2016年8月3日

東国抄 金子兜太 (2004年~2010年)

東国抄は海程に掲載されています

2010年12月号  東国抄  245  金子兜太
    
    慶庖病院に一か月入院(五句)
    一遍忌われに月照の幾夜
    竜胆に星の眼眠る夜明けかな
    水澄みし野に諧謔を得て帰る
    秋の蟹ひかりのなかに脳の中に
    皮膚病みて腰萎えて望月と過ごす
     上林 裕他界
    残暑酷し他界の友よ木蔭を行け
     松滓 昭他界
    引つぱつて震わせて山の男の月の唄

    2010年11月号  東国抄  244  金子兜太
     「飴なめて流離悴むこともなし」(楸邨)
    飴なめて師の流離あり敗戦忌
      小林とよ他界 
    亡妻と同学の親(しん)蝉しぐれ
      森 澄雄他界
    堪えて堪えて澄む水に澄雄
      山川緑光句集に    
    北の夏空緑光笑う直(ちょく)にて新
    数人のおとな立つてる夏の土
    鬱にして健健にして鬱夏のおでき
    北信濃つくつつみんみん鳴くことよ



    2010年10月号  東国抄  243  金子兜太
     無言館にて(五句)
    無言館泥濘にジャングルに死せり
    裸身の妻の局部まで画き戦死せり
    無言館幽暗の床に枯松毬(かれまつかさ)
    館の外山蟻黒揚羽無言
    山百合群落はげしく匂いわが軽薄
     立岩利夫他界
    蝉時雨真面目真顔のままに老いて
     林 唯夫他界        
    湖国に病みて長かりき直(ちょく)なりき

    2010年8.9月号  東国抄  242  金子兜太
    車窓に近く夏の山国の人たち
    少年ありき楊梅(やまもも)のここだくありき
    蜥蜴走るやはり楊梅の方へ
    小学生に田植えの時間われ眠る
    乾く乾く地面(じづら)も皮膚もでで虫も
    野萱草鳥の目もわが眼もここに
    この車輛子ども五月蝿い梅雨出水

    2010年7月号  東国抄  241  金子兜太
     井上ひさし他界
    白鳥去り野道とぼとぼわが一茶 
     橋本土好子他界
    疳高い電話の声よ遠桜
     やまびと
    養花天山人蟹を探しおる
    散ることなし満開の桜樹に寝て
    とねりこ咲き亡き妻の眼鏡が光る
     伊勢志摩にて(二句)
    俯伏せのわれに海光花は葉に
    島の校長背高訥弁海苔が好き

    2010年6月号  東国抄  240  金子兜太
    わが新月傾ぶきて春の尾根照らす
    ふらここが亡妻(つま)の向こうで揺れている
    竹藪に覗くよ幼き日のふらここ
    全山の雑木芽ぶきて無邪気かな
    裏山に花粉吐く杉君臨す
    黒文字に黄の花されば黄の濃さよ
    花は葉に人声虫の声ほどに

    2010年5月号  東国抄  239  金子兜太
     日野原重明氏と対談(三句)
    明るさよ薄氷の街大股に
    青き踏む明快に歩きて止まず
    白寿越えて紅梅木五倍子咲くままに
      川崎展宏他界
    冬樫の青しよ展宏の笑顔
    雑木林に手指屈伸の春だ
    山羊と遊ぶ狸もありて遍路行く
    春の駅一人の声が馬鹿でかい
    2010年4月号 東国抄  238  金子兜太
    武蔵野にわが卒寿あり寒紅梅
    マスクのわれに青年疲れ果てている
      五獣奏(五句)
    わが虎の秩父遍路のあと深酒
    わが猪の猛(しし)進をして野につまづく
    わが狼朝ごと音痴の唄唸る
    わが犀のにこり振向く霜野かな
    わが羊毛深かかりしがいま乏し

    2010年2.3月号 東国抄 237 金子兜太
    去年今年生きもの我や尿瓶愛す
    冬眠の蛙芭蕉に風邪薬
      秩父盆地皆野小学校はわが母校。そこを訪ねて尿瓶を語る(五句)
    後輩と尿瓶に冬のひかりかな
    小学六年尿瓶とわれを見くらぶる
    山枯れて女子小学生尿瓶覗く
    小学生尿瓶透かして枯山見る
    われの尿瓶を噴ぎ捨てにして無礼かな

    2010年1月号  東国抄 236  金子兜太
     秩父にて(五句)      
    眼の奥に陽光溜めて猪(しし)撃たる
    泣く赤児に冬の陽しみて困民史
    朝日迎えて僧とその妻むかご炊く
    樹頂にとまる冬陽老友耳達し
    二日泊りてさるとりいばらの実とも話す
    白障子海迫り上るそして去る
    比叡の僧霧に鹿呼ぶ仕草して

    2009年12月号  東国抄 235  金子兜太

      比叡山にて(五句)
    学僧の風呂場にいとど無言なり
    修行僧鹿走る影を記憶とす
    遊行聖に秋の湖光の奢りかな
    露の野を女人闊歩し且つ轉び
    あけぴの実最澄に似た人の手に
    念彿衆稲穂の谷に紛れけり
    語り過ぎて臍(ほぞ)をかむなり敗戦忌
    2009年11月号  東国抄 234  金子兜太
    青葉木菟職失いし人ばかり
    仰向けに眠る裸に青胡桃
    濁声の旅人毛虫むくむくゆく
    竹林を出れば白雲曼珠沙華
    稲穂の村猫は撮(つま)まず抱き上げる
    敬老も誇老も燕帰る頃
    稲稔り奇声とばして人暮らす

    2009年10月号  東国抄 233  金子兜太 
    黒揚羽の訪れ多し牛蛙
    まだ蟻に会わぬと思い夢寐にあり
    遊民を嫌う棟梁星迎
    玉虫も髪切虫も夢の奢り
    夏山を人影移り生臭し
    朝食べるバナナ亡妻笑いおる
    名月や来し方語り語り過ぎる

    2009年8.9月号  東国抄 232  金子兜太    
     南部の国山法師街角に真白(ましろ)
    定住漂泊メモばかりして青葉漬け
    青菜重なる蚊が殖えた猫の糞も
    光浴びて眼底検査夏つばき
    細雨頬へかの遺言へ姫柚子へ
    ひとり昼の会席食べて白雨かな
    笙の銘は交絵丸(まじえまる)なり緑叢なり

    2009年7月   東国抄  231   金子 兜太
    戦さあるなと逃げ水を追い野を辿る
    みちのくに来て切株と草餅
    花片栗ゆっくり行けば智慧が出る
    黄のタオル春陰三日ほどつづく
    東一華と僧が呟く妻は亡し
    子どもに髭歯科いっせいに夏の花
    睡り埋める夏草の鮮訪うべくも

     2009年6月  東 国 抄 230    金子 兜太
     緑泥片岩春の蛇来る愛籠めて
     秩父国民党ありき蚕飼を急ぐ家
     のつそりと山霊逃水の河原
     大学生みなつぶやきて春の霧
     青年あり髯大切にえご咲かす
     五月来るこめかみ頂丹田洗礼す
           (こめかみは漢字です)
     鳥躍るわれも青嵐のなすまま

      2009年5月    東 国 抄 ・ 229    金子 兜太
      阿部完市2月19日他界(2句)
     完市よ菜の花も河津桜も雨
     河津桜も我も濡れいし暗雨かな
     水鳥すべて池心に向う何の予感
     水鳥に石放うらんとして耐える
     山峡に月の出待ちし少年ありき
     面倒くさいと言う癖つきてとんど焚く
     失業し春の鴉の森にいる
 
     2009年4月  東 国 抄 ・ 228   金子 兜太
     初富士と浅間山(あさま)の間青し両神山(りょうがみ)
     三日吹いて北西すべて雪山なり
     一茶もわれも世紀跨いで寝正月
     息子夫婦に身柄預けて初日記
     枯芝に母と赤ん坊ごろごろす
     祖母ありき飲食(おんじき)お喋り日向ぼこ
     独り者殖え冬園にカイト飛ばす

     2009年2.3月 東 国 抄 ・ 227  金子 兜太
     床の間に大蜘昧垂れて羽黒山(はぐろ)なり
     ふと立ちてあと影ばかり冬白波
     声美し旅の隣の姫始め
     夜の車窓を枯草ばかり群れて過ぐ
     三の灯やがて無数の寒灯(かんとも)し
     梟鳴く猫とび上るただそれだけ
     果てしなく枯草匂う祖国なり

     2009年1月    東 国 抄 ・ 226    金子 兜太
     粋がって生きております笑初
     寒喰と土竜打して加齢かな
     両眼にときどき鴉声実千両
     海際ばかり明るき伊豆の菊膾
     狐狸走るこの山が暖かすぎて
     食べすぎて川風寒き寡住〈やもめず〉み
     寒露の地に頷く芭蕉いのち短か

2008年10月 225    金子 兜太

 雁〈かりがね〉に真葛刈られて岩ばかり
 通草笑む牛笑うごときかな
 赤ん坊山法師には代緒の実
 縁ありてわが枕頭に兜虫
    比叡山にて(三句)
 最澄作薬師如来に木の葉髪
 回峰修験鹿の影湖影のなかに
 俳句仲間も僧侶も歩く鹿の山


2008年8・9月 224    金子 兜太
古代なり令法の花に熊ん蜂
 正面に自さるすべり曲れば人
 稲妻形に飛び立ちし鴫夢に
 灯にわずか揺れる寒天食べておる
 地を叩くよう鴉鳴く夏だ
 遠稲妻宵寝のあとの曇り空
 ばさばさと尿瓶洗えば草ひばり

 2008年7月 223    金子 兜太
 昭和通りの梅雨を戦中派が歩く
 梅雨の街青年狂となり潰(つい)ゆ
 雨期の戦場雑踏の街日暮かな
 山法師散乱の日苞に雨情
   蕉翁に
  脳天や雨がとび込む水の音
 この夏森南中の蠍座を蔵す
 外は緑林と恩いつ朝の元気かな

  2008年6月 222    金子 兜太
    高野山(五句)
 山も谷も若葉が埋める空海なり
 椎の花山盛り上げて高野なり
 金剛三昧院石楠の花は智慧だ
 わが夢寐に石楠の花厚く溜る
 いま石楠の高野その名の人も居て
  黒川憲三他界(二句)
 薄く口噤じ寛ぎの顔朴の花
 稚気もありき日光山塊梅雨曇る

 2008年5月 221    金子 兜太
 峠越え野に春眠をむさぼりぬ
 枕に亀虫朝から人は走るなり
 花のあと魚影限りなく海に
 萌黄山喚くもありしょんぼりもあり
 鳥の巣より高き人の巣留守勝ちに
 禁煙マークに頭ぶつけて八十八夜
 其角に句あり「かたっぷり酒の肴に這せけり」
  蛇も住む其角の庭のエスカルゴ
      
 2008年6月 220    金子 兜太
 手毯唄人は人影地に置きて
 利根川(とね)越えてわが面(つら)叩き北風はしる
 仏門に次郎直実寒牡丹
 青饅に調子外れの演歌かな
 飢えの語に身震いするよ春鴉
 明けの荒星人喚く声泣く声
 細腰で巨乳の君よ子持鯊

  2008年5月 219    金子 兜太
 何に開眼しかし開眼実千両
 空っ風わが面(つら)叩くときに撫でる
 木菟や野の風と陽溜りの余韻
 都市の各所に冬の群集猥雑なり
 母よりのわが感性の柚子熟るる
 樹幹重なる向う雛祭の君ら
 片目に鷹片目に訝しき女子(おなご)

  2008年4月 218    金子 兜太
 ふっくらと泳ぐジュゴンや春曙
 春の海ジュゴン恋しやほうやれほう
 ジュゴン恋うはわれのみならず春日影
 お遍路やジュゴンにつづく海がある
 アボリジニ跳び込んで抱きつくジュゴン
 誕生も死も区切りではないジュゴン泳ぐ
 今日までジュゴン明日は虎ふぐのわれか

  2008年2・3月   東国抄217  金子兜太
 ブーメラン亡妻と初旅の野面(のづら)
 人と同居の狼ありき若水汲む
 猪(しし)眠る水たまり枯葉一つ
 冬眠の地上狐の親子かな
 ここから覗く河原の陽ざしやがて霧
 湯面(ゆおもて)に浮くほどの乳房白鳥来
 冬眠の戦さするものなどいない

 2008年1月    東国抄216   金子兜太
 新月に浴後の躯一つ曝す
 月日の麻痺の癒えゆく顔にかな
    京都嵯峨野(四句)
 天龍寺の東司にはしゃぐ旅の秋
 ほのと紅葉し小倉山あり男四人
 苔守る人ら白鳥渡る気配
 晩秋の竹林青し木賊青し
 去年今年男根ゆれて精おぼろ

 2007年12月    東国抄215   金子兜太
 囲を張りて蜘味の元気や誕生日
 月の客白曼珠沙華老梅樹下
 山芋掘る麓に牛や豚遊ぶ
 母若しすがる少年は白露
 殺意なしと人殺すなり昼の虫
 尿意怺えて孤のときもあり晩夏光
 時雨の音に勝る川音と暮す

 2007年11月    東国抄214   金子兜太
 青胡桃逢いたい人がやってくる
 なめくじり麻痺の瞼がふと動く
 きぬぎぬなどと愚の骨頂よ朝ひぐらし
 蝉時雨夢ばかり見て朝寝して
 政治家が喋り疲れて青蛙
 大航海時代ありき平戸に昼寝して
 山芋掘る足下はるばる遍路道
                                 
 2007年10月    東国抄213   金子兜太
 沖縄忌遠泳の潮に透く二列
 天空遥かへ仰向けに寝て時移す
 竹薮にあふれる螢火肘枕

 螢火もろとも竹薮動く他郷かな
 死火山の草焼くはるばると東国
 山霧の触感もあり螢狩
 父の日のわれら途方もない草山

 2007年8.9月    東国抄212   金子兜太
 しーと川音花の触れ合う音かとも
 源流の廃屋埋む諸葛菜
 街は土砂降り山に蕨ら首振りおらん
 口まげてくしゃみするとは浅はかなり
 禿頭に淑女の灸や山法師
 雨の地下道五月が終るだけのこと
 鼻光る真顔の男熱帯魚
          
 2007年7月    東国抄211   金子兜太
 言霊の脊梁山脈のさくら
 信濃や讃岐の人来る萌黄山深く
 遠桜あり僧うどんすすりおり
 源流や子が泣き蚕眠りおり
 生きるなり草薙走る山楝蛇
 春蘭けて巨幹見つめて麻痺癒す
 顔半分灸をすえられ五月かな

 2007年6月    東国抄210   金子兜太
 ぽしやぽしやと尿瓶を洗う地上かな
 鰤起し熊や猪(しし)山並みに飢えて
 オリオン南中教師も母も寒むそうに
 蜃気楼旅人にフリーターも混じり
 子馬が街を走っていたよ夜明けのこと
 諸葛菜猫が猫背で往き来して
 梨の花麻痺で曲つた顔曝す

 2007年5月    東国抄209   金子兜太
 医師もいて涙の話し寒紅梅
 夜明け目覚めて白梅紅梅集めけり
 薄氷の教師薄氷の母たち
 食べ残すことになじまず青饅食ぶ
 初花や麻痺の右顔は固蕾(かたつぼみ)

 眼つむれば白く陽当り北帰行
 「活きて老いに到る」とは佳し青あらし

 2007年4月    東国抄208   金子兜太
 孤独死の象や鯨や正月や
 いのち気軽に尿瓶と暮らす河豚食べて
 海鼠に酢われに褌 関わりなし
 涙について眼科医語る妙な熱気
 暖冬の竹幹に無数を睨む
 温める白狼伝説寝正月
 肥溜めに冬の花火の映りしこと

 2007年2.3月   東国抄207   金子兜太
 枕抱き猥歌いくつか寝正月
 ほぐれゆき渡り鳥みな落着いた
 際(き)りもなく薯食う関東流れ者
 貧しさはそのまま流浪猪眠る
 後の月トイレは四角且つひとり
 宵に寝て寒涛の無数を見つむ
 食べすぎて俳句が出来ぬ寒九かな
 
2007年1月    東国抄206   金子兜太
 一日中光り貪り夜長かな
 うろつく猫にこらこらと言う天高し
 晩秋の腹にひと粒虫刺され
 車間縫う青年のバイクの夜長
 くらげの海人もさまよい始めたり                
 食われつ放しの鮪や牛や人間や
 アスファルトを漂うくらげ去年今年

2006.12月   東国抄205
宵闇の海洋深層水と老童
昨夜(きぞ)は十六夜舞茸天ぷら絹かつぎ
稲稔る寝屋に一抹の人影
ビル街に白木槿フリーターのように
秋照りの湖よ土の香の最澄
紫苑に人々比叡の雲をみな見ていた
一遍忌はわが誕生日おはぎ二つ



2006.11月   東国抄204
頂上はさびしからずや岩ひばり
蝉がこんなに出て鳴く寺を猪(しし)歩く
夏の鹿夕日が月のごと赫く
法師蝉黄揚羽に会い挨拶す
凌霄花うらみつらみの一とくさり
露舐める蜂よじつくりと生きんか
虚も実も限無(きりな)く食べて秋なり

2006.10月   東国抄203
合歓の花君と別れてうろつくよ
牛蛙男日中(ひなか)の握り飯
ごうと黒南風禿頭ほどほどの湿り
  宗左近他界(2句)
緑樹が埋める宙に左近の足の裏
縄文の蝉が詩人の腹の上
   浜崎敬治他界(2句)
清潔な文字の連なり夏の文(ふみ)
緑原に雲映す川静かな意志

2006年8.9月  東 国 抄 202
眼の前に尾灯息白しいのち
遊雲いずれも山に宿りて妻は亡し
曇ってくる里山神楽妻問いに
ビルとビル繋ぐ人声(ひとごえ)春鴉
朴咲けり朝から旧き恋歌ばかり
柿若葉海光とどく頭(ず)や虚し
下手な考え休むに似たり蛍の夜

2006年7月    東 国 抄 201
春の朝陽に額に紅し妻亡きに
仮寝の夢に桜満開且つ白濁
春のこの峡若き日の亡妻(つま)橋の上
野火橋を一気に焼けり人の死も
橋越えて猪去る亡妻(つま)の仕草も去る
優しさに気力健(したた)か涅槃西風
人影も引鶴も橋上のまぼろし

2006年6月   東国抄200
金子皆子夫人逝去、楷の木がとてもお好きでした
 金子皆子逝く(7句)
春の庭亡妻正座して在りぬ
花を恋い楷を愛して春を眠る
カリン(漢字)蕾み梨花咲き妻を迎えおり
どれも妻の木くろもじ山茉萸山帽子
亡妻いまこの木に在りや楷芽吹く
妻病みてより大山蓮華咲かずなりぬ
瀬を早み朴の花ゆく帰らない
(パソコン上表記できない文字は書き換えています)

2006年5月号   東国抄199
枯橋に星降る夜を春という
橋上にかりかり囓る春の氷
狐火へ村人丸木橋架ける
おたまじゃくし見ていて眼科医と話す
十分前朧の街を歩いていた
橋上春雲糞尿は縁起もの
春の峡空に橋浮く生きてこの世

2006年4月号  東国抄198
 戦あるな白山茶花に魚眠る
 繭玉や脊梁山脈に風雲(かざぐも)
 枯谷ゆく生死一如には未だし
 ふるさと秩父眼(め)科医歯(は)医者に白山茶花
 龍の名の炭焼きありき今も在る
 三が日山芋すすりやまぬかな
 
 2006年2・3月  東国抄197 
 雑煮食ぶ暦年齢(こよみねんれい)は虚なり
 地震(ない)のとき躯もたげて寝正月
 蔓うめもどき輪にしてぶら下げ禅僧来(く)
 気余りて誤字誤読大き秋なり
 冬紅葉新(しん)枯れやすししかし新
 去年今年国会議事堂に餓鬼(チルドレン)ども
2005/12 196

父の好戦いまも許さず夏を生く
陽がさせばまた蝉の声山の民
人々に蜩落ちてばたばたす
青栗に玉虫とまる仮諦(けたい)かな
蝉宇宙山の向こうに北西風
わが修羅へ若き歌人が酔ってくる

東国抄 2005/11 195
  知床半島にて(6句)
昼三日月オホーツク太平洋と別る
温泉(いでゆ)の瀧カムイワッカに昼三日月
日本最北東端にあり昆布干せり
光苔つばめの巣あり誰もいない
風倒木牧牛に人の子が走る
いのちといえば若き雄鹿のふぐり楽し

東国抄 2005/10 194
テロの世にしろじろと雨鉄線花
つと起きて鼻毛茂れる薄暑かな
   都井岬にて(三句)
霧の海ひつそりと春情の野生馬
蘇鉄雄花野性馬の男根のごとく 
屋久島かすかに見える岬に飛魚(あご)食うぶ
久に長崎爆心部に雷雨そそぐ

東国抄 2005/8・9  193
寒鮒にかこまれている宵寝かな
女の子可愛し五月蠅しリラ祭
春光漆黒わが堂奥に悔の虫
大山蓮華咲きたり青大将小屋に
心太真っ暗闇を帰り来て
  岐阜県兼山町に句碑
城山に人の暮しに青あらし

東国抄 2005/7 192
新緑に白波真人は鈍し
足投げだし両手を捨てて春眠す
 熊澤さとし他界 (2句)
君の庭雪の旦暮と母のことば
君に来る谿の雪光遠荒波
  木村牛人他界(2句)
君の絵に新緑の声牛人亡し
牛人に伊那路の井月花かたくり

東国抄 2005/6 191  
産土の欠伸の空の揚雲雀
わが胸に芽木赤らめり生きてあり
春秋や緑泥片岩に狐
野に眠る陽炎とともにいる時間
朝寝してふと突出の岩頭(いわがしら)
仲間若しよ声嗄れ鳥に春の荒瀬

東国抄 2005/5   190 
来るものを見詰めて暮す余寒かな
東京駅怒鳴る男と寒卵
凍蝶の雲散霧消夜明けかな
煤逃のわれ追いかけて白鳥来
恋猫の白〈しろ〉わが庭を侵犯す
わが庭の茜浄土に猫の恋

東国抄 2005/4   189  
  母百三歳にて他界(六句)
母逝きて風雲枯木なべて美し
母逝きて与太な倅の鼻光る
冬の山国母長寿して我を去る
北風の訪れ減りし亡母〈はは〉いかに
珍しや耳霜焼けて母の死後
母の歯か椿の下の霜柱

東国抄 2005/2・3   188   
いびきなる韻律ありて夜永かな
山法師紅葉せりいま届く日矢
山法師紅葉せり醉うて寝たか
夜空より蚕飼の屋根に鶴降り来
鼬走る額秀でし山の人
十二月二十二日豊山千蔭一年祭
心眼もて風土に生きて千蔭の忌


東国抄 2005/1 187  
みちのく曇る青葉潮も来ている
置いた眼鏡に蜥蜴来るなり鮮やかなり
東国なり蜘蜂の巣だらけで庭歩けぬ
死者は生者を煩わさずと月下美人
秋晴の水光(みで)りの近江戦さあるな
ふと覚めて燕の帰る寺にあり

東国抄 2004/12 186  
癌と同居の妻に太平洋は秋
民主主義を輸出するとや目借時
螢火や人の眼の茫と哀しき
ゆつくりと飯噛む天道虫と居て
走らない絶対に走らない蓮咲けど
どくだみにタオルの落ちし夜明かな


東国抄 2004/11 186    
      原子公平死す (五句)
 黄揚羽寄り来原子公平が死んだ
 炎昼の茶毘白骨となり現(あ)れしよ
 炎暑の白骨重石のごとし盛り上る
 炎昼の友の白骨は気なり
 「夕べに白骨」などと冷や酒は飲まぬ
 奥能登の一と夜山法師に囲まれ


東国抄 2004/8・9  184
  今秋刊行予定の金子皆子句集に寄す
闘病の気韻の花びらを積みて
ここだくの柚子の口付け風呂の中
穴惑吾を訪ねきて歎く
紅梅二樹満開の曇天と暮らす
押し突きの力士桐の花了る
藻の揺れに呼ばれ麦秋の日本海


東国抄 2004/7  183 
文債を積み込み朝寝へと船出
曇る日は連翹ことに顱頂に染む
濛然と枯木手を伸べわれを待つ
里山の春の祭の人の黙(もだ)
人に執し土に執して穴を出づ
川岸に泣く子数人蚕飼時(どき)

東国抄 2004/6 182 
天つ日へ鴉騒ぐぞ草餅食べろ
春闌けて尿瓶親しと告げわたる
雛冷えて人の白ら息外(そと)通る
いのち確かに老白梅の全身見ゆ
   北野凡他界
亡き友と鵜飼の川の冬ざれに
整体を受けていた飛田勝雄氏他界
陽と囀りと一と日の奢り人逝くに

東国抄 2004/5 180
川渡る蛇を愛せり昼闌けて
眠る男に女もたれて寝正月
  豊山千蔭他界
冬日かく明るし全盲の人逝きしに
薄氷に米国日本州映る
むささびの骸陽晒し旅長し
うーうと青年辛そう日向ぽこ

東国抄 2004/2/3    179  
月光に木は葉を捨てる冷まじや
けけけくくくと子どもが笑う白鳥来
頬に張りつく黄葉喜ぶ旅にあり   
大枯野寺は臍なり利根川(とね)は帯
畸俗は貴族と一人笑いのお正月
定住漂泊冬の陽熱き握り飯

東国抄 2004/1   178
秋潮諸(もろ)に顔打つごとし平戸なり
鹿の声朝光やつと顔にとどく
少年老ゆ懸巣も百舌も鳴くわいな
山重なり人は赭顔に紅葉どき
風速を愛す日の鷹見上げては
男の児(こ)われ母よりいただきし餅肌
 

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