2017年2月19日

『俳句・短詩形の今日と創造』から旅の50句


*『俳句 短詩形の今日と創造』北洋社[1972年7月]1800円
俳句入門
1新しい美の展開、
2題材と言葉、
3描写からイメージへ
4俳句の形式とリズム
5存在の純粋衝動
俳句鑑賞 一般の句、中学生の俳句、一般の句

兜太・旅の句50
あおい熊釧路裏町立ちん坊         「北海道」
あおい熊チャペルの朝は乱打乱打
あおい熊冷えた海には人の唄
あおい熊毛蟹を食えば陰陰(ほとほと)
骨の鮭アイヌ三人水わたる
骨の鮭夜明けの雨に湖(うみ)の肉
骨の鮭湖(うみ)の真乙女膝抱いて
骨の鮭鴉もダケカンバも骨だ


人体冷えて東北白い花ざかり           「津軽半島十三港」
手を挙げ会う雲美しき津軽の友
津軽満月足摺り輪となりこの世の唄
海と陸の接部に影す人間ひとつ
鹿のかたちの流木空に水の流れ

無神の旅あかつき岬をマッチで燃し     「津軽半島竜飛岬」
乳房掠める北から流れてきた鰯
家合(いえあ)いに働く片腕潮漬け朝日
真昼の漁夫風にみがかれ隔絶され

風圧のわれよ木よ海に鱶の交 (こう)    「下北半島尻屋崎」
烏賊も若布も溶ける秋暑の海鳴りよ
海流ついに見えねど海流と暮らす
梨の木切る海峡の人と別れちかし

とび翔(た)つは俺の背広か潟ひとひら 「男鹿半島」
男鹿の荒波黒きは耕す男の眼

暗黒や関東平野に火事一つ      「秩父」
曼珠沙華どれも腹出し秩父の子
首に弁当秋の蜂など山が聳え
山なみのひと隅あかし蚕のねむり
白い便器に眼を剥き笑う谷間かな
霧の村石を投(ほ)うらば父母散らん

木曾の春夜白壁にふとわが影が   「木曽福島」
木曾のなあ木曾の炭馬並び糞(ま)る

海へ落石鵜が見るときは音もなく   「越前海岸」
風のなか姉妹の秘事も鵜の鳥も透く
姉いつか鵜の鳥孕む海辺の家
海の残響仲間も蟹も怨念まみれ
夜の蟹船(かにぶね)男ら酔いて放浪す

山上の妻白泡(しらあわ)の貨物船  「神戸」
朝はじまる海へ突込む鴎の死
豹が好きな子霧中(むちゅう)の白い船具
青年とシェパード霧ふる移民の沖
揉まれ漂う湾口の莚(むしろ)夜の造船

彎曲し火傷(かしょう)し爆心地のマラソン 「長崎」
華麗な墓原女陰あらわに村眠り
西の海に浮標浮く頭蓋より濡れて
司教にある蒼白の丘疾風(はやて)の鳥
海に出て眠る書物とかがやく指

緑の台地わが光背をなす五月
溶岩(らば)につづく緑野莫大なこの阻害
黒い桜島折れた銃床海を走り
     
花は苦しと火口が堡塁の少女期経て   「林芙美子句碑に」

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