2015年8月1日

金子兜太句集『早春展墓』


 第5句集 『早春展墓』  金子兜太
早春展墓』発行1974年7月25日初版 
句は花神社コレクション「金子兜太」から


   旅!北海道・九句
あおい熊釧路裏街立ちん坊
あおい熊チャペルの朝は乱打乱打
あおい熊冷えた海には人の唄
骨の鮭アイヌ三人水わたる
骨の鮭湖(うみ)の真乙女膝抱いて
骨の鮭鴉もダケカンパも骨だ
馬遠し藻で陰(ほと)洗う幼な妻
アイヌ悲話花野湖水の藻となるや
海とどまりわれら流れてゆきしかな
    旅ー北陸・五句
冬の旅立ち醜男(しこ)醜女(しこめ)の窓越えて
海へ落石鵜が見るときは音もなく
姉いつか鵜の鳥孕む海辺の家
雪の海底紅花積り蟹となるや
夜の蟹船男ら酔いて放浪す
光のなかに腕組むは美童くる予感
蝉の山やがて透明な穢(え)のはじまり
白い便器に眼を剝き笑う谷間かな
    山峡賦・八句
山峡に沢蟹の華(はな)微かなり
旅の女の戯(ざ)れ唄しばし夏の後(あと)
影ばかり脊梁山脈の獅子舞
暗い電車にいくたびか会う酔後
暗窓に白さるすべり隂(ほと)みせて

南窓く雉も少女もいつか玉(いし)
魚のまぶたの山ひだに浮く冬の花火
鳥に食われぬ先に無花果喰う暁闇



 海程同人 安西 篤 (金子兜太句集より転載)

付・解説(「魚の瞼―金子兜太『早春展墓』解題」塚本邦雄)
総頁42頁、判型・B5判、造本・並製機械函入、発行1974年7月25日初版、発行所・湯川書房、限定300部

早春展墓』は、『暗線地誌』以降約二年間の作のなかから
91句を収録 したもの。前句集同様主題別連作のかたちをとっており、旅吟が多い。全 体は五章に分かれるが、章の中でさらに主題が細分化する傾向もみられる。

解説を書いた塚本邦雄は、「光のなかに腕組むは美童くる予感」を取り上げ、この一連
九句を「巻中の白眉」としてその美意識を称えている。

しかし今日もなお高く評価されているのは、
「あおい熊チャペルの朝は乱打乱打」
「骨の鮭鶴もダケカンバも骨だ」というような斬新な旅吟であった。兜太の旅吟はこの句集で評価が高まったとみてもよい。  

 

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