2017年8月6日

海程句集3 海程創刊50周年記念アンソロジー・物故同人

阿部 完市 
慎重に銀木犀を思いたり
蓴菜はもつとも形式的である
鶏の天地無用にありにけり
寒卵地面つくづくつづくなり
会釈して北陸道に入りにけり
さんくと・ぺてるぶるぐ全天窓かな
撒水車らぶそでい・いん・ぶるう撒く

  相澤 和郎
月出てゐる雨降つてゐる萩の寺
カザグルマ廻つてる燕舞つている
みつめればはにかむ枝垂桜かな
瓦屋根越えてゆけない赤蜻蛉
並木直立不動の冬が来る
消しゴムでごしごし消すや泡立草
各駅へ桜前線停車する

 阿部 娘子
こめかみの熟睡の木より夏鴉
父の日の雨のあひるが歩き出す
ちちははに在りし戦歴長け藜
水呑んでひとりあそびの山の蛭
白粥を向こうへ吹いて十二月
青南瓜やさしく叩き國分尼寺
茶が咲いて石くれ六つ初の旅




 飯塚 澄子
夏雲や歩けるかぎり歩きたし
子と約す場所白芙蓉盛りなり
少女期の顎のせみたる銀河かな
ふるさとの海に秀を騰げ秋の川
旅の辺の風韻柿の緋色にも
ふるさと恋うひと筋吾にあらばしり
いざこざのみな夢とすぎ風花す

 伊藤 二朗
蝸牛長生きのコッは受信せず
朝寝して鏡の声を聴き漏らす
体内を一年かかって月昇る
芽吹く谷意中の空間手掴みす
夕暮は力を抜けと秋の山
最澄の膝に零るる秋の蝶
ものの芽や会話の好きな紙包み

 伊藤 由貴江
新年や生きて逢ふべし吾(あ)の魑魅魍魎
折り鶴のひしと大暑や前橋や
山里暮れ蒼き薔薇ほし夜鷹鳴く
無言にて空見つむるよ吾の初冬
毎日が天体運行桜花(はな)は散り
桜花散る夕べ私は星に生きている
俳句といふ創れば箒星(ほし)に棲む人

 稲岡 己一郎
高速に深夜の入ら家畜のよう
善意の入ら広々とあり杜若
童謡も知らぬ男よ夏は来ぬ
源流の婆紅として倒壊す
秋風は戦争告知かも知れず
山頂に神楽をおろす少年たち
触れもして梅雨ぼうほうの妻太る

 いなば ちよこ
牛蛙ためこんでしまった私の内気
門火焚くてのひらほどの土焦がし
時雨くる按針像のぽんのくぼ
秋天へ白馬探しに発つところ
大花野着替えてゆくと伝えてよ
薬売りの抱き起こしゆく秋ざくら
星月夜シャガールの馬に会いにゆく

 今井 竜蝦
春眠の覚めきつてさて生きており
地震(ない)の来て桃一枝のねぼすけ
石筍はくらがりの春の噴き水
毬栗地に囗あんぐりの涅槃かな
マフラーの蛇(くちなわ)なせるパリ土産
初日記粛粛としとて誤字脱字
癖(へき)のむた飼ひ慣らされて卒寿かな

 岩田 立
種なしの葡萄は神のポーカーフェース
ひと目惚れ笠に隠れる風の盆
ひょうひょうと水を囗にし雷鳥去る
馴れし家ひとりで生きる冬の蝿
生涯は仮屋と覚り日向ぼこ
少年の恋つぶて飛ぶ雪合戦
弘法の足あと辿る去年今年

 大木 石子
穀雨で皿ぬらしてる老河童
襟裳霧笛アッツで鯨釣るが玉砕
足にのこるメダカの学校土の橋
海戦のむくろの砂は星の色
妹の忌の紅山茶花に下駄の鈴
栃の実の梟笛で子守唄
萱の軒枯れ竹薪に日短か

 太田 雅久
夕映えの眼に蛇が泳いでいる
棚田植尻餅っくも産む形に
雪籠もる果ての山人目玉あり
家毎に男ひとりの花粉症
野火を追う男はいつも素寒貧
地底より工夫湧き出る花の昼
雪降らぬ村のどこかに金切り声

 大牧 芳子
猟犬の音溜めし耳青き谷間
霜夜起っ母耳鳴りの白障子
啓蟄の円空仏は素足です
晩夏光膝抱くとき波無限
顔包む手のひらがあり娘との冬
海よりも低き田を鋤き能登鷆
流灯の闇の彼方の無数の手

 岡崎 水都
羽抜鶏地にいて天をひからせる
世にかくも哀しきかほや鍋の蓋
満月の夜を発つ名もなき魚族の列
めし屋の椅子の脚だけがみえ街ぐるみ雪
転倒のしばらくはこんな静かな地平
押しながされてゆく遙かな僕に手をあげる
うすわらいの慥かにぼくの遺体である

 岡本 政雄
恐れ入ります水の秋ですわたくしは
水仙花耳遠くなるまで生きました
佐渡より百合根貰うて御慶なり
死を感じ陶淵明の菊を感じ
独活の香の君を想へり流離かな
大寒の陽に白濁の老後あり
精いっぱい生きて枯れて木の墓

 小木 ひろ子
目の見えぬ僧よ目高は帰って来ない
山の緑に分け入りもせず指淋し
鰤の瞳の青き生国むべの花
秋の海我は泳げぬ能登女
能登しぐれさらさら胸の草原へ
機帆船のごとし七月飯屋あり
父の墓母の墓あじさいの青

 尾田 秀三郎
八つ冠雪両腕に榾(ほだ)のバランス
湖の水位息を殺した冬木の芽
リスボンの冬夜の花舗という灯り
馬銜(はみ)あまき馬黄落の髪飾り
みほとけの手印蜻蛉(せいれい)つるむかな
花しょうぶ綾は水辺の呼吸律
屈折とは夏草に縷縷(るる)と踏み跡
金井 充
眠る葉の上に目を開け合歓の花
野の遊ぶ天動説と地動説
王冠の如くじゃがたら花をつけし
瀧師いまこの世をあとの大昼寝
縄文の土器の破片かこほろぎは
江戸からの船便阿部完市(アベカン)の水売
容態は何方(どっち)付かずの吾が晩夏

 金子皆子
冬の歌アップリケの赤い魚かな
黄鶲やつくづくと智佳子花なり
金縷梅の花の咲く電波送らむ
山茱萸や両眼ともに埋めて咲きぬ
白梅や下弦の月にふくらんで
どっと胸に落ちてゆきます木苺の花
下弦の月檀の花の細細

 上林 裕
数学教師の完璧な円島は夏
肋間に紅梅点すを老いという
捩花や背中が痒い俺お前
平易な文を安易に読むなあめんぼう
豊葦原に餓えて柿喰う熊だ撃つな
赤児にしゃっくり移して飛べり法師蝉
物零しては笑ます妻あれ亥の年も


 北 四季
太初より習い覚えし姫始
梅の花投句の順に正座せり
ひいらぎ咲いた崇拝の木兜太と呼ぶ
若葉風耳から補聴器出しておく
理髪屋の鏡の中の兜蟹
さよならの握手にさくら散るさくら
火の如く記憶に長き塀ありき

 木澤 榮子
好きな道好きに歩いて竹の春
福寿草初めて「あなた」と呼んだ朝
たしか上手に歩いた筈よ猫じゃらし
しきたりの寒九の水に合掌す
スカーフを遊ばすための風が欲し
疲れ来て色濃き茄子の一夜漬け
故郷よし父の憩いの青くるみ
                                                 
 木田柊三郎
亡き妻が相槌を打ち初時雨
田鴫来た妻逝ってから遠景
電車来る彼岸花の胴ふるわせ
時雨来た廃人木田に甘酒を
大きな瞳で見るなよ秩父霧の奥
この柿は鵯よお前に取っておく
丹後では鬼は白波曼珠沙華

 北岡 草雨
光り握りしめ一徹の枯れ古木
一騎のごと豪然と朝の温泉に一人
鵙に佇ち嘘かわきゆく野の夕日
鋭意生き古り白眉たり夜のちちろ
古りいつも銃口の前冬ざるる
寒鴉阿呆呼ばわりされ手ぶら
芽木期句に燃え尽きし夜や灰になり

 木下 久子
とろとろと草書の様な夜長かな
青分会青の冴えたる北斗星
雨音のショパンの調べ春匂う
水仙は海の深さを覗き居り
古暦大小の標撫でにけり
子歳には子歳の嫁が来天下泰平
越前勝山左義長雪なく不思議かな

 木原 きみ
島に生き砧打つ母黍挽く柤母
禱る日々秋果もぐ日々淋しさよ
青葉木菟一途に待てば海騒ぐ
夾竹桃激しく戦ぐ別れとは
凛と生きよと冬浪の如き遺言
惜春の海よ鎮魂の海よ
茫茫と花冷えの潮退きゆけり

 木村 牛人
灰猫や入江の優しさ充ちてあり
父の囗はむくろの重さ背負いけり
かまきりの顔が目玉にぶら下がり
炎昼に職辞す男石を蹴る
深爪をする癖ありて端居かな
僧という冷めた関係青蜜柑
伽藍から落ちたと思うかまど猫

 木村 孝子
蛍火や狂ひたらざる土不踏
春待てる蒲生野野守声はるか
歓びは尾にあつまれり鯉幟
秋の暮傀儡の笑顔みてしまふ
冬怒濤何か言わんとして崩る
翻すストール飛天かすかな乳房
それぞれに旅立ちし夜の遠蛙

 清滝 龍馬
螻蛄鳴くや天丼は大盛りにして
冬ざるる納屋に束ねし英語辞典
大根白しふわつと耳が遠くなる
隠岐遠く水母漂うぉでん酒
扁額の鶏のはみ出す夜の雪
妹恋うる歌のあまたに水仙花
墨色に松の炎の残る冬

 窪田 丈耳
黄な臭い大陽海苔場に青年泛き
みどりをすべる秒音患者も蝶も眠り
やがて夜明けのやさしい冬田人を送り
烏賊を食う絢爛たる辞書の中
初日待つ独語とうとうたる尿り
木曜日は猩々蝿を手打ちする
手に野蒜匂う二夕夜の不眠症

 熊沢さとし
行住や春めく峡も寝不足も
書を置けば芽立ちの峡に飛び来る烏
一会あれや蝦夷の山肌花林檎
夏日かも蝦夷松伸びしわれの丈
あぢさゐに吹く風峡の朝の飯
一汁や山峡秋の鴉来て
返り花ひとつ山峡朝の陽に

 黒川 憲三
畦青む土の匂いの妻の素手
活断層黒い光りのっぽくらめ
夕星(ゆうずつ)の瞬きにあう柚子湯かな
朝勃ちや快便快晴揚雲雀
病窓を覗く弓張月(ゆみはり)吾も弓形(ゆみはり)
羽音水音青渡良瀬は隣組
かたくりは日を惜しむ花つつむ花

 鴻巣又四郎
喪の家の餅焼かれ餅ぷーんと泣く
椎の実喰う来世は鳥となって鳴こう
ホビー咲いて屋根の上には屋根屋がいて
一人ぽっちで生きてるつくり咳をする
はこべの鼻と森の水車は少し無学
考える月出ぬうちに決めようと
蝶凍てて翅をたためば終る旅

 小西ありそ
鶴来たり夜のマネキンみな素足
ホカロンと年賀の龍をふところに
絵ロウソク燃えつきるまでを鶴といる
青い絵はがき一枚流れ若狭かな
山の音独活の根っこは父の骨
どしゃぶりの馬の放屁里神楽
木枯にあるのは命一つだけ

 小林  巌
その空に思い出もなし鰯雲
冷えの春体温計の長さかな
めでたさや医者の薬が赤と白
大雪や粒状の死がころころと
夜光虫曳きて砂漠を奔りたり
南天の実を数え小さな憎悪
点滴透明泡立つ視野に薔薇

 小林とよ子
白い雲母の笑みのせ紫苑咲く
カンナ咲く宿におだんごクラス会
飛ぶ雲を追い越すように秋の風
花活けて亡夫の書斎に秋灯す
虫の声いつしか空は星世界
雨のよう風吹くままに木の実落ち
北風や関東上空砂の波

 近藤  克
厨にも茶の花咲かす男所帯
向日葵の立往生を羨しとも
団栗落つ介護疲れの肩に背に
大根漬精出す妻の背に亡母が
白菜の巻かず茎立つ自己嫌悪
稲は穂を抱き母となる貌となる
明日は未来余生鞭打ち春を待つ

 斎藤 白砂
秋耕の寂しい景よ僧もいそぎ
心の榾がポキポキ折られ暗澹たり
古い校舎にメタセコイアにほのぼの雪
光芒の青麦・アカシア・葱坊主
街の陽は海に墜つべしわれは病者
病む妻を風花悲しく包んでいる
蕪房の垂れをくぐって妻と逢う

 沙羅 冬笛
鰯雲 中洲づたいに逢いにゆける
いくっもの幹抜けてゆく 私ももみじ
春の川 右岸一帯は被災地
被災地ま上帰る鳥は汚れて
焼け跡さっぱり気づいてまた失うもの
大阪ペチュアのよれよれの娘(こ)と俺と
夏も終りのわが漆黒の活火山

 清水 冬視
行きずりの猫の読心術に遇う
寺の裏より大虻につけられる
禿頭を冬瓜よりも大事にす
蝸牛の冴えたる時は空を飛ぶ
桃花より一猫現れてこれに和す
山蛭は天の唾なり言葉なり
雁ゆけりもろもろの辞書担いつつ

 白沢日出緒
八月の真っ赤な時計止まりけり
椋鳥の個々それぞれは寒からん
ひたすらに白き墨絵となりし雪
黄泉下萌え押して行きたし車椅子
背を伸ばせ森林浴は酢のようだ
心音やまた唸りだす冷房機
点滴は甘露秒針に秋風

 新聞 絢子
くるまりし毛布の厚さ私の刈田
パオの子も子馬もくらく朝の星
三日月のくぐもる藁のかたつむり
夏花火よこたえている枯れた肺
仔牛と居て風鳴る谷の木の実です
朝の紫苑は風をゆく大原女です
落葉ふめばコーンフレークのきしみ

 助田 素水
秋を旅して厠にならぶ順番なり
久しぶりの雨だ湯豆腐でよい
つきあいが下手で蓬を摘んでいる
感情のゆっくりとして春の鮒
羅や幾つになっても姉は姉
落し文その後のことは何も知らず
人類以後亀は啼かぬことにする

 袖岡 華子
蚕のような腕となって点滴される
礼してくれる木木裸になったね
藍色木綿の頭巾柩と焼きしかな
二人でしゃべって日暮は花蕎麦で
十の指で洗う眼窩や青葉木菟
朝の検温夜の消灯に砂時計
夫と吾のくらやみ微笑空間なり
金井 充
眠る葉の上に目を開け合歓の花
野の遊ぶ天動説と地動説
王冠の如くじゃがたら花をつけし
瀧師いまこの世をあとの大昼寝
縄文の土器の破片かこほろぎは
江戸からの船便阿部完市(アベカン)の水売
容態は何方(どっち)付かずの吾が晩夏

 金子皆子
冬の歌アップリケの赤い魚かな
黄鶲やつくづくと智佳子花なり
金縷梅の花の咲く電波送らむ
山茱萸や両眼ともに埋めて咲きぬ
白梅や下弦の月にふくらんで
どっと胸に落ちてゆきます木苺の花
下弦の月檀の花の細細

 上林 裕
数学教師の完璧な円島は夏
肋間に紅梅点すを老いという
捩花や背中が痒い俺お前
平易な文を安易に読むなあめんぼう
豊葦原に餓えて柿喰う熊だ撃つな
赤児にしゃっくり移して飛べり法師蝉
物零しては笑ます妻あれ亥の年も


 北 四季
太初より習い覚えし姫始
梅の花投句の順に正座せり
ひいらぎ咲いた崇拝の木兜太と呼ぶ
若葉風耳から補聴器出しておく
理髪屋の鏡の中の兜蟹
さよならの握手にさくら散るさくら
火の如く記憶に長き塀ありき

 木澤 榮子
好きな道好きに歩いて竹の春
福寿草初めて「あなた」と呼んだ朝
たしか上手に歩いた筈よ猫じゃらし
しきたりの寒九の水に合掌す
スカーフを遊ばすための風が欲し
疲れ来て色濃き茄子の一夜漬け
故郷よし父の憩いの青くるみ
                                                 
 木田柊三郎
亡き妻が相槌を打ち初時雨
田鴫来た妻逝ってから遠景
電車来る彼岸花の胴ふるわせ
時雨来た廃人木田に甘酒を
大きな瞳で見るなよ秩父霧の奥
この柿は鵯よお前に取っておく
丹後では鬼は白波曼珠沙華

 北岡 草雨
光り握りしめ一徹の枯れ古木
一騎のごと豪然と朝の温泉に一人
鵙に佇ち嘘かわきゆく野の夕日
鋭意生き古り白眉たり夜のちちろ
古りいつも銃口の前冬ざるる
寒鴉阿呆呼ばわりされ手ぶら
芽木期句に燃え尽きし夜や灰になり

 木下 久子
とろとろと草書の様な夜長かな
青分会青の冴えたる北斗星
雨音のショパンの調べ春匂う
水仙は海の深さを覗き居り
古暦大小の標撫でにけり
子歳には子歳の嫁が来天下泰平
越前勝山左義長雪なく不思議かな

 木原 きみ
島に生き砧打つ母黍挽く柤母
禱る日々秋果もぐ日々淋しさよ
青葉木菟一途に待てば海騒ぐ
夾竹桃激しく戦ぐ別れとは
凛と生きよと冬浪の如き遺言
惜春の海よ鎮魂の海よ
茫茫と花冷えの潮退きゆけり

 木村 牛人
灰猫や入江の優しさ充ちてあり
父の囗はむくろの重さ背負いけり
かまきりの顔が目玉にぶら下がり
炎昼に職辞す男石を蹴る
深爪をする癖ありて端居かな
僧という冷めた関係青蜜柑
伽藍から落ちたと思うかまど猫

 木村 孝子
蛍火や狂ひたらざる土不踏
春待てる蒲生野野守声はるか
歓びは尾にあつまれり鯉幟
秋の暮傀儡の笑顔みてしまふ
冬怒濤何か言わんとして崩る
翻すストール飛天かすかな乳房
それぞれに旅立ちし夜の遠蛙

 清滝 龍馬
螻蛄鳴くや天丼は大盛りにして
冬ざるる納屋に束ねし英語辞典
大根白しふわつと耳が遠くなる
隠岐遠く水母漂うぉでん酒
扁額の鶏のはみ出す夜の雪
妹恋うる歌のあまたに水仙花
墨色に松の炎の残る冬

 窪田 丈耳
黄な臭い大陽海苔場に青年泛き
みどりをすべる秒音患者も蝶も眠り
やがて夜明けのやさしい冬田人を送り
烏賊を食う絢爛たる辞書の中
初日待つ独語とうとうたる尿り
木曜日は猩々蝿を手打ちする
手に野蒜匂う二夕夜の不眠症

 熊沢さとし
行住や春めく峡も寝不足も
書を置けば芽立ちの峡に飛び来る烏
一会あれや蝦夷の山肌花林檎
夏日かも蝦夷松伸びしわれの丈
あぢさゐに吹く風峡の朝の飯
一汁や山峡秋の鴉来て
返り花ひとつ山峡朝の陽に

 黒川 憲三
畦青む土の匂いの妻の素手
活断層黒い光りのっぽくらめ
夕星(ゆうずつ)の瞬きにあう柚子湯かな
朝勃ちや快便快晴揚雲雀
病窓を覗く弓張月(ゆみはり)吾も弓形(ゆみはり)
羽音水音青渡良瀬は隣組
かたくりは日を惜しむ花つつむ花

 鴻巣又四郎
喪の家の餅焼かれ餅ぷーんと泣く
椎の実喰う来世は鳥となって鳴こう
ホビー咲いて屋根の上には屋根屋がいて
一人ぽっちで生きてるつくり咳をする
はこべの鼻と森の水車は少し無学
考える月出ぬうちに決めようと
蝶凍てて翅をたためば終る旅

 小西ありそ
鶴来たり夜のマネキンみな素足
ホカロンと年賀の龍をふところに
絵ロウソク燃えつきるまでを鶴といる
青い絵はがき一枚流れ若狭かな
山の音独活の根っこは父の骨
どしゃぶりの馬の放屁里神楽
木枯にあるのは命一つだけ

 小林  巌
その空に思い出もなし鰯雲
冷えの春体温計の長さかな
めでたさや医者の薬が赤と白
大雪や粒状の死がころころと
夜光虫曳きて砂漠を奔りたり
南天の実を数え小さな憎悪
点滴透明泡立つ視野に薔薇

 小林とよ子
白い雲母の笑みのせ紫苑咲く
カンナ咲く宿におだんごクラス会
飛ぶ雲を追い越すように秋の風
花活けて亡夫の書斎に秋灯す
虫の声いつしか空は星世界
雨のよう風吹くままに木の実落ち
北風や関東上空砂の波

 近藤  克
厨にも茶の花咲かす男所帯
向日葵の立往生を羨しとも
団栗落つ介護疲れの肩に背に
大根漬精出す妻の背に亡母が
白菜の巻かず茎立つ自己嫌悪
稲は穂を抱き母となる貌となる
明日は未来余生鞭打ち春を待つ

 斎藤 白砂
秋耕の寂しい景よ僧もいそぎ
心の榾がポキポキ折られ暗澹たり
古い校舎にメタセコイアにほのぼの雪
光芒の青麦・アカシア・葱坊主
街の陽は海に墜つべしわれは病者
病む妻を風花悲しく包んでいる
蕪房の垂れをくぐって妻と逢う

 沙羅 冬笛
鰯雲 中洲づたいに逢いにゆける
いくっもの幹抜けてゆく 私ももみじ
春の川 右岸一帯は被災地
被災地ま上帰る鳥は汚れて
焼け跡さっぱり気づいてまた失うもの
大阪ペチュアのよれよれの娘(こ)と俺と
夏も終りのわが漆黒の活火山

 清水 冬視
行きずりの猫の読心術に遇う
寺の裏より大虻につけられる
禿頭を冬瓜よりも大事にす
蝸牛の冴えたる時は空を飛ぶ
桃花より一猫現れてこれに和す
山蛭は天の唾なり言葉なり
雁ゆけりもろもろの辞書担いつつ

 白沢日出緒
八月の真っ赤な時計止まりけり
椋鳥の個々それぞれは寒からん
ひたすらに白き墨絵となりし雪
黄泉下萌え押して行きたし車椅子
背を伸ばせ森林浴は酢のようだ
心音やまた唸りだす冷房機
点滴は甘露秒針に秋風

 新聞 絢子
くるまりし毛布の厚さ私の刈田
パオの子も子馬もくらく朝の星
三日月のくぐもる藁のかたつむり
夏花火よこたえている枯れた肺
仔牛と居て風鳴る谷の木の実です
朝の紫苑は風をゆく大原女です
落葉ふめばコーンフレークのきしみ

 助田 素水
秋を旅して厠にならぶ順番なり
久しぶりの雨だ湯豆腐でよい
つきあいが下手で蓬を摘んでいる
感情のゆっくりとして春の鮒
羅や幾つになっても姉は姉
落し文その後のことは何も知らず
人類以後亀は啼かぬことにする

 袖岡 華子
蚕のような腕となって点滴される
礼してくれる木木裸になったね
藍色木綿の頭巾柩と焼きしかな
二人でしゃべって日暮は花蕎麦で
十の指で洗う眼窩や青葉木菟
朝の検温夜の消灯に砂時計
夫と吾のくらやみ微笑空間なり
 金井 充
眠る葉の上に目を開け合歓の花
野の遊ぶ天動説と地動説
王冠の如くじゃがたら花をつけし
瀧師いまこの世をあとの大昼寝
縄文の土器の破片かこほろぎは
江戸からの船便阿部完市(アベカン)の水売
容態は何方(どっち)付かずの吾が晩夏

 金子皆子
冬の歌アップリケの赤い魚かな
黄鶲やつくづくと智佳子花なり
金縷梅の花の咲く電波送らむ
山茱萸や両眼ともに埋めて咲きぬ
白梅や下弦の月にふくらんで
どっと胸に落ちてゆきます木苺の花
下弦の月檀の花の細細

 上林 裕
数学教師の完璧な円島は夏
肋間に紅梅点すを老いという
捩花や背中が痒い俺お前
平易な文を安易に読むなあめんぼう
豊葦原に餓えて柿喰う熊だ撃つな
赤児にしゃっくり移して飛べり法師蝉
物零しては笑ます妻あれ亥の年も


 北 四季
太初より習い覚えし姫始
梅の花投句の順に正座せり
ひいらぎ咲いた崇拝の木兜太と呼ぶ
若葉風耳から補聴器出しておく
理髪屋の鏡の中の兜蟹
さよならの握手にさくら散るさくら
火の如く記憶に長き塀ありき

 木澤 榮子
好きな道好きに歩いて竹の春
福寿草初めて「あなた」と呼んだ朝
たしか上手に歩いた筈よ猫じゃらし
しきたりの寒九の水に合掌す
スカーフを遊ばすための風が欲し
疲れ来て色濃き茄子の一夜漬け
故郷よし父の憩いの青くるみ
                                                 
 木田柊三郎
亡き妻が相槌を打ち初時雨
田鴫来た妻逝ってから遠景
電車来る彼岸花の胴ふるわせ
時雨来た廃人木田に甘酒を
大きな瞳で見るなよ秩父霧の奥
この柿は鵯よお前に取っておく
丹後では鬼は白波曼珠沙華

 北岡 草雨
光り握りしめ一徹の枯れ古木
一騎のごと豪然と朝の温泉に一人
鵙に佇ち嘘かわきゆく野の夕日
鋭意生き古り白眉たり夜のちちろ
古りいつも銃口の前冬ざるる
寒鴉阿呆呼ばわりされ手ぶら
芽木期句に燃え尽きし夜や灰になり

 木下 久子
とろとろと草書の様な夜長かな
青分会青の冴えたる北斗星
雨音のショパンの調べ春匂う
水仙は海の深さを覗き居り
古暦大小の標撫でにけり
子歳には子歳の嫁が来天下泰平
越前勝山左義長雪なく不思議かな

 木原 きみ
島に生き砧打つ母黍挽く柤母
禱る日々秋果もぐ日々淋しさよ
青葉木菟一途に待てば海騒ぐ
夾竹桃激しく戦ぐ別れとは
凛と生きよと冬浪の如き遺言
惜春の海よ鎮魂の海よ
茫茫と花冷えの潮退きゆけり

 木村 牛人
灰猫や入江の優しさ充ちてあり
父の囗はむくろの重さ背負いけり
かまきりの顔が目玉にぶら下がり
炎昼に職辞す男石を蹴る
深爪をする癖ありて端居かな
僧という冷めた関係青蜜柑
伽藍から落ちたと思うかまど猫

 木村 孝子
蛍火や狂ひたらざる土不踏
春待てる蒲生野野守声はるか
歓びは尾にあつまれり鯉幟
秋の暮傀儡の笑顔みてしまふ
冬怒濤何か言わんとして崩る
翻すストール飛天かすかな乳房
それぞれに旅立ちし夜の遠蛙

 清滝 龍馬
螻蛄鳴くや天丼は大盛りにして
冬ざるる納屋に束ねし英語辞典
大根白しふわつと耳が遠くなる
隠岐遠く水母漂うぉでん酒
扁額の鶏のはみ出す夜の雪
妹恋うる歌のあまたに水仙花
墨色に松の炎の残る冬

 窪田 丈耳
黄な臭い大陽海苔場に青年泛き
みどりをすべる秒音患者も蝶も眠り
やがて夜明けのやさしい冬田人を送り
烏賊を食う絢爛たる辞書の中
初日待つ独語とうとうたる尿り
木曜日は猩々蝿を手打ちする
手に野蒜匂う二夕夜の不眠症

 熊沢さとし
行住や春めく峡も寝不足も
書を置けば芽立ちの峡に飛び来る烏
一会あれや蝦夷の山肌花林檎
夏日かも蝦夷松伸びしわれの丈
あぢさゐに吹く風峡の朝の飯
一汁や山峡秋の鴉来て
返り花ひとつ山峡朝の陽に

 黒川 憲三
畦青む土の匂いの妻の素手
活断層黒い光りのっぽくらめ
夕星(ゆうずつ)の瞬きにあう柚子湯かな
朝勃ちや快便快晴揚雲雀
病窓を覗く弓張月(ゆみはり)吾も弓形(ゆみはり)
羽音水音青渡良瀬は隣組
かたくりは日を惜しむ花つつむ花

 鴻巣又四郎
喪の家の餅焼かれ餅ぷーんと泣く
椎の実喰う来世は鳥となって鳴こう
ホビー咲いて屋根の上には屋根屋がいて
一人ぽっちで生きてるつくり咳をする
はこべの鼻と森の水車は少し無学
考える月出ぬうちに決めようと
蝶凍てて翅をたためば終る旅

 小西ありそ
鶴来たり夜のマネキンみな素足
ホカロンと年賀の龍をふところに
絵ロウソク燃えつきるまでを鶴といる
青い絵はがき一枚流れ若狭かな
山の音独活の根っこは父の骨
どしゃぶりの馬の放屁里神楽
木枯にあるのは命一つだけ

 小林  巌
その空に思い出もなし鰯雲
冷えの春体温計の長さかな
めでたさや医者の薬が赤と白
大雪や粒状の死がころころと
夜光虫曳きて砂漠を奔りたり
南天の実を数え小さな憎悪
点滴透明泡立つ視野に薔薇

 小林とよ子
白い雲母の笑みのせ紫苑咲く
カンナ咲く宿におだんごクラス会
飛ぶ雲を追い越すように秋の風
花活けて亡夫の書斎に秋灯す
虫の声いつしか空は星世界
雨のよう風吹くままに木の実落ち
北風や関東上空砂の波

 近藤  克
厨にも茶の花咲かす男所帯
向日葵の立往生を羨しとも
団栗落つ介護疲れの肩に背に
大根漬精出す妻の背に亡母が
白菜の巻かず茎立つ自己嫌悪
稲は穂を抱き母となる貌となる
明日は未来余生鞭打ち春を待つ

 斎藤 白砂
秋耕の寂しい景よ僧もいそぎ
心の榾がポキポキ折られ暗澹たり
古い校舎にメタセコイアにほのぼの雪
光芒の青麦・アカシア・葱坊主
街の陽は海に墜つべしわれは病者
病む妻を風花悲しく包んでいる
蕪房の垂れをくぐって妻と逢う

 沙羅 冬笛
鰯雲 中洲づたいに逢いにゆける
いくっもの幹抜けてゆく 私ももみじ
春の川 右岸一帯は被災地
被災地ま上帰る鳥は汚れて
焼け跡さっぱり気づいてまた失うもの
大阪ペチュアのよれよれの娘(こ)と俺と
夏も終りのわが漆黒の活火山

 清水 冬視
行きずりの猫の読心術に遇う
寺の裏より大虻につけられる
禿頭を冬瓜よりも大事にす
蝸牛の冴えたる時は空を飛ぶ
桃花より一猫現れてこれに和す
山蛭は天の唾なり言葉なり
雁ゆけりもろもろの辞書担いつつ

 白沢日出緒
八月の真っ赤な時計止まりけり
椋鳥の個々それぞれは寒からん
ひたすらに白き墨絵となりし雪
黄泉下萌え押して行きたし車椅子
背を伸ばせ森林浴は酢のようだ
心音やまた唸りだす冷房機
点滴は甘露秒針に秋風

 新聞 絢子
くるまりし毛布の厚さ私の刈田
パオの子も子馬もくらく朝の星
三日月のくぐもる藁のかたつむり
夏花火よこたえている枯れた肺
仔牛と居て風鳴る谷の木の実です
朝の紫苑は風をゆく大原女です
落葉ふめばコーンフレークのきしみ

 助田 素水
秋を旅して厠にならぶ順番なり
久しぶりの雨だ湯豆腐でよい
つきあいが下手で蓬を摘んでいる
感情のゆっくりとして春の鮒
羅や幾つになっても姉は姉
落し文その後のことは何も知らず
人類以後亀は啼かぬことにする

 袖岡 華子
蚕のような腕となって点滴される
礼してくれる木木裸になったね
藍色木綿の頭巾柩と焼きしかな
二人でしゃべって日暮は花蕎麦で
十の指で洗う眼窩や青葉木菟
朝の検温夜の消灯に砂時計
夫と吾のくらやみ微笑空間なり
 高田 律子
暁を白桃流れ泳ぎきる
ビールあふりどこか鯨に似て夜汽車
水のさくら陸のさくらに日のほろぶ
わが産科青いみかんと鳥の目あり
唐がらし肺澄むほどの風に吊る
桜草の日差にかがみ猪首もち
山鴉卵を割ればくもり日なり


 高橋 たねを
土(つち)がた我いま歯白き苗族(みゃおぞく)の子と
光のコマンドよ青啄木鳥は撃つな
熟柿吸うコンプレックス火照るかな
人間(ひと)の子を玉(ぎょく)と掴むや青葉木菟
花八つ手金(キム)酔えば朴(ばく)淋しいよ
老斑か豹斑か枇杷の種飛ばす
おなじ眸をして華大韓人川とんぼ

 高橋 碧
白粥のふつふつ霧の深むらし
この人の直球ばかり受けて、月
うれしくて裸の父を子が叩く
やや寒の土壁を押せば押しかへす
よく晴れて日向が重し榠の実
秋の婚神鏡何も写さざる
竹皮を脱ぎわれにも帰る家

 田仲 了司
我ブロッケンとして立つ雪柳 
かなめ赤芽八十路大いに耀かそう
残酷の一生涯に虹二重
掌に蛍この刻共に生きている
八十余年生き損ないぬ遠河鹿
母の忌ややがて己が忌蚊遣香
人泣かせ己れもとより十三夜

 峠 素子
植田一枚布裂き布織る広さかな
ポリ袋飛ぶこともする晩夏なり
卯の花腐し母の器官を水通る
雲の峰ナミダサシグミカエリキヌ
遠稲妻いつもどこかに夫がいる
梅雨夕焼私の窓は一つなり
散るために家族集うか初日記

 殿岡 照郎
神は前から来る天道虫だまし
ころんで起きて混血児野にあそぶ
法皇が来るキャボの花が咲いている
有って無き吾が子や如何に秋の風
音楽を低くせよ 八月十五日
あれは白ふくろうの声新位牌
眼の奥の奥のこがらし父母の墓

 豊山 千蔭
つくしんぼ四角い太鼓たたいて歩く
夕焼空「許そういかい忘れまい」
柿の種見えざるものが命持つ
火噴く家ただみてゐたり真夜鐘馗
投票紙落つる暗黒木の音す
蕗の葉の葉脈黒人霊歌きこゆ
五月晴君思ふ詩わが胸に

 中北 綾子
冬のブランコその下愕然と白し
限りなく星生れ蟻生れ個という
呼吸しても契りとなるや青丹波
みみずくの目と會うホルン奏者かな
煙突凍て前頭葉はどのへん
ユーカラの韻猫じゃらしに触れて
哀という国あり密に舟あそび

 中原 昭子 
初雪やピラカンサスは小鳥の木
饒舌な囗覆いけり大マスク
そっと人問うよう雪の降りはじむ
孫に冬フランスパンのような足
同胞に鬼もまじりて福は内
白魚の大漁ですよいらっしゃい
男の子いま希望の翼の上にあり

 鳴海 海王
柿を干し藁家が一人歩きする
入道雲枕木しいう意志のつづき
七月は空気の抜けた字がならぶ
職を辞す逆光にいるところてん
十月の小骨のごとし海賊旗
秋ときに馬の後ろを付録にする
このごろの葬は蝉降る飯食へろ

 浜崎  敬治  
争わぬ国こそ靖し秋津洲
栄養の能書よりも栗ごはん
大腸をからっぽにして小正月
雪催い腹の黒さを診られおり
点滴の針に生かされ春浅し
屠蘇頂礼兜太たふさぎ新しく
月の客いくさを生きて寿

 原子 公平
桃色夕焼け大地の乳房へ泊りに行く
机上に光るマラルメの詩と凍る蜜柑
ランボーは遠いおとうと目刺に酒
詩を読むや葡萄をつまむ手のルフラン
酔余の涙雲のような生牡蠣啜り
母の匂いの朧夜なれば夜逃げもよし
李白思えばすぐ酔う雪のひとり酒

 林 壮俊
仲秋の白山燃ゆる酔って候
初恋や大正はるか霧の中
土筆和え東京空襲逃れきて
シスターよ古都ダブリンのはるの虹
柳絮飛ぶ志を遂げざるに老いたるよ
白南風や生家の浜の阿檀消えしと
流離かな白夜の村の鹿とあり

 林  唯夫
空蝉ばかり仏壇巨大なる村は
雪原を縄文までゆきあそぶなり
鮒ずしを食みてまどろむ泥の村
いかなごの黒眼おびただしき愛咬
犀のように森ゆく思想夕立す
月明の山上肉食して汚す
源流は唯の一滴とろろ喰う

 広辻 閑子
一つだけ地べたの好きなゴム風船
夏の風邪なんとうるさき肋骨
踏台を抱えまっすぐ虹目指す
猛暑日のレモンよれよれまでしぼる
猛暑日の地球しなびて人こぼす
枯原や破れしまゝの青写真
生きるとは面倒なれど冬暖か

 藤井 清久
春風邪や偉丈夫なるかな人体図
箱庭にバペルの塔を建てんとす
アナーキストのような山茶花胃に咲いた
花馬酔木イエスに女性弟子あまた
ふくろう啼くと聖堂となる古写真館
米を磨ぐ男は海に泳ぐかな
大声で良夜と言えば妻も言う

 藤本 武男
百薬や緑恋歌酒西瓜
甚平のはたきかけなり山笑う
甚平は無邪気な俺の流行歌
雪かぶるそれが策なり臍曲り
地虫出づ不精者との足湯かな
寡黙とは所在なくして草むしる
仏の座米寿の父は酒好み

 帆足 正
蘖やリハビリ室にうごめく父
雪霏霏と旋削屑は熱い螺旋
母の日のブラウス霞草模様
大西日ギブス固めの頚を立て
壷中に棲む夏暁の天を円く翳し
光るダリア校門を児ら溢れ出る
退院ですどこよりも濃い紫陽花です

 星野 一郎
青田村水平が張り裂けるかな
かたつむりうんともすんとも言っている
ダイヤモンドダストぼんやり白婦人
ブランデーさらにコブラを足して呑む
邯鄲の肢を見てからものを言え
白韻と言おう吹雪のうしろ姿
ところてんなんでこんなに歯に暗い

  松本  照子
羽抜鶏羽より薄き僕の耳
きさらぎや象の鼻振る音ばかり
かるかやのこの潮鳴りを受胎して
凍蝶のこっぱみじんや手のひらに
冬そうび半身見える天袋
捨猫の深爪からむふきのとう
大夕焼花眼となりしまま沈み

 松本まさ子
映團みる薄闇妻鳩の匂い
蕎麦殻枕ざざと鳴る夜遊びや
束の間の市やしといんと大蛤
こつことり枕にもぐら道の音
千羽鶴終りに白い椿つなぐ
松蝉や少女のあぐらもも色に
ルーズソックス三人同時に話し出す

 三好  芳子
手花火や小さき鬱を火玉とす
石榴爆ぜ脳神経外科混んでます
樗の実老年と言う齢賜る
青山河未来図とじる時間です
人生のねじ巻くあした去年今年
寒月光滴るほどに身を哂す
残る雁黄泉の渡しの寧らなり

 森 鈴鹿
案山子翁人心衰微如何にぞや
枯野行くも吾が人生の一事たり
梅白し老残邪念祓ふべし
よしきりのけふの景色をわれとあり
法師蝉護法のこゑのいまし歇む
俳諧の心を胸に病む秋思
ふるさとの鈴鹿も眠る空ならむ

矢田志づ代
朝の妻大いに怒る根切虫
夏草や嘶く軍馬もういない
籐寝椅子あめ色やわし父よ来よ
祝歌に婚の荷がゆく椎の花
尼様になったばかりよ青蛙
業平は旅の支度や杜若
惜別は予約にあらず虎ヶ雨

 山田 哲男
花野来て花野の揺れに骨埋む
鱗雲隣人いずこより来たる
眠りいる冬根に赫き空の色
枯野行く一人の影が影を踏み
地に這いしムンクの叫び認知症
孤独なり冬芽無限の大桿
浴衣姿の越後三山傷深し

 湯川  礼子  
アキアカネその傾きにつきあうよ
狐火や鎌倉武士と言いたもう
花嫁と猫柳運ばれてくるなり
青芒なり猫々と籤を引く
鷺の巣かビー玉踏んでいるふふふ
穂芒のぽこぽこぽこり種の起源
やわらかき蹄鉄ありぬきりぎりす

 弓削 ゑい  
寝て起きて婆々の生涯月朧
草取りを趣味の内とし土根性
衣食住足り梅雨に入る台地かな
新蕎麦すする父の面影懐かしや
子等の声行水の月ゆらゆらと
罠かける兄の後追う秋タベ
栄養たっぶり一人の暮しかな

横嶋一茶夢
浜昼顔に託せるなんてどんな夢
ふるさとは雲の峰だけ新しい
枯れてなお家族のきずな烏瓜
ホームレスのテントに国旗熱帯夜
蓮の実飛んで二億円の宝くじ
踏めばみなメロディーとなる落葉かな
梅まっりロボットが売る恋みくじ

 吉澤てるよ
耳ひろげ草の実飛んで行きにけり
流星やうたた寝という美音
秋明菊咲いてわたしの目覚めかな
五体投地狼に喰われても可なり
人中にうとましく生き一茶の忌
哄笑と冬のゴリラと話すかな
吹雪く夜の青く透くなり身の真中

 吉田さかえ
とろろ汁が好物寺の赤ん坊
七回忌甲子男の枇杷の木見にゆけり
初鶏やあの鳴き方は笑い声
灸と自然薯どちら効くかと村の僧
僧が来て笑い茸だと裁定す
熊野近し僧侶控室にほうたる
熊野三山僧の背中にほうたる

 若井 越路
ポケットに木枯ためて泣き兎
花筏海へ重心移し変え
風見鶏絵本を積んでギリシャ船
山茶花や土鍋の中の写楽の鼻
鴨南蛮普段着でくる道化師が
冬の虹マンタ来ている梯子乗り
桃啜る我がたてがみの衰えて


竹丸の雑談
竹丸が阿部先生を初めておめかかかったのは飛騨の勉強会でした。小太りの(失礼)体を浴衣に包み金子先生との夜の会でした。海程入会したばかりで、遠くから独特の韻律の作者だあーと密かにあこがれていました。

竹丸は、浦和カルチャーで金子先生に付いていましたが多忙な先生が急に辞めると宣言して生徒を他の先生に割りふった。私は違う結社の主宰を勧められ、3.4回続けたが何か違うと阿部先生に鞍替えした。

生徒は阿部先生にぞっこんの人たちばかりで句柄も面白く楽しかった。阿部先生は授業中、生徒の句に触発されると小さい手帳を広げ自分の句を作り出す。私たちはぽかんとして待った。阿部先生は助詞一つで生徒の句を見違えるほど良くした。うーん、言葉の魔術師と敬愛した。

しかし、竹丸もいつしかアペ調の韻律に染まり句も真似ばかりで影響大となり怖くなった。生徒たちも競ったように同じ傾向でした。それだけ影響を与える先生に怖くなり2年程でやめた。阿部完市先生は言葉の感覚が素晴らしい方でした。現在でも阿部完市氏のような独特の作家が現れていません。


人気の投稿