2015年8月19日

兜太句を味わう「麒麟の・・・」「黒部の沢・・・」


麒麟の脚のごとき恵みよ夏の人           兜太
きりんのあしの ごときめぐみよ なつのひと

孔子によって編まれた極東最古の詩集『詩經』のなかの「國風」〈黄河流域を主とする北方各地方の歌、いわば民謡を集めたもの〉に引きつけられ、六十六歳のとき、これに刺激されてできた句をまとめて同名の句集を出した。この句、「麟の趾よ/振振たる公子よ
/于嗟麟号」(きりんの足よ。〈そのように〉めぐみぶかいわがきみたちよ。ああきりんよ。「吉川孝次郎注」)を下敷に発想したもので、「夏の人」は、夏の開放感のなかにある人よ、君等は、の気持ち。小生の造語。 
                         (句集『詩經國風』)


黒部の沢真つ直ぐに墜ちてゆくこおろぎ     兜太

黒部峡谷を対岸から見上げると、高い崖の傾斜を、蛇が逆さに這っているように、細い沢が谷間に向かって長々と走っていた。白いのは水が流れている証拠でそれが妙に美しく無気味。そしてそこを大きなこおろぎのようなものが、黒くおちてゆくのである。無論幻視錯覚のたぐいなのだが、初めて黒部峡谷に入ったときの、黒部との初見の印象がこれだった。                  
                           (句集『猪羊集』)
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