2019年6月18日

『今日の俳句』金子兜太 


金子兜太 「俳句専念」から『今日の俳句』出版経過を転載

 光文社のカッパブックスの一冊として、『今日の俳句』を書いたのが昭和四十年。いままでの俳論の総まとめであり。しかも一般向けの入門書として、引用句をたくさん盛り込んで書いた。第一章が「新しい美の開花」。わたしの俳句人生の一路標である。

 その時期、日銀のほうは、為替管理法関係の許認可事務をやる管理係長に横すべりしていた。歳末もたいした事務はなく、係の人三人と生鯖を肴に痛飲した。わたしは鯖が好物なので大いに食べたのだが、すこし傷みもきていたらしい。元朝からひどい蕁麻疹にやら
れ、癒えたあとも風邪をひきやすくなって、喉が痛い。齢四十六歳、

この辺がタバコの止めどきとおもって、実行した。長年の猛煙のあとだけに未練がない。
それに、これで一生すえない、と悲観しないで、いつでもすえる、すうときは世界最高級のタバコを、と自分にいいきかせたのがよく効いた。いまではタバコをすっている人を見ると気の毒でならない。

『今日の俳句』を書いたのがその年だったので、タバコ代りに緑茶をがぶがぶ飲んだのがよかった。わたしの緑茶好きはそのとき以来で、コーヒーや紅茶、ウーロン茶より緑茶を好む。――なお、サブタイトルの「古池のくわび〉よりダムの〈感動〉へ」は、編集担当
の人が小用中に湧出させたもの。いまでは、「地球の〈感動〉へ」としたい気持だが、いわゆる高度経済成長への人口にあった当時としては止むを得まい。

 その出版記念会に、敬愛する詩人金子光晴氏が出席して下さったのは感激だった。しかし。氏は開口一番こういったのである。「敬愛す人には会わないほうがいいよ。会うとがっかりするからな」。 
                       
管理人竹丸の出版経過です

『今日の俳句』の出版について「ベストセラー全史」澤村修治史は、カッパブックスを出した光文社は新潮社の子会社で、弱小の出版社だった。
戦後最大の出版プロデューサーと言われた神吉晴夫は" 英語に強くなる本 で"ミリオンセラーをなった。
彼はベストセラー作法十か条で
・読者層の二十歳前後に置く。
・若い世代の純粋な感性に訴えるもの。
・この世で初めてお目に掛かったという新鮮な驚きや感動を伝えるもの。
・著者は読者のなかにもやもやしているものを形づくる役割を担う。と述べている。
当時の金子兜太は伝統俳句とは一線を画す俳句の書き手であり俳壇に新鮮に空気をもたらす存在だった。(竹丸)

『今日の俳句』 光文社カッパブックスのち文庫化 1965年9月]定価552円
 1・新しい美の開花 
 2・ドラム罐も俳句になる 
 3・描写からイメージへ
 4・五・七・五と「や」「かな」5・俳句は詩である
平成3年2月 知恵の森文庫で復刊   596円(税込)




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