虫鳴く夜はポップコーン山盛りに
病棟は万緑の中手を振りぬ
やけに静か血管外科と黒葡萄
ひとひらの雪を吸い込む蝉の穴
月光に姉妹六人集いおり
意志的な靴音ひびくきさらぎや
自分になれる喧噪の汗のサイゴン
我がふるさと活断層に種を蒔く

 石 川 和 子
風邪ひきもいるらし洛中洛外図
笑初して少年変声期に入りぬ
八月や軍艦巻をほおばる子
梅咲いてひとつになりぬ秩父かな
陽炎をはねのけて来る中学生
少年と地質のはなし望の月
冬霧はおとな育てる時間なり
濃淡の櫓田神の遊び場か
東風吹かばきちんと気持伝えねば
撓うこと忘れていたり石蕗の花

 石 川 青 狼
梟の面構えして新生児
矢は熊へ蝦夷国風図絵屏風 (えぞのこくふうずえびょうぶ)
鮭面を差出し別寒辺牛川本流(ベカンペウシガワ ホンリュウ)
純粋に鶴見る哀しいほど日本
妻よ今年も雪投げ場なく逃げ場なし
懸命に泣く児が吐いたダイヤモンドダスト
鶴と歩むスピードはもういいだろう
また雪が降るひとごとのように降る
いつまでもまぶしい冬木存在す
友は手で首切るしぐさ雪しずか

 石川 まゆみ
薫風やくちは新色死うっくし
秋の山因縁という貴女かな
細密画のような皺あり村芝居
水になるまで百足虫をたたく寂しさよ
花の山今際の囗は透明に
夏山のもう手の届かない白さ
靴のかたちに音を残して霜柱
菱形の言葉をじっと冬芽かな
大暑かな二足歩行の他はなし
黍嵐事務屋ひたすら紙めくる

 石 田 順 久
春の山しんと隆起の途中なる
養蜂家族強東風の杜抜けて来た
反時計廻りの私桜騒
ニセアカシア湖の階段夢見がち
血気盛んな童女に蹤きぬ一遍忌
軍鶏三羽透けるまぶたの日向ぼこ
雀蜂ほど善良な戦士はおらぬ
滑舌という白曼珠沙華曼珠沙華
煮凝りやぼくはあなたの息子です
力づくで剥ぎ取る軍手冬灯

 泉   尚孑
ざくろ熟るこころ一つがうす笑い
十年の金魚しずかに仮装する
老いの夏鉢を枯らして始まれり
蜂骸紙より軽き一会かな
雪柳ぽとぽと泣いて地にふるる
渡れない十字路があるどくだみ草
母郷に叛いて軽いふとん干す
岩かげに去年の空蝉春の暮
石形に走る蜥蜴の先の闇
若気とは引けばもつれる蔦かずら

 一ノ瀬タカ子
濁流や朴の咲く日は音消して
桜桃や膝をたたみし夜の馬
蜻蛉追う身辺軽きメモばかり
病む者の指折る仕草流れ星
軽い嘘白菜噛んでどこか冷えて
打ち水の曲線遊ぶひとりかな
麦飯や雪嶺の崇のおそろしき
視野狭窄落鮎はねて射程距離
餅つきて山に帰りし日暮かな
夏の地震真水静かに噛んでおり

  市 原 光 子
耕という円形劇場に一人
選択肢三つ 春泥飛び飛びに
耕人に風のアドリブ斑のように
野鯉群れて僧に教師に目借時
鮎溯上人を匿い風の襞
豪雨三日バケツリレーのようにかな
青鮫もわれも卍に阿波踊り
綿虫や地団駄踏むよう擦れ違う
大根煮るつっかい棒のような長女
冬の家可視光線に子供達

 井 手 都 子
絵蝋燭そこはかとない発芽です
月おぽろ滑落馬体に触れている
初夏の波ときどき遠慮のない目玉
月食の黄泉へ白転車とりに行く
不時着の気球であろう草紅葉
遠景にゲリラ傍らに花咲蟹
秋の人ふいにシロクマに傾斜
緑鳩よワイングラスを拭いた布
腕に電流知らない冬の鳥来てる
鮟鱇は自分空間に漂える

 伊 藤   和
初紅葉鳥籠ほどの釈迦堂です
くちびるに磁器のひびきの朝ざくら
遠き日の影絵見ており地曳き網
片頬は海照りですか野水仙
陽を浴びし老女はたんぽぽ牛鳴きぬ
手ぶらという身の不均衡花りんご
枝垂桜歌垣のよう拗ねるよう
凌霄花華やいでいる表向き
藤揺れる彼方に芯となる孤独
夜光虫わたしに完璧なアリバイ

 伊 藤 淳 子
漂流がはじまる春の本気かな
誰かまた鳥の名を言い受験生
水に映りししずかな感情五月来る
一泊の海のうれしさ鵜のむらさき
蛍飛ぶまるで不安な皮膚感覚
河骨や一日をもう置き去りに
草いきれ海流どこか寝覚めのよう
月白にただぼんやりと家族かな
花は葉に言葉を囗にする不安
夜更かしの空気集まる山法師

 伊 東 友 子
園芸が大好き使い切る日永
猫よりも曾孫(ひこ)に似合いのねこじやらし
鯉の洗いの紅色ほどに娘の円み
聖五月ジーパン細身の婚約者
百合繚乱リフトの脚の触れんばかり
仮名文字の気難しさよ式部の実
梨の花空気のように人消える
花林檎お国訛も持って逝く
蝶追って黄泉平坂(よもつひらさか)越えゆきしか
喧騒を攫っていった秋の海

 糸山 由紀子
薄氷にキリストの貌ブッダの貌
白桃やクリムトの絵の前に二個
焼芋包み開けばビンラディン氏の貌
跪く空蝉の鈴生りの木に
敗戦日友垣中国残留孤児
一捕虜の父の奏でるバラライカ
立春大吉梟の置物買ひに行く
鍵穴から出てくる出てくるほたるかな
ふらここ漕ぎ人間毀れてしまひけり
消えてゆく記憶も尊し復活祭

 稲 葉 千 尋
夭夭たり木曽川を行く蛇の衣
象色の藁焼くけむりわれは草
スズメバチ庇はすごい磁場である
島の海女耕人となり母となり
山古志の霧晴れて牛角突けり
実柘榴と法然上人赤ら顔
満一歳鶺鴒ほどの小走りや
黄砂のハA病棟に来る牛乳売り
蛇掴みて仲間はづれと思ひけり
炭窯は山を離れず父は亡し

 井 上 湖 子
酌み交わす尾花となじむ泡立草
蕊の黄を独りの溟(うみ)に寒椿
卓球の流星桃の花咲かす
  木田柊三郎氏逝2句
稲妻にさとられていた大野鯉
枢撫で老母(はは)の掌二月は虚しかり
泪なし木崎音頭に鳥渡る
道着吊り青嵐自由学自由
栗の花奪衣婆の在所かな
秋の彩樹のさざめきを臥す妻に
 渡良瀬上流の郷
山河あり芒の勁さの黒川衆

 井 上 俊 一
春は遅々遊び上手になろうと思う
ぶらぶら呆けてふわふわ春のど真ん中
今日もまた春からはみ出している男
花疲れのっぺらぼうという感覚
麦秋一望句読点というべき俺
空蝉並べ合唱団を編成す
酔芙蓉今日もにんげん稼動せず
葱匂う誰とも一日喋らぬ日
無関心という視野にいる寒鴉
俺の地図は茫々と冬田ばかり

 今福 和子
わが友ら長命にして梅雨鯰
燃ゆる緋は篤姫の彩海紅豆
産み月や故郷の花火打ちかぶり
余花飛んで鳥獣わたる眼鏡橋
父の日の羊の乳房桃色に
黄塵の馬蹄を磨く男たち
真夏日や死装束の髪を梳く
雨樋に草伸びあがる秋思かな
蹴り倒す根株にこもる猟銃音
鶴の掉さつま言葉は語尾あがる

 岩堀 喜代子
古民家に湯家立ち上る淑気かな
春の地震津波原発指足裡ぬ
頷きも日々浅くなる春の闇
薫風や励まし託すみちのくに
山法師魂少しやわらぐよ
晩年の友を連れ去る酷暑かな
小さな秋うすじめりして辻楽師
微笑みが足りない秋の鏡かな
釣瓶落し喜寿から先の予定表
末枯れて来るべきものや反芻す
  植 田 郁 一
描ききれず征く夕灼けを妻に母に
学徒出陣撃たるるなと父撃つなと母
仏壇に野菊絵筆を供え征く
征かせてしまって母寒灯にエプロン解く
月は見ている野営行軍往復ピンク
故郷(くに)は一緒か千人針に蚤貌出す
汗の軍服痩せた自画像と垂れる
蛍を見たら抱いてください母上
立ちて消える虹の両極征きし逝きし
桜前線知覧綻ぶ沖縄散る

 上 田 和 代
鴬鳴く熊野古道の過去未来
三熊野や脱兎のごとく駆け抜けり
空耳か万緑の中聞く神楽
しんがりは気楽と決め込む夏遍路
出雲路や日暮れしぶとく明け易し
校庭の声消え夏蝶津波跡
遠ざかる亡夫振り向かず夏帽子
老いぬ亡夫羨まし夏七回忌
墓洗う娘に早や白髪水入らず
耳遠く聞こえたふりに油蝉


 上 野 昭 子
耳打ちの受賞大根炊きはじむ
鮟鱇の少しの間横になる
猪垣に逃げ道のありははを焼く
煤逃や老人手帳ふところに
暗涙のゆきつくところ春の月
金山に日銭と茅花流しけり
露草や空缶拾うほどこごむ
放精の終りし河豚と目が合いぬ
句敵やそれとも寝ずのほととぎす
蒟蒻の感触姑と母を看る

 上 原 祥 子
寒鰤は人生の材料になり得るか
萬緑や一千万人のイエスがいる
曝書して牛の歩みの黒々と
蜂の仔喰うて愛の荒廃思ひけり
雪兎割って喝と深緋の明るさ
月の座に零の零など集結す
空想の父母よ木の実降らせよ黒海に
影たちの困惑斑雪野にひろがって
春のからだ無畏の軌道を描きをり
象の肉体処暑にただ分解す

 宇 川 啓 子
囀りは伝言のよう黙々と列
春日影不在のように坐す少年
ほんとうの空ここにある筈犬ふぐり
花筏万の憤りと万の黙(もだ)
揺れる奥ごろんと諦念青葉木菟
運不運ころげ生抱く青葉潮
大手毬小手毬十人十色の大丈夫
福島に坐し福島を見る夏野
忘却の不安平安種なし葡萄
地震に生る赤子すくすく掌に蛍

 宇 田 蓋 男
パソコン講師顔の中に鼻がある
赤蜻蛉火の粉払うようにはいかぬ
こんな毎日沢蟹の速さの危うさ
完璧主義者へことさら秋の蚊が飛ぶよ
おいどの肉落ちて胡坐の夏来たり
肥後の女は筋金入りの眠りかな
トルコ桔梗踵返すも選択なり
配管工Aに安らぎ枯草宇宙
赤いちゃんちゃんこ地球最期の日と思う
冬来たりなば白バイに追い越さる

 内 田 利 之
カンニング上手なのです鳰
声かぎり鬼生め子生め亥の子唄
人類も黴と言うべし梅雨に入る
人生論舌に触らぬ鱧の骨
冬の夜半母恋しがる乳地蔵
初夏のジャズに白い外航船
天平の甍つばめの宙返り
源流は知らず河口に青鷺
万緑に搦め捕られしわが目玉
額の花耳遠くして白し白し

 内 野   修
生き生きとみんな見てゐる大蛇を
空中に蠅は止まる地震かな
人間は毛虫を潰し囗開く
冬の山獣の糞に木木の種
仏頭が地に落ち蟻をつぶしけり
燕来て我が家我が家と喋りけり
考へはまとめずにおく初明り
先人の安請け合ひに十二月
明るくて暗き人をり雪の中
紅葉狩り鹿や猪食ふ人も

 梅 川 寧 江
喉元にシャワー全開さみしかり
眩しいほどにサリサリと青林檎
花すすき幕開けのやうな残照
切抜きの後の空白小鳥来る
三角といふ関係の神無月
すかんぽや大いなるもの象の尻
粗壁に晩夏の匂ひ原爆忌
初時雨かもめ通りを右に見て
万緑やたかいたかいが大好きで
人の世の方円に水こぼれ萩

 江 井 芳 朗
放射能大根大きと泣き笑ひ
故郷や月に瓦礫の骨哂す
無惨やな放射能の椎茸捨っ
秋思とて老眼鏡を不明にす
新聞紙もて蝿一匹追う仮設暮らし
大津波の防潮松に羽衣あり
大津波の里人ら猪迫はざりき
豆腐田楽仮設の心ほっかほか
晩秋や土鈴己の土産とす
芒原隠るは風の乂三郎

 榎 本 愛 子
青磁のような馬と眠りし白夜かな
君の背は明るき水輪春鴉
足萎えし母はさざなみ百千鳥
片耳の聞こえぬボクサー夏の星
初鰹われも都会の回遊魚
マラソンのしぐるる一団君ありき
吊されし鮟鱇多分嗄れ声
鳥引きしうつろな沼のゆりかえし
病む白鳥に母にこんなに月あかり
飽食のうしろめたさよ狐罠

 榎 本 祐 子
裸足なら赤翡翠(あかしょうびん)にきっと会える
雨粒を拾う眠りの染みており
夜更しの蝋涙の子や大人たち
うたた寝は群鶴の足ばかりなり
日本の蝉の木お昼ごはんかな
退屈な犬に嗅がれて蝸牛
鮃一枚きれいに食べて神無月
牡蠣啜るひとりは遠くばかり見で
冬の家皆正座して鯉食べる
鳥雲に地に残るもの蹲る

 江 良   修
大観覧車長閑な他人の時間かな
月と日と吾のなす初夏の三角形
梅雨空は孤独な打楽器奏者かな
梅雨の街人みな屈折率違え
はなうたは過去の暗号夏の雲
炎天や母の影へとかくれんぼ
合掌の手に手花火の火の匂い
ナガサキや炎昼の影孤立して
十六夜や書店に僕が浮いている
はみだしたところにこころ冬木立

 遠 藤 秀 子
旅の書を李白とさだめ水仙花
花の季の耳鳴りに似て巨石かな
卯の花腐しガラス一枚盾として
亀鳴けり落石注意と言われても
原発や老いと巣鳥が残されて
水欲しと陽炎の童わが夢に  (原爆ドームに行きました)
一飛鳥水しろがねの衣更
凡なるをわが地熱とせり真菰馬
足萎えし母の折り鶴色鳥来
あぶな絵や父の遺品に春みぞれ

   大 上 恒 子
地雷原に友よ机上にシクラメン
寒波襲来青年アフガンへ翔てり
曼荼羅へ逸る蹠(あうら)の浅みどり
高野山のしゃくなげ夜明けのポリフォニー
風知草琵琶湖に鼓動わたしの鼓動
白骨樹に招かるしんしんと草原
白露かわれかまろんで産土へ
大根擂るじゅわっと阿耨達池かな
如月の壺割れ迸る哀しみ
三・一1永遠の眼のなかの火の穂

 大内 冨美子
冬芽起つ何も無い何もない今
玻璃越しの万緑壷中に入ってよ
庭紅葉壷中のよう西方のよう
石化した私すり抜け梅雨はれ間
玻璃越しに冬の鳥立つ顔撓る
若葉光常のいとなみさがしてよ
凡の字をたたいて新年安らぎぬ
さくらさくら命よばれる飯うまい
流星群雲の中ではただ落ちる
ねむの花眠し原発眠らず

 大 囗 元 通
宰相は露台にのぼり街を見よ
初大師二本目右へまがれという
夏座敷陸戦隊が座っていた
私はまた病気です秋の暮
十二月八日立って居眠ることもある
寒鯉の深く沈みて美辞麗句
葉桜に愚図々々と来る建築屋`
蝶凍てて軍人勅諭諳誦出来ない
少年二人首出している昭和の海
ここ二年雛飾らず饅頭屋

 大 沢 輝 一
戦死者が屯し夏の樹を通る
教室の冬という字がみな違う
白(はく)と鳴く冬鳥ほとけ呼びしかな
西瓜割り浜じゅうふいに昔なり
ひと月や赤子はすごいかたまりだ
秋情(ごころ)虫のかたちの少女たち
まっ赤なる鯉冬の字のひとつかな
昔ほたるは馬の眸に棲んでいた
山椒魚べたっと大地になっている
ぽつんと父十の青田の月愛し
 
 大 下 志 峰
恋文を時空へつづる寒ざくら
狼や水位あがりし日本海
冬銀河酔いし目玉を洗いおり
恋猫の流木上で争えり
春耕すわが影に鍬ふかく打つ
種芋を掴み老農逝きにけり
訪ねれば影朧なる老師かな
炎天を行く濡衣を干すために
流星や旅の衣のほつれ縫う
離れたる者みな光る銀河かな

 太 田 順 子
よく笑い枡目に愛と書く五月
色彩は光の受苦か夏薊
愛という玉虫今朝の一言や
有頂天みつめて一と日朴の花
たまゆらのいのち一切夏の天
遠花火若さ金銀銅あつめ
秋はじめ言葉の海に置くオール
知る由もないからあなたに柿一つ
素描するあなたの六B冬木の芽
夢もゆめわたし師走の月の上

 大 高 宏 允
蛇口からホタルの海があふれている
ドアロックしても洪水わが大和
密教僧ボリュームのある露である
僕という輪郭もなく熊祭り
ひっそりと阿弥陀とてしやん地虫出づ
ハイウェイ子象運ばれゆく五月
ブルースの苦き反芻夏は来ぬ
長き夜を我は管制塔のよう
わが脳髄のジャズ涸らすなよ青水無月
無縁はいや冬日のメリーゴーランド

 大 高 洋 子
つゆ草や猫の爪ほどのスランプ
鈴虫もフリーターもりいんりいん
糸車朝の蟋蟀と働く
雲の役の子三人へ吹く春一番
母だれもマリアに勝り白きマフ
子育てのてのひらって蕪洗うよう
コンドルの姿勢で虹の詩の朗読
身辺りに木魚聞くよう夏落葉
口許が魚に似てきし盆踊
肌いろの折紙です狐がいます

  大谷  菫
屋久杉やゆるりゆるりと息をする
白鳥は孤高なりしや父老ゆる
葱の薄皮母の記憶を剥ぐように
子の送りし鰤さばく夫生き生きと
わらび掌をゆっくりほぐす産湯かな
夏座敷海軍帽子の叔父ふたり
穏やかに秋の日差しの無言館
猿がまあ屋根からぴょんと春の雪
子猫抱く父呆然と大津波
生きのこりし一本の松に満月

 大 西 健 司
牛飼いも蓮如も雪の峠越ゆ
みくまりや猪は葛の根噛むという
甘樫丘(あまかし)下るまっすぐ野火を宿すかな
吉野水分猪いっしんに掘るなり
虎杖噛む青き熊野の痛みかな
如月の鷹を熊野と呼びにけり
鯨御輿浜が消えたとうねります
絵日記の川蜻蛉淡くつるみけり
伊勢はっ夏川曳きの衆地鯉とうねる
はんざきの大和言葉の形かな

  大 西 宣 子
白梅や素踊りは川の流れ
水枯しの朝は背すじを正しくし
菜の花の和えもの春の身体になる
いらだちて寒木爪の朱零式戦闘機
赤い月歩いて歩いて仏に会う
日常の平穏はこれ石蕗の花
うつつ晴れよ突き抜けて行け紺碧へ
破魔矢担いで光陰を飛ぶ少年
風花を喜ぶこころポプラの木
ひと言ですべてが変る木の芽晴

  大 西 政 司
おとうとは河童の頭象の尻
田の神は留守ばかりして過疎の村
片かげり豹の一団くるようだ
うつぶせに寝ればアジアの息吹きかな
あふりかへ帰る途中の無帽かな
君がいた善意の時間ヒロシマ忌
驟雨来昭和まるごと神隠し
一遍忌念仏吐けば土砂降り
秋風はナイフの切れ味を知らない
瀬戸の夕凪甘い言葉に粘りつく

  大 西 幸 子
凍土や野菜骨まで甘くなる
雑草に紛れて見えぬ鬼の豆
新玉葱ふてぶてしさを眠らせる
難しい話は無用ぶんど飯
震災地思はず唸る初燕
渦潮や野間馬見ての夏料理
薮入や私を待っている席がある
八月や忘れてならぬ事多し
松茸の見えぬ松茸飯を食べ
冬日濃しからりと朝く寿司の桶
 
 大 野 美 代 子
灯一灯峡に一人の受験生
蝌蚪無数もうすぐ寺は攻められる
心臓に「おい」と声掛け炎天下
熊蝉来て夫還暦の木を離れず
子のために時間下さい高菜蒔く
自然薯捐る山へ嫁いだその囗から
赤とんぼ父へつながる二眼レフ
零余子飯三人寄れば自己を愛す
樫の実踏みあなたの百歳についていく
鵙の贄一遍の脛見え隠れ

  大 野 泰 司
邂逅の飛燕よ人間ささにごる
水光(みで)りへとほぐれる民の田植かな
簾越し立て膝並べ痩せてゆく
野分後洲の流木を朝と呼ぶ
山国に米ある家の重たさよ
鷹柱転生のわれ打たれよう
直情の父よ目刺を丸齧り
オリオンよ走れ無言を楯として
流氷去るしなやかな鞭母に残し
雲雀野の傾きかげんを君に送る

  岡 崎 正 宏
死に給ひゆく我が母の初明り
父なければ母なほさらに初明り
我が母の朧に住みて清らなる
桜咲き雲の如くに母老いぬ
緑樹を抱けば少年の俺母若し
夢を見るハープの如し母の夏
母老いて河鹿のやうに澄みにけり
届かざる虹の如くに母老いぬ
わが母のすすきのやうな便りかな
汗のごと明かりの如く母ありぬ

   岡 崎 万 寿
春は黄の花黄の老まろく畑を打つ
自画像は青き唇(くち)まげ無言館
沢蟹の手触り水のはしゃぎよう
腹筋のちょっと捩れて行く秋ぞ
初山河兵は憲法読んで居る
元朝や日本人いなくなる曲線
鵲の未明のコリアわれの巡礼
唖蝉や廊下曲って妻の病室
片仮名のフクシマなんたる酷暑かな
生きてやろ枯木の山が好きだから

  岡 田 弘 子
孤独とは自由なりけり奴凧
春疾風象のかたちを隠しけり
終止符はゆるやかにくる茅花かな
母の忌の高々とあり桐の花
今年竹青年僧のすり足
首長き少女の絵あり麦の秋
梅雨深し騙されていてみえてくる
八月や大聖堂に祈りおり
大銀杏人を黄色にしてしまう
枇杷の花むかし電車が通りけり

  岡 田 百 代
初旅や白波(なみ)追い縋る真珠湾
春潮や身をのり出して磨崖佛
流鏑馬の高ぶりほぐす春の川
嘶きに朝靄は晴れ草刈りぬ
蓮の花まどろむ刻はベール欲し
桂林の小枝を得んと霧の中
仁王様の鼻を栖と昼の虫
大落暉つつみきれない刈田かな
野兎に本音語るや車椅子
秩父夜祭酔った狸の邪魔赦す

  小 川 久 美 子
無花果の木下闇まで耕す父
七月は父の忌父似の仏さま
老い母は昼顔のようお勝手に
刈小田や根をサクサクと踏む安堵
十三夜生み終えし娘よ船出です
秋光や振り向きサッと手を挙げて
初春やことこと刻む離乳食
冬銀河直な心は響き合い
老いてこそフープする術春の月
北信五畿夭々の桃懐に

  小 川 佑 華
赤ちゃんが来て一月を腕まくり
帰燕かな手塩にかける仕事して
ひらがなでいようと思う春の雨
清流でいたい日だから髪洗う
寒の水強いねなんて言われてる
秋の湾身ごもるという蒼さなり
豚汁や忘れ上手になっている
四分音符ほどの叱責小鳥来る
鼻唄のような耳鳴り花みかん
寒の星とてもきれいな心電図

  奥 田 筆 子
銀河より帰りし靴の砂を出す
蔵の窓昼の蛍の渇きゐし
釣堀の晩年の水雪を食む
狐火や赤毛散らばる洗面台
晩学や菜の花葱の花灯し
坊さまと秋明菊の坐高かな
おもちゃ箱に不審船あり雁わたる
蘭鋳のたよたよ遠き纏足よ
春落葉詰物として副葬品
竹夫人われは正室足のせる

 奥 野 ち あ き
母国語を愛する人と栗の花
肘膝のよく曲がる子と西瓜割る
バードウィーク習いたての手話のかたち
少女らの歯並びよろし馬肥ゆる
蟻の列寂しがり屋の僕のために
花火する個々に闇持つ我らかな
ビー玉の瞳(めの子供達冬休み
聖五月むかし魚類と直感する
本日はお日柄も良く田植かな
母すでに老女の括り日向ぽこ

  奥 山 和 子
クリオネの羽搏きほどの更年期
人の顔覚えるごとく種を蒔く
白木蓮昼が通り過ぎる村
青虫がだんだん夫に似てこまる
たんぽぽは午前十時くらいかな
柿若葉赤子のむつき開くよう
朝の輪郭きりっと決まる茄子胡瓜
抱いて寝る山霧の子の柔らかさ
鹿ぴうと嗚くから深く眠れない
水底の見えない川へ蛇流す

  尾 崎 暢 子
どーんと尻もち大地に春が来ておりぬ
風のように母のおこごと稲の花
墨磨るは時ほどくこと銀河の夜
短夜の宙に文字描く老父かな
黴の花電話しながら描く象(かたち)
理不尽なり蚊をたたいては蟻にやる
鹿の影こわれものとう荷をほどく
夜の壁に蒼き線るる狐どち
被写体はなべて斜から枯蟷螂
冬桜わたしの空にクロスステッチ

  小 沢 説 子
コスモスの光を束ね組体操
繊細な人と一日とろろあおい
花あおいバレリーナの足裏と思う
ホームレス二月の光をしわくちゃに
立ち直りの早い人なり隼人瓜
恙なく人送り花からすうり
ぼわぼわの頭の中にゴーヤ家族
全景が入れ替りおりいぼむしり
発電所枯向日葵のゆんゆんと
活断層赤いダリアの捩れおり

  小 野 裕 三
夜行列車ときにフランス皇帝
品川はみな鳥のような人たち
白木蓮そこから先が夜の服
イルカショー始まる淋しき国家
あじさいが郵便局を開きけり
煙草消し滝が滅んでゆきにけり
シーサイドホテルざらつく夜の蟻
侍をたくさん吹いて弥生山
冬眠をひとつぶひとつぶ戻しけり
それからは煙も寝静まる五月

海程終刊に伴いアーカイブとして同人作品をアップしました。
徐々に作品を掲載します。 管理人
海 蔵 由 喜 子
白目して見せる双子や春ごたつ
癌を消す香箱なるや泰山木
榾火かな家の真中燃えている
朝顔の数多ければ日々好日
初春の駝鳥に夫のおどけたり
裏切りは純なる者へ花茨
山茶花の明るく散るも苦行です
高い高いばあと言いたきもみじの木
白詰草ナース詰所の電子音
自転車もバイクも乘らぬ裘


 加 川 憲 一
万華鏡きさらぎはまだ谷の中
落花いつから被弾のように母座り
やませ吹く日父の散髪は怖ろしい
地名は恥毛のように煙って青故郷
昭和の日曇って飴色バイオリン
霧に橋影橋に人影かなり濃い
干柿の乾き具合が群馬県
折れて光る氷柱はきのうの感傷です
図書館に氷河全巻藏ってある
枯野あり夜明けの妻がうすぼんやり

 柏 原 喜 久 恵
どかーんと花火私しわしわ紙袋
鶲啼くきっと小さな喉仏
母の日の枯桃鋼のようにかな
田芹摘む妹呼べば田の真ん中
家族ふえ白い魚青い魚
天の川私の胸は雲でいっぱい
蛍狩り遠泳に似た疲れかな
花も蜆も涼しい顔して蓮の池
夫をふと友と思えり冬の鹿
櫟林の先が見え出す冬が好き

 加 地 英 子
切干やいつも南に山があり
柿の木に残る二つを覚悟と見し
濁流を見し肉体にこぼれ萩
山の色鳥の羽根見て老い暮らす
ひとりの午後仏壇の桃よく熟れて
世が世なら剣の使い手とうすみ蜻蛤
虫の闇夫の五体にぶっつかる
大根に隠し包丁遺言なし
どくだみを煎じ老いの血の反戦
石蕗咲いて記憶の中をさっさと歩く

 加 地 桂 策
年の瀬や悟ればもとの丸太ん棒
秋出水熊に金庫をのぞかれる
拍子木を打たぬ夜警の恋唄よ
川釣の漢の髯に慣れてくる
干鰈漁師にせがむ童歌
啓蟄や砂漠で回す洗濯機
腹鼓(つづみ)打たぬ狸の金玉朧の世
咳一つ山を南に生活(たっき)あり
石蕗咲いて母に会うため読経する
誰も蹴らない石ころ一つ水温む

 加 藤 昭 子
ポポー食う煙るようなり五十以後
喪服着てピザ食う娘ななかまど
雪玉の低めいっぱい初恋だな
帰省子や父を跨ぎて電話取る
向日葵に起爆装置のあるような
空蝉のカリカリ塩味に違いない
目次よりあとがきが好き木の実降る
強靭な首持ち白鳥着水す
八十八夜溶接の火の青雫
四股踏んで田に下りる母五月晴れ

  加 藤 青 女
ときに僧三人に青瓢かな
青大将赤石山系を横切る
炯炯と老僧しおからとんはかな
山上は焦げ臭きかな山楝蛇
最澄の膝に飛び込むかなぶんぶん
桐の実を一番電車が出てゅけり
野うさぎが僧に耳打ち春高野
北京秋シンクロナイズの土不踏
米櫃へゆっくり移す春満月
ずたずたの山河を照らす十三夜

 門 屋 和 子
仔牛生れ先ず雪嶺を記憶せり
偬の芽や牛舎で生まれていた谺
三椏の花なら祖母も来てるはず
うつくしき飛形から見て春の鵯
椰子の実の歌は母から青葉潮
青水無月ひとは無口に整列し
老眼に華やぎながら鮎落ちゅく
鮎下る牛のしっぽの明るさで
何時か一人の申し送りを柚子に告ぐ
横顔の白鳥真似て淋しかり

 門 脇 章 子
一茶忌の蠅が足摩る阿闍梨餅
風生忌それはちひさなゑくぼ餅
吐息より薔薇の名静かジャンー・ドルメソン
文化の日十(とお)若き日のワルツの日
人間(ひと)怖き日は白玉に銀の匙
手拍子にわたしはカルメン桜散る
賢きはよけれ海鼠は酢の物に
人は胃を愛(いと)しみすぎて今年酒
河童忌の母が豆煮つのんき節
ものの怪の物は折り鶴久女の忌

 金 子 斐 子
予感とは地をすれすれの夕燕
過程かな川白波も囀りも
けむり茸蹴り絶版のごとく居り
槍鶏頭ことに前頭葉覚めて
草の絮握力というとりとめなさ
酢牡蠣とも耳鳴りのっづきとも
蝋梅や精神的に風邪ごこち
水田に水田写り老境の入り囗
花ふぶき余念一念そのまま加齢
点眼一滴大綿の行方かな

  金 子 ひ さ し
戦経て地べたに人が立っている
竹馬が木曽三川をこえるなり
張子の虎と満月を見ていたり
二階まで水音がする十三夜
月をみて山から人がおりてくる
十月の山にのぼれば私有物
台風去りあとからあとから人が来る
裸木となりて一切妥協せず
いくたびもヒロシマに来てうずくまる
人ごとのように戦が終わった日

 兼 近 久 子
自転車も車も渡河す抽象や
榧の花とおし馬の眸は藍いろ
八月お前の鴨緑江だ石組むなり
鶸鳴けり乱世のモップ濡れしまゝ
草は実に溶接面のその眦
二上剛直キャベツ畑の澎湃と
シーンの裾ほぐれがち此花区
木の九月板金工のひだりうで
けし白花芭蕉くらがり峠出ず
雑草の折れこんである露国文字

 加 納 百 合 子
哲学は音もなく生れあけがらす
鳥のはじまり 神めさめざるまの
あけがらす白薔薇は未だ気づかない
あけがらす葉月に入るころの闇
黎明はすこしあたたかガラスの夏
あけがらすオーバーは黝からはじまる
からすの夏神様って生まぐさい
髪の上旦からすは聖き者
あけがらすレモンは一個ずつレモン
うすずみの空でわたしは飢えていない



 狩 野 康 子
神々の紅葉ずる白河以北なり
万緑へ川の背骨の立ち上る
ビッグバンそれからそして雪解川
方向を狂わす卯波へ首伸ばす
梅雨深夜声帯という浪漫あり
原野から春文机の浮遊する
葡萄したたりオアシスの一滴
良い音で障子開ければ母御座す
水を撒く身の濁流へ石ころへ
生きている春雨は体温のよう

 鎌 田 喜 代 子
志ずうっとじぐざく青き踏む
中学生どどと繁茂の下山かな
鷹柱地に濁声の鴉いて
雁渡し万国旗から怒清音
鉄鉢に錆と凹凸小鳥来る
紅葉かつ散る富士はずうっと活火山
清貧のどこまで本気海鼠噛む
煤逃げの夫へ大きなにぎりめし
霜の花遺跡に掛る縄ばしご
歴史とは戦争のこと雪降りぬ

 柄 沢 あ い こ
数式解けてさわやかな言葉一つ
夢売りがいて帰るさの濃き朝霧
青葉の下は若き日の風吹くさみしさ
十三夜森の想いははばたきへ
同族や写楽の眼もあってどんぐり
やぶからし廃屋という水中
箱根なかなか越えて来ぬ人枯蟷螂
「またね」と別れ今日オリオンはきっと冴え
まなこある朝の鳥たちに泊夫藍
酔芙蓉この世に覚めるときあるや

  刈 田 光 児
磁気薄れけり鳥雲に入りにけり
五月来る俄然母なる信濃川
群衆に距離置く男雲の峰
祭花火果てたる顔に山は在す
近未来見てしまいけり草いきれ
母在らば掌には茄子漬握り飯
地震つづく闇へ狐火焚き合える
虫絶えし夜へ百枚の田を並べ
雪国冬口の重たき人育て
雪掻きが終る雪雲迫り来る

 川 囗 裕 敏
重ね見る林檎の花と母の幼さ
竜馬像見やるは何処秋の海
作務後の東司の灯火朧かな
掌に二つ胡桃鳴らして吾見る父
春鴉五体投地の童顔
でくのぼう霧の朝に坐禅組む
流れ星地球にどかっと坐禅組む
春眠の枕辺尿瓶と歎異抄
定住のままの漂泊水草生ふ
坐禅会へ素足に下駄の草紅葉

 川 崎 千 鶴 子
かごめかごめこすもすゆれるさらわれる
故郷の言葉もぐもぐ鳥雲に
田水張るぶるっと記憶もどるかな
田水張る私の子宮に羽音かな
もういちど蝶になりたい白い紙
蟻じぐざぐ人間じぐざぐ眠るまで
夏羊歯や歯ごたえの女ざくざく
水引草破線の記憶のびていく
東尋坊冷奴の崩れかな
ひと夜ひと夜紙の音する冬もみじ

  川 崎 益 太 郎
漂泊の表面張力すすき原
今落ちる秋から冬への夕日かな
十薬の白を踏絵とふと思う
生意気な言葉の果ての海鼠かな
秋の蚊の骨あるごとき力かな
放浪の水を集めて田水張る
英虞湾の卯波やふと囗蹄疫
放浪の風の直角刈田道
春の地震ふとヒロシマの焦土かな
初つばめすうっと始祖鳥爆心地

  川 田 由 美 子
鶯よ私の崖よ磨りガラス
仕草とや穂草ゆるるように吾子
人参やそおーっと吾を充填す
咳の子や銀細工ちらばれり
花いかだ足裏やわらかに仕舞う
夜の緑澪のごと子は育ちおり
くびかざり編む手の夢幻青あらし
地の揺れに剥落の冷え梅熟す
唖蝉よ風割る石のさざめきに
地を掴む春の雨地の灯しかな

  河 西 志 帆
かりそめの梅雨物語いま漕ぎ出でな
お向いも裏も嫁なしきんぽうげ
紫蘇をもむ淋しい石を呼んできて
梅漬けて豆煮る母を無職という
鳥渡るもの動かせば鈴の音
長崎忌水を包んで置いてくる
押し黙る八月六日海の上
三人はひとりとふたり使珠沙華
はんざきを誰も裂こうとはしない
パンツとはズボンのことや業平忌

 川 野 欽 一
はればれと野に蜜蜂の労働歌
緑蔭を一畳借りる車椅子
掃除機にすいとられたる春の夢
一頭と呼ばれて重くなる蝶々
あんぱんの臍をさがしに街薄暑
寂しさに耐へきれぬなり稲妻は
風呂敷に包む夕陽の重かりし
満月の隠れどころのなき寒さ
夢覚めぬうちに売らるる眠る山
連れ歩く杖よ寒かろ帰らうか

  河 原 珠 美
鬼やらい塩煎餅をばりんばりん
紙雛ねずみが笑う夜でした
啓蟄や向こう三軒猫屋敷
百千鳥ほらトーストが焦げている
緑夜かな忘却という大きな巣
御不浄につばめが来ますまほろばは
青水無月夜汽車揺らげば我も煌
打ち水の先へ先へとザ・カマキリ
船箪笥開ければ祖母の花野かな
鯛焼を励ましながら夜の路地

 菊 川 貞 夫
紙コップ足して水母のこと思う
鉄筆にヘリコプターが飛んでくる
野菊つんで小学校に乱入す
河べりの牛は僧兵かも知れず
柿の秋ばんざいしばんざいし御札
何もなき処に蜂がころがれり
傘まわす女をまわす鯱(しゃちほこ)かな
猫舌のあやうい橋を渡りけり
自転車に空気入れあり一樹かな
活字拾いに県境までゆきにけり

 北 上 正 枝
座るでもなく元日の化粧椅子
春の虹ガラスの街に来ています
薄墨桜とてもしづかな感情です
幼児を野におくように春の雲
木の芽張る両手ぶらぶら整体師
新緑下物音しるき隠れ穴
夏鶯気がつけば君に風格
彼岸西風回転ドアは順番に
たまゆらの寒林はいま石ばかり
着ぶくれていつか浮き浮きしています

 北 川 邦 陽
一の船二の船西ノ湖船料理
死にし人より死ぬ人大事夏落葉
一人一個の蛸壷で足る一年生
父回収中全天降伏文書降る
兵事係酔うて遺骨を振ってみる
七人産みし汗の乳房や濃りんどう
群青に朱のまじる蝉一悲鳴
土砂ダムうごく二百十日の紀伊半島
まっすぐにまっすぐに咲き曼珠沙華
人形展首を黄菊にすげかえる

 北 村 歌 子
かりんの実高きにありて感電す
早春はまず雑草の気分かな
星一つ三日月に合いておしゃべり
冬の月ブーメラン飛び返る妙
最上川鹿ひとまたぎ夢の中
時雨忌や石の蛙の動き出す
山笑う駄菓子えらびの中にいる
片栗の花寝転びて不思議発見
金木犀唯一の吾を包み込む
連翹や馬のおじぎの柔らかい

 北村  美都子
みほとけに厚きまなぶた小鳥引く
流さるる遊びが楽しあめんぼう
暗闇が怖くて乱れ飛ぶ螢
今というこのときの純おどりの輪
措いて来しわたくしの声遠き鹿
こころ傾けて白鳥降りてくる
晩菊に雨降る言葉つつしんで
息をしてはならぬ検査を冬の雷
降る雪の今日の一心不乱かな
雪雪雪雪雪ねむくなるくすり

 木下 ようこ
かたつむりよそにしづかな部屋を持つ
長生きの熱帯魚なり名前が無い
ためいきを箇条書にす青鬼灯
鳳梨(あななす)に口角上ぐる寂しさあり
北陸本線遠し冷蔵庫を開ける
鰯群泳ふつとしゃがみし私の子
水餅みたいに娘より夜更かし
びくびくと鮟鱇を見て手をつなぐ
小柄な老人加はり大鷹調査隊
歯をはづす父よ月夜のかたつむり

 木 村 和 彦
元日の父はしずかな岩である
負け独楽を小鳥のように持ち帰る
目借時ふいに活字が泳ぎ出す
耳鳴りかいえいえそれは蝉の声
飢えていた終戦の日も次の日も
いもうとの手紙のように小鳥来る
茸狩りいつもうしろに母がいた
秋の耕杉菜の深い根を憎み
寒いだけ難聴という身辺は
声あれば茨城訛りの鮟鱇よ

 木 村 清 子
さざんかやあっけらかんと九十五
百千鳥病人握手を離さない
笹舟を浮かべるそばへ草矢射る
山滴る六十で大人になれず居る
吊し柿猫のポーズで肩ほぐす
にんげんをかえせと木霊爆心地
八月や父のレイテにいつか行く
夏富士にゲートルの父セピア色
里紅葉客に行くよう嫁に行く
霾や親も子も出て家広し

 木 村 宜 子
私小説冷たい葡萄から食べる
割り落す玉子の微光春どなり
倖せのかたちの一つ今朝の桃
母の日です集まりなさい並びなさい
万緑の真ん中あたりの機嫌かな
転生の途中の数式大ひまわり
群がりて声だす螢待ちにけり
夏が逝くリンスの匂い闇におき
楓一枚思い出行きの切符です
この世佳しどの山門も秋のあり

 京 武 久 美
母の日の母に紛れて母探す
いぼむしり母恋いすでにはじまりぬ
凌霄花死ぬほど母の言葉欲し
母をつなぐ夢のつぶやき浮いて来い
柿の蔕母のうしろの地獄見たし
柿乾く真夜中母の素に浸る
母の愛か闇に呼吸する捕虫網
郷愁とは母が白足袋洗うこと
冬は母と神話のひとつ飼いならす
赤とんぼ海を忘れて母逝きぬ

 金並 れい子
子の妻のぽっと点りし白障子
冬星座狩する父はどの辺り
大日如来畳に下ろし煤払い
初売りや花や人等のみな新鮮
野火遠し夫と阿吽の仲でいる
四つ辻の狐火あの日赤い下駄
鍼灸室背に黄蝶の軽く触れ
白鷺の潔癖田水濁さない
妹の乳房の雪を眼に残す
立つ時は猪の四つばい可愛しがる

 草 野 明 子(尾田改め)
揺曳きよ冬眠の蛇と空罎
白さざんか一粒の酸素を吐きぬ
風切(かざきり)の音か仰臥の人のペン
涙目に蕪の白さをなお洗う
真夜という個室感覚ラフランス
軍犬呼ぶ父の草笛原風景
少女に朱花かの弾痕にて咲きし
有刺鉄線寒の闇来るハーモニカ
憑(つ)いて来る被爆マリアの虚な瞳(め)
セシウム禍斜面あざやかに紅の花

 九 堂 夜 想
春深く剖(ひら)かるるさえアラベスク
斜塔このオブジェの朝の足拍子
垂直の海を刎ねんとガラス器は
うみなりとなりふたなりとなりにけり
オルガンの根の磊磊となりゆくも
見開きし睡魔かミルククラウンか
孔雀大虐殺百科辞書以前
プリズムは城過ぎて眠り男とぞ
光陰もレインコートも狐臭して
ルフランは紙の次元へすべりひゆ

 久 保 筑 峯
愚は愚なり梅の蕾の綻びて
蟻の列曖昧模糊と朝ごはん
百日紅明る木膚に触る深夜
黴の部屋愚直なる馬爪を切る
昭和向き籐椅子ひとつ置かれけり
ぽつねんと如意輪観音花樗
枯蓮のごとき追憶水底へ
海鳴りの底より軍旗石蕗の花
追懐の石抱き睡る枯野かな
冬の蝶白きふくらみ覘きけり

 久保 ふみ子
初蝶や開校式の椅子並ぶ
朝顔のしずかな時間を共有す
日傘から海の匂いの砂こはる
揚花火シャワーのようなしぶき受く
虎落笛不眠の我れに突き刺る
短日や点字のように鍵はずす
蓮開く鼓の音がしたような
風花や言葉をのこす文のよう
荒海や水仙のっぽみ確かめる
水仙や剪りて香りの束をなす

 黒 岡 洋 子
冬のメロン集中力の範囲なる
ギリシヤ悲劇果つ銀漢は低く海ヘ
アフガンのテントの医師団冬薔薇
草いきれしてアンソロジーの青傾(あおなだ)り
冬のプール遺跡のように薄眼(うすまなこ)
霧吹いて霧しか見えぬ青鷺
へちま曲るよ駄洒落の子規の居りたれば
空劫や鷲の翔けゆく氷河あり
引鶴や津波のあとの水照りのみ
過去という絶対の上の昼寝かな

 黒 田 幸 江
縄跳びや初日颯颯と輪切りにし
蓮ひらく子の彈く幻想即興曲
陽の匂ひ立ちのぼらせて驟雨来る
人の道説くは野暮らし遠蛙
曼珠沙華フラミンゴの膝後ろ向く
秋冷や先ずは鼻から襲ひくる
雪積る柿の朱さの溶け出しそう
噴き上ぐる火事の火の粉のオリオンへ
冬至湯や空には月が落ちそうに
檀家総出山刈りも済み冬満月

 小 池 弘 子
ぼんやりと茄子の親しさ介護かな
梟に近く泊るよ地酒に酔い
ほのぼのと鶸の藁巣や野疲れや
日照雨かな狐が落した赤ん坊
峠に一礼ほうほうと兎追う
初蝉やごはんの白さばかりです
啄木鳥の昼はがらんとものの遠さ
れんげ野は暖流なり絵本なり
すかんぽの小さき穴に棲みたきや
いつの囗か逢うおとうとに柿点す

  河 野 志 保
愛というもうバラバラの葡萄かな
蟷螂に剣のごとき肩の冷え
車窓には超えてゆけない春の暮
樹は風を呼んで蜩それっきり
星という星の疾走レノンの忌
筋肉は生温かい花畑
春の蚊よ記号のごとく名を呼ばれ
降るだけの遊びこんなに木の実かな
梟やたくさんの夜超えた山
夏の山知ってる石に手を乗せて

 児 玉 悦 子
夜更しの体内通る紅葉川
依怙贔屓の母はスカーフ首に巻き
蛍舞うやさしいボディー・ブローかな
おばけかぽちや聴禽書屋の茂吉の座
甲胄や夜廻りと草亀がにおい
水仙や湯冷めのように戦中派
青からすうり道標として尊けれ
朧夜の何処までゆかば正義かな
無明とは野に傾きし緑樹かな
花ふぶき橋の真中を過去という

 小長井 和子
  二〇〇三年三月イラク戦争勃発
紫雲田(げんげだ)はいま甲板の暗さなり   
花曼荼羅やがて魚影の放埒に
金星のかげを波間に雁供養
貝櫓見知らぬ窓に半旗かな
蟻の列枕外してまどろめば
草雲雀遊びせんとや声澄んで
稲穂のように言葉あふれて寝(いね)がたし
木賊刈る夢の階段根の国へ
花ひいらぎ石磨くとは悼むこと
風花や地には柩のなき葬り  東日本大震災

 小 林 一 枝
鰻さばいて誰そがれも彼(か)はたれもなき
藷など煮つ冬眠というやさしき態(さま)
涛の花かぶり佇ちてし冬若かりし
豆飯や誰にも会わぬ孤獨死や
顔剃られいて雪ぐにのしろさ想う
存らへて春あり橋の反り美し
天牛よ”いづち昔の人や去りけむ”
命終(めいじゅう)はしろさるすべりの風に
金木犀に銀木犀に人は居らず
素知らぬ態(てい)に春の雲ゆきたねをさん

 小林 寿美子
囀るようぶ毛翳して見ておれば
久方の雲雀そろそろ空中分解
私は帆たまには蝶と流される
山楝蛇葷酒山門に入る尻っぽ
くるみ落つ粥一椀のきれいな息
端切れ箱ぬた場の蝶を休ませる
茄子熟れて種さらけ出す自我かしら
しし唐の曲がり鮮やかお座主さま
びわの花思惟の型を崩さない
なりゅきで住んで面白ぼたん雪

 小林 まさる
妻よ木の実降る夜はこの指止まれ
花ハッ手言葉度忘れ水ッ洟
雁が音に語尾をあずけて飯仕度
空耳や縄目の土器に土用波
初湯なり吾もぎたての晩年なり
浮世絵の風の素通りあめんぽう
其処にコホロギ妻の眠りの浅ければ
威嚇かな紅葉の中に針葉樹
水を行く破れ紅葉や我が放蕩
海市否訃の使者として丘に漁船(ふね)

 小 原 恵 子
馬の子に満天の星早寝しよう
目に追えぬ燕のような君の日々
筍や少年の犬歯ちらと見ゆ
晩夏最上川(もがみ)みんな肩寄せ生気満つ
少女のような老女むれなす花杏
子鹿群れて膝の痛みの目覚めかな
丘となり人影となり藤袴
背ナにたつぷり小鳥の声や釣瓶落し
冷まじや鏡に溶けし猫背なり
白鳥よ風のさびしさ指赤らむ

 小 堀   葵
窯守の梅より白いむすび食う
阿部完市(あべかん)と居るアルバムを春の章
遠い身内に会うとき喪服麦の秋
妻と呑む持薬は真水麦の秋
夏負けのからだ扶ける井戸水眷む
人や家畜に稔る静かを散居かな
木葉木菟散骨は見ないことにする
目障りな柿の木も(おや)十三夜
柿盗りの相棒だった焼香する
白鳥来て一病息災の母あり

  駒崎 美津子
泰山木咲いて気づかぬ白内障
人も犬も額に箍もつ酷暑かな
水中の亀も傾ぐや猛暑なり
鬼やんま路線きっちり夕ぐれに
旱星瞬く空に身をほぐし
同世代は湧水のよう実南天
白月や無口な少年口走る
どんぐりや積木のように身を鍛え
繰言はやめて前向き木の実かな
念入りな町医に焦り枯木音

 小 松 京 華
丹波市とや丹波小富士の霧衣
『花恋』や平成の世の『伊勢物語』
秋は来ぬ私の句集幻か
さすらいや神戸・丹波・尼・ブカーハマ
うっり住みて横浜の街百千鳥
秋深み兜太師文化功労者
上弦の月澄みぬ東国に住みぬ
09・I・17東京例会に居ます
羽曳野や青葡萄の下の三人
皐月に入るわれ娘を産みし日なり

 小柳 慶三郎
いくたびも初日に融かす鬱なりし
探梅の右京区にいる晴れ女
軍艦が出てゆく蛙の目借り時
春昼や妻と流沙にまぶされる
苦瓜を蒔く愚かさに嵌りをり
百日紅死者を罵りっ飯を喰ふ
廃屋の茗荷誰にも教えない
息白く弥勒の指を真似てをり
朝の粥百日紅に嗤われる
夜咄に弟祖母を出し入れす

  小山 やす子
晩夏光潮流を来た男たち
熊蝉の羽ばたき思いっきり音痴
鎮痛剤決起の朝の白シャツ
大の字は圧死のようだ春の空
桐満開個人情報浮上する
桃すもも能登のとと楽(らく)は口癖
ごきぶり居て私も居て街あかり
かたつむり朝の念仏降りて来る
白木槿眠い詩人のズボン吊り
棺は無垢見え隠れする青胡桃

 近 藤 好 子
米二合沈めて月を点すかな
柿たわわ大字小字消すと言う
書き出しは畑のことから山眠る
許そうかふあっと三河にぽたん雪
水仙のかたちで尼僧やって来る
児が駆け出した雪降りの永平寺
葱を抜く人に声かけ過ぎるなり
母はまだ遊びの途中れんげ草
遺言のように十薬吊しけり
白寿の人に会いにゆく日の小春かな

 今 野 修 三
啓蟄の滝を落下の松丸太
猫じゃらし引越すように死ねるかや
搾乳の人の姿勢を楷書という
逆しまに剌さる死もある雪国ぞ
鍋釜照らし家出てゆきし蛍かな
薄目で見ていると思う冬の山
キラキラキラ豊葦原を億の針
探索棒蛸とブラジャー引っ剥がす
沖合を群れなす鮫か震災地
隆隆と仏壇の中青大将

やっと「か行」までアップしました。
50周年からまだ数年の感じがしますが、亡くなった方がいます。
北川邦陽さんは風土的な句を書かれた方です。全国大会の折、奥山さんに挨拶に行ったら邦陽さんさんが下着だけで居てが慌てずどっしりとしていたのが句のような人だなと思いました。晩年は癌を患いながら俳誌を出しつづけて頑張りました。
草野さんは尾田さんと言ったほうが親しく感じられます、ご主人の秀三郎さんを立てて一歩下がった姿勢で俳句を作っていましたが、詩情あふれる句でした。
来年は海程は終刊です。早くアンソロジーの入力を終わりたい。管理人

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