2016年8月4日

東国抄 金子兜太 (2011年~2016年)


熊谷市 荻野吟子句碑は芥子菜の土手が見渡す限り続く階段の下にあります
2016年12月  東国抄305    金子兜太

(しし)も居てわが紅葉の暗みかな

秩父困民党ありき麦踏みの人ありき

魂のごと死のごと一団の紅葉

荒涼の晩秋の山蟹よ

被曝福島また津波あり青ざめて

福島や被曝の野面海の怒り

須賀川の火祭胡瓜食む我や


2016年11月     東国抄304    金子兜太

ひと日もよ白曼珠沙華黒揚羽

利根川に花野溢るる夜明けかな

老桜樹眼の前にあり冬眠す

谷間より魚の戯言妻恋いの

茫々と雪の吾妻山(あずま)よ離村つづく

枯原の土手確とあり被曝せり

雪曇り海鳴つづく離村かな


2016年10月     東国抄 303    金子兜太

  草田男頌 六句
わが師楸邨わが詩萬緑の草田男

草田男有り詩才無邪気に溢れて止まぬ

楸邨草田男わが青春のしづの女

季語を含む詩語よ最短定型ありて美(は)

草田男の自信満々季語に遊ぶ

草田男ありてジヨルジュー・ルオーが我に

井月よあくまで鶴を空に見し

2016年8.9月 東国抄 302    金子兜太

戦さあるな人喰い鮫の宴(うたげ)あるな

暑しと水暑しと笑いわが樹林

大きく真白く蘭の花咲く猛暑かな

亡妻の育てし蜩時雨かな

深海の巨大な蛸よ眠らんか

牛蛙からすみとんぼがこんなに居る

老いらくの恋などといま昼寝かな


2016年7月 東国抄301    金子兜太

黒猫の夏の落葉に頭掻く

鹿と人和し山影にありき

蝉時雨秩父の人の話し声

困民党ありき柿すだれの奥に

地蜂くる熊蜂がくる飯了る

臍の垢とるなとるなと夏雲雀

堀之内長一たんぽぽまみれかな


2016年6月      東国抄300        金子兜太

おうけつに しとしたそうな たぬきのこ

甌穴に尿したそうな狸の子

水浴びの子らの谷間の放射能

山百合咲く弱気の虫よさようなら

日本オオカミ復活せよと夏のわれら

初夏(はつなつ)の熊谷の野よ尿放つ

あーあーと美女健啖の夏なり

桑の実と蚕飼の昔忘れめや

2016年5月 東国抄299   金子兜太

花榠櫨貧しかり青春の故山

猪走り鹿走り入ら押し黙る

さくら咲くしんしんと咲く人間(じんかん)

旅も谷も花に埋められ孤の夜明け

真栄寺僧ふところに寒椿

枯蓮の夜闇に皓歯あられもなく

蛇穴を出づ鼠小僧の母の家

2016年4月 東国抄298   金子兜太

  熊谷市新地区三句

行雲流水蛍訪(おとな)う文殊の地

草莽の臣友山に春筑波嶺

荻野吟子の生命とありぬ冬の利根

白雪埋める被曝地帯の紅梅なり  福島を想う

青空に茫茫と茫茫とわが枯木   弟千恃他界

紅梅を埋めし白雪無心かな    妹稚木他界

猫の背に春の落葉の降ることよ

2016年2.3月 東国抄297   金子兜太

  朝日賞を受く(二句)
炎天の墓碑まざとあり生きてきし

朝日出づ枯蓮に若き白鷺

真栄寺僧ふところに寒椿

満天星紅葉亡妻はしやぐはしやぐかな

年迎う被曝汚染の止るなく

秩父巡礼穴を出た蛇ついてくる

蜘蛛の糸枯葉を吊し止まぬかな

2016年1月  東国抄296    金子兜太

流星の野面松風被曝の翳

わが武蔵野被曝福島の海鳴り

阿武隈の白鳥いかにさすろうや

秋刀魚南下す被爆被曝の列島へ

海鳴りなり秩父夜祭から帰る

五十銭の奢りの祖父と祭かな

鹿や猪やと昔海底の秩父

2015/12 東国抄295   金子兜太

福島病む吾妻山(あづま)白雪夜の声
質実剛健自由とアニミズム重なる
葭葦(よしあし)と牛蛙鳴く刈られゆく
朝狩(あさがり)へ渕の目玉の光るかな
山の友冬眠もなくひた老いぬ
秩父困民党ありき紅葉に全滅
  『波』記念号へ
羊村あり「波」の音きく日暮かな

2015/11  東国抄294    金子兜太

転た寝のわれに句を生む産土あり

被曝福島狐花捨子花咲くよ
覗く樹間に白曼珠沙華ふと居たり
白曼珠沙華白猫が居るぞ
わが面(つら)と曇天嫌いの彼岸花
人の暮しに川蟹の谷蛇渡る
この顔にいくたび会いし花野かな   俳誌「顔」へ


2015/10       東国抄293    金子兜太


  トラック島回想(五句)

飢えしときは蝙蝠食えり生きてあり
パンの実を蒸し焼く幸(さち)のわれらに無し
生きてゆく虚無グラマンの目の下で
百に近き島影とあり餓死つづく
狂いもせず笑いもせずよ餓死の人よ
夫一茶を梟と呼ぶ春の妻
朝蝉よ若者逝きて何んの国ぞ

2015/.8.9      東国抄292    金子兜太


峡に住み蝮も蠍座も食べる

集団自衛へ餓鬼のごとしよ濡れそぼつ
緑暗のガマ(地下壕)焼く火陷放射機なり
ハイビスカスの真紅の一花生きるかな
  「沖」誌四十五周年へ(三句)
能村登四郎ありき向日葵畑ゆく
曇天の星月夜なり人の息
眼を閉じても水光(みでり)の冬の家郷かな

2015/7   東国抄291    金子兜太


紅梅の青葉となりし一と笑い

牽強付会の改憲国会春落葉
白木蓮一花残して風の餌食
里山の野に蟹棲むと童唄
雲巨大なりところ天啜る
姥捨は緑のなかに翁の影
緑渓に己が愚とあり死なぬ

2015/6  東国抄290      金子兜太


茸狩る山を越えれば風の国

冬紅葉君満面の笑い顔
われ生きて猪の親子と出会うこと
片栗にとぐろを巻きし真蛇かな
母さんの涼しい横顔黒潮来
葭切が団扇祭りの酔い囃す
直実が団扇であおぐ猛暑かな

2015/5  東国抄289       金子兜太


大雪なり朝の雲ども夢のまにまに

青春の十五年戦争の狐火
  沖縄にて
相思樹空に地にしみてひめゆりの声は
蒼暗の海面(うなづら)われを埋(う)むるかに
洋上に硫黄島見ゆ骨の音も
歳を重ねて戦火まざまざ桜咲く
沖縄を見殺しにするな帛畆寿

2015/4 東国抄 288         金子兜太


鹿や猪やと起きては喋る鳥帰る

薄氷や和(わ)の国人(くにびと)に死を強いるや
陽のなかの春の枯葉を祝ぎいたり
小正月猪(しし)の親子に黄水仙
茫々と雪の吾妻山よ離村つづく
炭焼の人の赭顔も被曝せり
南溟の非業の死者と寒九郎


2015/2.3  東国抄 287     金子兜太  

 
産土の落葉ここだくお正月
人の暮しに星屑散らす枯野かな
小正月猫を労る星ありて
甲武を分かつ雁坂峠鹿越える
人ら老い柿黙黙と熟れて落つ
菅原文太気骨素朴に花ハツ手
困民史につづく被曝史年明ける

 2015/1  東国抄 286          金子兜太


十七歳でわれ産みし母寝正月

雑煮頬ばる母よ六人を産みて
麺棒が嫁入り道具長寿の母
雪雲の会津火祭の須賀川
火祭の胡瓜食むわれ童らと
枯原の土手確とあり被曝せり
雪曇り海鳴りっづく离村かな

2015年1月 新春詠 野に大河    金子兜太


野に大河人笑うなりお正月

初日出づ父の句にあり「去年糞」
漂鳥の被曝の人々米稔るに
遠く雪山近く雪舞うふたりごころ
生きて起きて冬の朝日の横なぐり
寒紅梅長寿の母に朝の唄
融けてゆくにこやかににこやかに斑雪(はだれ)
大雪なり朝の雲ども夢のまにまに
武蔵野に春の雪ちょう静寂(しじま)かな
猪もわれも命のかぎり眠るのです
(現代俳句に掲載されました)
2014年1月 東国抄277    金子兜太
初日出ず父往診の秩父谷
青春の「十五年戦争」の狐火
死と言わず他界と言いて寒九郎
河岸に居座り緑泥片岩冬眠す
白雪の吾妻山(あずま)遠目にふるさと去る
津波の翳夫妻を襲う冬の宿
満作につづく通条花の気息かな 

 2014年2/3月東国抄278    金子兜太
北武蔵野面の枯れに河の韻
遠く雪山近く雪舞うふたりごころ
起きて生きて冬の朝日の横なぐり
うわみず桜の根方猫の子集うところ
ボールペンときどき落とし冬眠す
養花天巨岩の照りを横にして
阿武隈山系被爆の人影に雪が 

 2014/5  東国抄 279    金子兜太 
背梁山脈狼囲む春の鳥
雪積めど放射能あり流離かな
黒文字の黄の花老年合唱団
雪の吾妻山(あずま)よ女子高校生林檎剥く
大雪なり朝の雲ども夢のまにまに
干柿に頭ぶつけてわれは生く
十羽ほど尾長きて春雪を航(ゆ)けり 


  2014/6 東国抄280    金子兜太
峡に生きああ対岸の桃の花
われに遠く鹿走りゆく家郷かな
山住みの向うの尾根に春の人
谷に猪眠むたいときは眠るのです
青だもの白花秩父困民史
われ歩む白木蓮散り敷きし地を
雲積めど放射能消えず流離かな

 2014/7 東国抄281    金子兜太
  村越化石他界
生きることの見事さ郭公の山河
穴を出て雪に出会いて頑固かな
亡妻の姉も逝きしよ通条花の里
津波跡鋭(と)き山峡の僧侶かな
融けてゆくにこやかににこやかに斑雪
牛蛙鳴かなくなりし無聊かな
放射能売り歩く人夏の鳶

2014/8.9 東国抄282    金子兜太
九条の緑陰の国台風来
サーフィンの若者徴兵を知らぬ
老年の奇妙な愛憎青葉騒
緑のなかへ老顔突込む梅雨(つい)りかな
夢に鹿老練の生なぞとありや
妻が愛せし黒猫シンよ暁暗よ
ひぐらしの広島長崎そして福島

2014/11東国抄  284   金子兜太
月に眠り紫苑に朝の眠り託す
生命(いのち)死なずと月下美人に呟く
岩陰に白曼珠沙華一遍行く
若者に集団的自衛権てふ野分
蛇穴へ美男に長生きは少ない
「大いなる俗物」冨士よ霧の奥
  
2014/12   東国抄285   金子兜太
枕辺の夜寒の瀞(とろ)を鮎おちる
秩父困民史ありき福島被曝史を
山畑に蒟蒻育て霧に寝る
秩父路の木槿と語る妻ありき
鶲来て昨夜(きぞ)の月影を啄ばむ
青春の「十五年戦争」釣瓶落し


雑煮頬ばる母よ六人を生みて

2013.1 東国抄266   金子兜太
 小沢昭一他界
正月の昭一さんの無表情
蛇穴を出て詩の国の畑径(はたけみち)
森汚れ海の歎きの山背吹く
夢寐襲う曽遊福島の被曝
人も山河も耐えてあり柿の実や林檎や
野に住みて白狼伝説と眠る
いびきなく小用は多し寝正月

 2013年2/3  東国抄267    金子兜太
平家蟹の顔の親しみ詩心激し(赤尾兜子を思う)
北武蔵雲行き人行き狐火も
鳴くに鳴けず雪ふるなかの百千鳥なり
人という生きもの駅伝の自ら息
とにかく生きると春の落葉に雪積らせ
白寿過ぎねば長寿にあらず初山河
隣りの家赫ッと陽当り実千両

2013年5月 東国抄269    金子兜太
満作咲き猪道をゆく人の声
花粉噴く杉の大樹と墓参かな
わが海市古き佳き友のちらほら
わが友よ春の嵐に子犬拾う
夜明けの夢川音花を散らすかな
渕走る蛇に夜明けの蚕飼かな
上溝桜(うわみずさくら)いつきに咲きて亡妻(つま)佇てり

2013年6月 東国抄  270 金子兜太
人声のしみる立夏の暑さかな
夜明けの灯宇宙飛行士の影も
花は葉に鹿撃たれ谷川に墜ちる
即身佛の誰彼(だれかれ)あやめ咲きにけり
 アマゾンに鰐ありわが庭に土竜
 牛蛙腰のふらつく月日かな

2013年7月 東国抄271    金子兜太
緑陰に津波の破船被曝せり
秩父谷(だに)朴咲く頃はわれも帰る
嘗つて海底(うみそこ)秩父に育ち鰯面(いわしづら)
山葵田を眺めることも生きること
棚にタオル薔薇無雑作に床にかな
科(しな)の花かくも小さき寝息かな
海市に見ゆ大型テレビの踊り子たち

2013年12月東国抄 275    金子兜太
腰弱くなり神無月歩く
晩秋の無為の瀬音に目覚めけり
山径の妊婦と出会う狐かな
緑泥片岩河岸に据り冬眠す
谷間より魚のだわ言冬眠す
谷ふかく夜明けの鹿の交尾かな
遠離る鮎掛の人故山かな

2012/1 東国抄256 金子兜太
列島沈みしか背ぐくまる影富士
海に月明震度加わり初景色
被曝福島米一粒林檎一顆を労わり
有るまじき曽遊の地福島の被曝
冬の緑地帯風評被害の風音
セシユウムのかの阿武隈(あぶくま)河の白鳥か
復興へ破船人影(ひとかげ)冬の松

2012年2月 東国抄257   金子兜太
武蔵野に雪富士われにわれの若さ
雪の富士雪の浅間と頬に閲(せめ)ぐ
雪の外輪雪の浅間の裸形(らぎょう)も立つ
樹相確かな林間を得て冬を生く
関東平野に空ら風わずか今日もわずか
孫二人智(とも)の桜厚(あつ)の紅梅
戦友の南部の姉帯(あねたい)春成るや

2012年6月「海程」 東国抄260 金子兜太
    蓮田双川他界
野に泉味わえば渋し鋭し
長寿の父母の筋骨頂き麦青し
地震の恐れの東京は御免(ごめん)熊ん蜂
バラ咲きぬ長寿無用と長生きして
われに近付く五月の猪(しし)の親子かな
チューリップ畑の少女煎餅噛む
森林汚染ひろがる夏潮のみちのく

2012年8.9月 東国抄262    金子兜太
 小堀 葵他界
楊桃の小堀葵と思いきし
梅雨出水苛(いじ)めとは卑劣の極み
老梅の実の落つ呆れるほどの数
新聞紙夏の狐へとんでゆく
河現われ緑林つづき夢に入る
帰るなり蜂眼前をほしいまま
 辺見じゅんさん昨秋九月二十一日他界
じゆんさんのいのち玉虫色にあり

2012年11月東国抄  264  金子兜太
日本オオカミ復活せよと玉蜀黍(もろこし)噛む
不思議なほど雲は動かず晩夏かな
咲きてあり原曝の地の野萱草
老人舗道に溢れ残暑を動きおり
慈悲心鳥老人殖えて喋るかな
九十代が普通となりて酔芙蓉
歳経れど葡萄もトマトも口に溢れ

012.12 東国抄265  金子兜太 

山影(やまかげ)に人住み時雨恋うことも
霜の影人影(ひとかげ)に濃し山暮し
山影に人住み狼もありき
山影に人あり鹿を撃ちて食(た)ぶ
山影ゆく小学生に雨の粒
狼と人和すことも情念なり
山影情念狼も人も俯伏き

2011年 新春詠  『冬眠』  金子兜太

今を生きて老い思わずと去年今年
今年寅年と呟きて入歯磨きおり
去年今年生きもの我や尿瓶愛す
小学六年尿瓶とわれを見くらぶる
比叡の僧霧に鹿呼ぶ仕草して    
南を限る山脈(やまなみ)に風蚕飼おわる
泣く赤児に冬の陽しみて困民史
渺たるよ炒飯と赤ワインの夕餉
牡蠣にレモン今日の鴉の声高し
冬眠の蛙芭蕉に風邪薬



2011年12月号 東国抄255   金子兜太
一老生かさんと釣瓶落しに医師たち
東京暁紅ひたすらに知的に医師たち
暁声春なり吾を見守れる声も
知の若さの医のなかにいて寛ろぐ
野糞を好み放屁親しみ村医の父
剛の村医の眼光清潔餅搗き唄
風評汚染の緑茶なら老年から喫す

2011年11月号 東国抄254   金子兜太
今も余震の原曝の国夏がらす
被曝の牛たち水田に立ちて死を待つ
平凡な都市緑陰に僧構(かま)える
蝉時雨きつねのかみそりの居場所
一室に徹底の人寝待月
検査入院名月が待っているとは
長江に映る灯を名の妹死す

2011年10月号 東国抄253    金子兜太
   東日本人震災(三句)
「相馬恋しや」入道雲に被曝の翳
水田地帯に漁船散乱の夏だ
燕帰る人は被曝のふるさと去る
しかし死なずと青春ありき青蜥蜴
おしいつくみんみん狐のかみそりも
海に月明対岸に人々のことば
くちなしや蛙とび込む人の家

2011年7月号 東国抄251    金子兜太
津波のあとに老女生きてあり死なぬ
放射能に追われ流浪の母子に子猫
三月十日も十一日も鳥帰る
燕や蝉やいのちあるもの相和して
秩紅に山羊連れて少女期の亡妻(つま)が
秩父暮れやすし山樅魚に東一華
栗の花好きで喋って疲れすぎて

2011年6月号 東国抄250    金子兜太
東一華咲きしと酔い覚めの男
鳥帰る天明飢饉の碑の産土(うぶすな)
山光を島帰る放射能まみれの空
山峡は暗し白鳥は来ずと婆
親しもよ猪紙る僧の頭
宇宙人のごとしよ山椒魚の卵

2011年5月号 東国抄249    金子兜太
     高橋たねを他界      
流氷の軋み最短定型人(じん)
    峠 素子他界
冴えて優しく河原の石に峠素子
狼が笑うと聞きて母笑う
味噌玉転がる隣の山羊が来るぞ
口臭の君よペンギンの群固まる
紅梅に白雪罪罪と野の始まり
鳥帰る猫の子歩く子馬跳ねる

 2011年2.3月号 東国抄 247 金子兜太
少年笑い少女振向く初笑い
青年に職なし老人ごまめ噛む
空つ風来ずなりし関東平野かな
朝日のなかで生牡蝸食べて野に暮らす
糞尿愛好症とかや寒九郎
山国や手の甲に越冬の亀虫
紅葉に日矢不意に来る者の親しさ

2011年1月号 東国抄 246 金子兜太
お遍路の玉蜀黍で巫山戯合う
妻と見ていた原郷の月曼珠沙華
小鳥来て実験棟群に銀鈴
いのち問われて十六夜を過ごす
立待や自然死なら何時でも宜し
病床に寝待の月の面影追う
更待を竜胆の無表情と過ごす

2016年8月3日

「俳句は人間を詠うもの」 金子兜太


「わたしの骨格自由人」 金子兜太 インタビュー 蛭田有一 NHK出版

―ひらめいてから俳句が完成するまで、どのくらいの時間がかかりますか。
 
 さまざまですわ。その場でできる場合があります。時間がかかる場合もあります。例えば、具体的な例を引くとわかるかな。 「彎曲しか働し爆心址のマラソン」という長崎でつくっ穴句の場合なんか、社宅の、公舎といったらいいな、そのそばが爆心地なんですよ。

わたしは、「短歌研究」という雑誌から原爆の句をつく゜でこいと言われたんですよっ早速つくれとハッパをかけられて、暇があれば歩き回ったんです。

 そうしてるうちに、谷間のようなところですが、山の向こうからマラソンの連中が走ってくる、そして爆心地に入ってくるっ途端にみんな焼けたれて体が歪んでぶっ倒れでいくヽ彎曲し、火傷し、爆心地、、いう映像が出できたんですよ。さでこれをどう俳句にしようかと考えたら、なかなかできなかった。やっぱりヽ現地を歩き回っていればできるだろうという期待感があって、毎日歩きました。

そうしているうちにヽ三日ほどたったか、夜、苦し紛れに字引を繰っていたんです。そうしたら「彎曲」という言葉が目に入っ穴っ途端にパッとできた。そして「彎曲し火傷し爆心地」、あの句ができたんです。

映像ができるのに若干時間がかかるけれども、映像が国まとまり文字になるのに、やっぱりある程度の時間がかかる゜そういう体験はずいぶんありますね。

 それから、「酒止めようかどの本能と遊ぼうか」なんて、あんなのは俳句かどうかわかりませんけれど俳句だとして、あの場合は咄嗟にできました。痛風で、酒をやめろ、肉をやめろと言われた、さでどうしようか、と思った途端にパッとできた。いろいろ場面によりりますね。

東国抄 金子兜太 (2004年~2010年)

東国抄は海程に掲載されています

2010年12月号  東国抄  245  金子兜太
    
    慶庖病院に一か月入院(五句)
    一遍忌われに月照の幾夜
    竜胆に星の眼眠る夜明けかな
    水澄みし野に諧謔を得て帰る
    秋の蟹ひかりのなかに脳の中に
    皮膚病みて腰萎えて望月と過ごす
     上林 裕他界
    残暑酷し他界の友よ木蔭を行け
     松滓 昭他界
    引つぱつて震わせて山の男の月の唄

    2010年11月号  東国抄  244  金子兜太
     「飴なめて流離悴むこともなし」(楸邨)
    飴なめて師の流離あり敗戦忌
      小林とよ他界 
    亡妻と同学の親(しん)蝉しぐれ
      森 澄雄他界
    堪えて堪えて澄む水に澄雄
      山川緑光句集に    
    北の夏空緑光笑う直(ちょく)にて新
    数人のおとな立つてる夏の土
    鬱にして健健にして鬱夏のおでき
    北信濃つくつつみんみん鳴くことよ

2016年8月2日

『短詩型文学論』 紀伊國屋書店 (岡井隆と共著)

*『短詩型文学論』 紀伊國屋書店 (岡井隆と共著) [1963年7月] 定価250円
短歌論-岡井隆  
韻律論をめぐる諸問題・俳句論-金子兜太 
1・はじめに 2・ 個性し詩性 蕪村の評価を追って 
3・写生 視ることの意味 4・描写 その意味の変遷 
5・描写 その意味の進展  6・ 表現 その状況
7・表現 思想性と抒情  8・表現 抽象と具象 
9・表現 韻律


短詩型文学論復刻版  2007.6刊 紀伊國屋書店1944円
本書は、短歌と俳句の世界における最も革新的な作家による本格的な短詩型文学論として、多大の反響をよんだ紀伊國屋新書版『短詩型文学論』に、両著者の新たな序文を付して刊行する新装版である。短歌論は「うたは究極のところ、しらべに帰着する」という直観のもとに、意味のリズム、視覚のリズム、句わけなど韻律論を中心にすえ、言語学、音楽理論等の成果を批判的に援用しつつ、実作者の卓見に満ちた精緻な論が展開される。俳句論は、「俳句はわが国短詩形文学のなかでも最も短い定形式の詩型であるということ、そのことが特色のすべてである」という認識のもとに、写生における視ることの意味、描写の意味の変遷とその技法の進展、表現における思想性と抒情、抽象と具象の問題、又、韻律の重要性等が的確に考察される。

【目次】(「BOOK」データベースより)
短歌論ー韻律論をめぐる諸問題(短歌を短歌たらしめるもの/等時拍リズムの干渉因子/第二のリズム因子/いわゆる五・七調の検討/母音律の導入/母音律説のための二、三の検証/視覚のリズム/短歌における定型の機能ー「期待」の美学の再検討)/俳句論(個性と詩性ー蕪村の評価を追って/写生ー“視る”ことの意味/描写1-その意味の変遷/描写2-その技法の進展/表現1-その状況/表現2-思想性と抒情/表現3-抽象と具象/表現4-韻律)/総括のために

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