2016年5月9日

兜太句を味わう 「朝寝して白波の夢ひとり旅 」

2011年刊 海竜社1300E
第1章 俳句と遊ぶ<春夏秋冬・暮らしの1句>
第2章 人間にこだわる<人間のおもしろさを読む句>
第3章 いのちをいたわる<生きものをうたう句>
第4章 自然を直に感じる<日本の風土・再発見の句>



朝寝して白波の夢ひとり旅        金子兜太

 ここ数年、細君が右腎摘出手術を受けたあと自宅療養しているため、旅はいつも一人である。そんなとき、ずっと以前に、たまたま一人で若狭に旅したときのこの句を思い出している。


 若狭の旅は春も終りのころだった。民宿は狭い湾のなかにあり、風の強い囗で、夕方着いてから寝るまで窓に白波が見えていた。朝ゆっくり眠っているあいだの夢にも白波。起きたときも、昨日に変らぬ白波だった。

 朝寝は春の季語。春眠あかつきをおぼえず、につづく朝の眠りである。これは、よく眠れる者にはそのまま受取れる季語だが、細君のように眠りに苦労する者には、別の内容をもっている。そのことをおもうのである。

 細君の場合は、夜十時ごろ床について、うとうとと二時間ほど眠る。目がさめたあと、夜明けまで眠れないのでラジオをきくことが普通で、早朝の講話で気持が安らぐことしばしばとのこと。それが済むと二度目の眠りに入って、二、三時間は眠る。これが朝寝である。四季には関係のない、救いのような眠りなのだ。

 しかし、初めから眠れないこともあり、朝寝となる二度目の眠りがうまくいかないこともある。双方が駄目なときは、一日いらいらしている。

 そんなことを一人旅の寝床でおもっている。この句の白波が誘う旅情とともに。

金子先生は、布団の中で句を考えるそうですよ。思考するのに適した場所は、乗り物、厠、枕の上と良く言いますね。

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